第8話  ハーレム勇者 勇者、もてまくる

 サイトウはマルガリータ姫に公国の再興を約束した。

 もちろん、サイトウは勇者だ。決してマルガリータ姫の捨て身の報酬に目がくらんだわけではない。世界の平和を考えての行動である。

 ちなみに結婚の約束は、リッチを倒すまでは2人だけの秘密である。

「明日からリッチ退治だ」(キリッ!)

 サイトウは両手を組んで枕にして、そう思わず口に出した。そんな自分がいかにもかっこいいと思ってしまっている。

(さて、リッチ退治はいいけど、ジャスティたちをどうするか。俺一人で乗りこめばそれで終わりだけど、マルガリータちゃんも付いてくると言ってるし、彼女の護衛役もいるよな)

 ベッドで仰向けになり、そんなことをぼーっと考えていると、ドアがトントンと鳴る。先ほど、マルガリータ姫と結婚を約束した時間から1時間は経っている。夜中というところであろう。

「誰?」

「ジャスティだけど」

「ジャスティ?」

 こんな時間に女戦士の訪問だ。きっと、リッチ退治に連れていけとか、作戦会議だとかだろう。勝気な彼女の態度ならそうに違いない。

「入っていいよ」

 そうサイトウが言うと、ジャスティが意外な姿で現れた。白いシーツに包まっている。

「ジャ、ジャスティ……その格好は?」

「ル、ルミイがやっと寝たので来たんだ……その……あの……」

 昼間の勢いがなくてなぜだかとてもしおらしいジャスティ。これが妙に可愛い。

「で、な、なんの用なの?」

「そ、それがだな……どうもおかしいのだ」

「おかしい?」

「そ、そうだ……今日の戦闘でケガをしたのかもしれないのだ……」

「ケ、ケガ?」

「そ、そうケガ……かもしれない」

 そう顔を赤らめるジャスティ。その意味深な姿にサイトウも心臓がドキドキしてしまう。

「ケ、ケガなら、ルミイの魔法で……痛いの?」

「い、痛いというか……恥ずかしくてルミイには言えないのだ」

「は、恥ずかしいって?」

 ジャスティもサイトウのベッドへ上がってくる。先ほどまでマルガリータの匂いがかすかにする部屋に、今度は野性味あふれる褐色の肌を晒すジャスティ。

「お、おまえのことを考えると、なぜだか心臓が痛いんだ」

「し、心臓が痛い????」

「こ、これなんだ。ちょっと、触ってみてくれないか?」

 そう言って体に包まったシーツを広げる。なまめかしいシルエットが月明かりに照らし出され、褐色の肌も映える。なんとこの勝気な女戦士は、上半身は生まれたままの姿。そして、ジャスティは固まっているサイトウの手を取って、そっと自分の胸に添えた。

「そ、どうだ、心臓が高鳴っているだろう?」

「あ、ああ……かなりドキドキしているね」

「あ、あの……その……お前に告白したいのだが……」

「は、はい?」

 ちょっと声が裏返るサイトウ。先ほどマルガリータ姫に求婚されたばかりなのに、この女戦士の可愛らしくも大胆な行動に頭が真っ白になっている。

「あたしと付き合って」

「???」

「あ、あたしをお前の彼女にしてということだ」

「か、彼女?」

 ぐいぐいと迫るジャスティ。今までこんな強引に告白された経験のないサイトウ。いっぱいいっぱいになって、どう返事をしてよいのか分からない。 

「なあ、いいだろう?」

 サイトウの目を覗く込むようにしたジャスティ。その目は真剣だ。サイトウは思わず頷いた。先ほど、マルガリータ姫の求婚を承諾したことなんか忘れてしまっている。

「わあ、うれしい」

 ジャスティは目を閉じた。サイトウは流れに身を任せた。

 告白をオッケーしたサイトウ。当面は2人の関係は公表しないということにした。ジャスティが恥ずかしいから、ルミィにはまだ言わないでくれと言ったからだ。

「ふう~。疲れた~睡魔が~」

 サイトウは泥のように眠った。添い寝をしていたジャスティは、朝が明ける頃に部屋に帰って行った。サイトウは夜明けの薄暗い窓を薄目で見る。

(実にいい気持ちだ……朝方のこういう時間は最高……うっ……)

 サイトウは違和感を感じた。下の方に誰かがいる。そっと毛布をめくる。

「んんん……サイトウさん、お目覚めですか?」

 そこには露わな姿の女神官が。

「と、ちょっと、ルミイさん、一体、何をして……うっ……」

「ほほほ……サイトウさん、何って、神のご加護による浄化ですわ」

「こ、これが……浄化?」

「そう浄化です。どうやら、不浄がサイトウさんの身にこびりついています。今晩、きっと2匹のサキュバスが現れたのでしょう」

「サ、サキュバス?」

 いや、それは絶対ない。昨晩の相手は公女マルガリータに女戦士ジャスティである。昼間の清楚な涼やかな目の女神官が淫らな光を宿している。

「サイトウさんはじっとしていてください。今から浄化の儀式です。清らかな神官による儀式ですわ」

「ぎ、儀式?」

「この儀式をすると、あなたは私の思い人、信仰のパートナーとなるのです」

「信仰のパートナー?」

「はい。女神官が愛し、身を捧げる対象ですわ」

 くすくすと悪戯っぽく笑うルミィ。昼間の清楚な感じとは違う。まるで小悪魔のような仕草であるが、それがたまらなく可愛い。

「女神官って、身を捧げるのは信仰する神様に対してじゃないの?」

「違いますわ。女神官は神に遣わされた勇者様に捧げるのです。さあ、わたしと契約を」

 ルミィは目を閉じた。その誘惑に抗えないサイトウ。

「ルミィさん」

「うれしいですわ、サイトウ様」

 サイトウは女神官ルミィと契約した。信仰のパートナー契約である。まあ、下世話に言うと彼氏と彼女の関係である。

 ルミィからもまだ2人の関係は公にしないでと言われて、サイトウは承知した。先ほど、婚約と告白を承諾したことを忘れてしまっている。

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