第10話 イケメン五本指の分かりみが強くて幼馴染が尊い
こんにちは。
まったく自覚はありませんが、陰キャ王子あるいは先輩と陰でもっぱら呼ばれている中津洋太です。
いま、俺は暗い体育倉庫の中で、手と足を荒縄で縛られています。
なかなかこれ、本格的なプレイの感じの奴です。
ドS仕様の一品です。
こんなものが本当にこの世界に存在するだなんて、俺は今日まで知りませんでした。きっと漫画の世界だけのものだろうと、そんなことを思っておりました。
格子窓から差し込む光。
四時過ぎのまだ十分に明るいそれを背中に受けて、こちらをまるで豚か鶏でも見るような目をした女がいます。
黒髪のポニーテールに氷像のようなつるりとした冷たい顔立ち。
男の俺よりも高身長をした彼女は、制服プラス黒タイツだけというシンプルな格好にも関わらず、痺れるようなどエスみを放っていました。
思わず目覚めてしまいそう。
「汚い視線を向けるな。貴様は万年発情期の駄兎か」
黒タイツ。
デニールが大切だそうだが、俺はタイツ専門家じゃないので分からない。
しかしながら、絶妙に肌の白みが透けて見えるそれは、生足の魅惑を補強して余りある恐ろしいエロスを帯びている。
見るなと言う方が無理だ。
男子高校生には毒。
そして、ローアングルからの眺めは絶景。
やむなしである。
そんな見事な黒タイツが、鞭のようにしなったかと思うと俺の身体を打つ。
背中。
尾てい骨の当たりを痛烈に打ち抜いたそれ。
スナップがしっかりと聞いたタイツキックは、俺の身体に上下左右と痺れるような痛みを生み出した。
そう、上下左右に痺れが走る。
すると、フレミングの法則により――。
「……なんだ、勃起しているのか」
「……違う!! 電流の方向に力が生じただけだ!!」
「……意味が分からん」
「あぅぅうぅぅうぅうぅ!! やだぁ、キルヒホッフの法則まで発動しちゃうのォ!!」
おいなりさんという抵抗に等しく刺激が流れちゃうのォ。
らめぇ。
やめてぇ。
こんなことされたら目覚めちゃう。
そんな俺の心の慟哭などまったく無視して、女は何度も何度も俺の身体に、容赦なくタイツの鞭を浴びせかけたのだった。
彼女の名は――知らない。
まったく知らない。
誰だこの人は。
ほんと知らない人である。
放課後。
今日は部活も休みだから、志穂と一緒に帰るとしよう。
帰りにクレープ屋にでもよって、仲良し幼馴染イベントを発生させつつ、好感度を上げようと考えていた矢先。俺はこの女に、陰キャ王子だなと呼び止められ、振り向きざまに首筋に手刀を受けて昏倒した。
そして気が付けばこの通り。
エロ漫画のようなことになっているのである。
もう一度言おう。
エロ漫画のようなことになっているのである。
誰か分からない女に拉致されて、体育倉庫でなんかいたぶられているのである。
くそっ――。
「陰キャ姫だったら需要はあるかもしれない。けど陰キャ王子じゃ需要ないよ」
「この期に及んで何を言っているんだお前は」
「どういうつもりなんだ!! お前!! いったい何が目的なんだ!! 確かに俺は不本意ながら、陰キャ王子と呼ばれている男!! しかしながら、こんな風に荒縄で縛られて、体育倉庫でいたぶられるような、腐女子専用オスではないぞ!!」
みぞおちに入るするどいタイツキック。
あっ、これは普通にいたぶる感じじゃなくて、イラっと来て放った感じの奴だ。
なんか彼女の気に障っちまったみたいだ。
そして今更ながら俺は理解する。
この目の前にいる女性は、どうやら俺の運命の女王さまではないということに。
なんというか、ここ最近というものモテ期来ているなという感じの展開に、今回の拉致られシチュエーションも、きっとなんか俺の陰キャ王子パワーが働いて、新たなヒロインの登場的な話かと思っていた。
けれども違った。
これ普通に怖い話の奴だ。
金銭あるいは私怨による拉致監禁的な奴だ。
ついさっきまで、そういうプレイもありかなとキルヒホッフとフレミングに震えていた俺の身体。しかし、真実を知ってしまった今、唐突に熱力学第二法則により俺の身体からそういう感情が失われていくのを如実に感じた。
誰。誰なのこの女。
怖い。助けて、王子さま。誰でもいいから、助けに来て。
って、俺が陰キャ王子でしたわ。
ちくしょう、なんてこったい。
「まぁいい、お前が我が校のイケメン五本指の第二位陰キャ王子で間違いないな」
「陰キャ王子というのは認めます。けれど、イケメン五本指というのは知りません」
「……知らんのか?」
「はじめて聞きました!! なんですかそれ!! そんなのあるんですか!! 彼女にしたい女子ランキングと、美少女ランキングは知っていますけど、イケメン五本指というのは初めて聞きました!!」
男子が女子のランキングを作っているように、女子も男子のランキングを作っているということだろうか。そして、意外と俺はなんかすごい位置にいるんだな。
やるじゃないか陰キャ王子。
学年二位か、校内二位か気になるところだが、やるじゃないか陰キャ王子。
陰キャ王子だって、やればできるんだ。
なんか具体的にやった覚えは少しもないけれど、やれば二位になれるんだ。
世は、陰キャ時代。
陽の者どもの好きにはこれ以上させない。
「まぁ、同時に陰の者ランキングとコミュ障の者ランキングの一位でもあるがな」
「……それ、もしかして、イケメンランキング二位と相殺される感じですか?」
「残念ながら彼氏にしたいランキングからは除外されている」
「無念!!」
イケメンでも彼氏にはしたくないタイプに分類されているのか。
見ているだけでいい感じのイケメンに分類されているのか。
割とそういう、友達としてならアリだけれど、恋人にするにはナシみたいな、そういうキャラ付けは漫画とかでありますけど、俺もそれという訳ですか。
ダメじゃないか、陰キャ王子。
もっと頑張れよ陰キャ王子。
彼氏にしたいランキングに入らないから――志穂だって俺のことを異性として見てくれないのだ。
きっとそうなのだ。
「まぁ、その辺りは七尾と同じだから、あまり気にするな」
「七尾? ちょっと待ってください、貴方は志穂を知って――へぶっ!!」
「無駄な質問をせずに、聞かれたことだけに答えろ」
いいなと黒タイツ女は俺を睨みつける。
彼氏にしたくない感じの目で俺を睨みつける。
あ、これ、絶対にもう逆らっちゃいけない感じの奴だ。俺の女王様ではないけれど、生まれついての女王さま的な人だこの人。
はいわかりましたと短く答える。
よろしいという感じで頷いた、名前も分からぬ黒タイツの女王は、近くにあったマットの上にしゃなりと座った。
さりげなく組み替えた足がこれまた強烈にセクシーだが、今はこの場をなんとか生き延びるために、ぐっと我慢した。
あ、けど、黒タイツいいな。
今度、志穂に穿いてもらおうかな。
いやけど、黒タイツ穿いてってそれは流石に変態っぽいかな。
幼馴染でもちょっと許されない、ギルティな要求かな。
「私が聞きたいのはただ一つ、イケメン五本指についての情報だ。お前が知っている、イケメン五本指についての情報をすべて詳らかに話せ」
「待ってください!! イケメン五本指なんて今日はじめて知ったんですよ!! それなのに、知っていることを全部話せだなんて!! そもそも、イケメン五本指とは誰なんですか!! そのメンバーを教えていただけないことには、俺も答えられません!!」
「……本当に何も知らない駄兎だな貴様。しかし、一理ある」
ならば教えてやろうと目を伏せる黒タイツ女。
どうやら彼女の目的は俺以外のイケメン五本指にあるらしい。
むぅ、第二位の俺を差し置いて、この女王様をその気にさせるとは。そのイケメン五本指もやるではないか。
さては、第一位の者だな。
まさか、第三位・第四位の者に負けたとか、そういうのはない方向で頼む。
だってプライドが傷つくから。
下位の者に負けるとか。プライドが傷つくから。
彼氏にしたい男ランキングからは除外されているけれど。
「一位は我が校の生徒会長、舞浜敬一。まぁ、こいつはがんばって陽の者を演じているけれど根がどうしようもなく陰の者の小物なのでどうでもいい」
「一位が恐ろしくおざなりにどうでもいい扱いされましたね」
「二位はお前こと陰キャ王子だが、私の好みではないからどうでもいい」
「面と向かってどうでもいいと言われるの結構きついですね。これももしかしてプレイの一環でしょうか」
「三位はお前の友人にして野球部次期主将の時田仁」
「ちょっと待ってください、このランキングがばがば過ぎでは?」
俺とトッキーが入っている時点でなんかおかしい気がする。
集計方法、なんか間違っていない?
どう考えても入る訳ないでしょ、俺たちのような陰の者が。
というか、一位から三位まで、もれなく陰の者じゃないかよ。どうなってんだよ。陰の者来ていると言ったのは俺だけれど、本当に来ているんじゃないよ。
第二位にランキングしていてちょっと嬉しく思った俺だけれど、その顔ぶれが今の所無残すぎて、ちょっと素直に喜ぶことができないよ。
陰の者ランキングなんじゃないのこれ。
実質陰の者ランキングなんじゃないのこれ。
いや、まぁ、イケメンランキングだ。
彼氏にしたい男子ランキングじゃない。
イケてるメンズかどうかだけだから、陰キャかどうかは関係ないんだろう。
そして、俺はそちら――彼氏にしたい――のランキングには入っていないから、整合性がとれないこともない。
うん。
たまたま陰キャが強かった。
きっとそれだけだろう。
まぁ、トッキーはないと思うけれど。アイツ、陰キャの上に童貞だからな。
俺も童貞だけれど、アイツは手の付けられないモンスター童貞だからな。
俺だったら、イケメンランキングにも彼氏にしたい男の子のランキングにも、絶対にあいつの名前は入れないわ。
トッキーだけはないわ。
ありえないわ。
「ちなみに、時田は彼氏にしたいランキング五位にギリギリ入っている」
「……どうして!!」
「明乃と付き合っているということがそれほど周知されていないからな。しかし、陰の者ランキングでも、コミュ障の者ランキングでもお前に肉薄しているのに、たいしたものだと思うよ」
「やめて聞きたくない!! ほぼ互換スペックなのに、圧倒的な差があることを見せつけるのやめてください!! 死んでしまいます!!」
「……お前が聞いたんだろうが」
ずるいよトッキー。
あんな厨二病やらかし荒ぶる童貞ナイスロマンティックムーブかます癖に。なんでしれっと女子から支持を取り付けているんだよ。
それがなくても普通にきつい性格をしていて、同性から煙たがられているっていうのに。
どうして、どうして――。
「大丈夫か? 肉親でも殺されたような顔しているぞ?」
「……自分の中のモンスターを抑えることができそうにありませんよ!! 納得できません!! こんな結果!! 不本意です!!」
「まぁ、そう言うな。人生いろいろ。男もいろいろだ」
「……ちくしょうトッキー!! 覚えていろよ!! 一人だけモテモテとか、そういうの女の子が許してもこの俺が許さないんだからな!! 全陰の者に変わって、友人である俺がお前の横暴を止めてみせる!!」
「うぅん、この鈍感力。聞いてはいたが、いざ目の当たりにすると強烈だな」
強烈で結構。
陰の者の力を舐めてくれるな。
そして、トッキー。同じ陰の者といえども許すまじ。
同じ陰の者として。そして友として。
俺がお前の暴挙を止め――へぶっ。
「まぁ、時田もどうでもいい。流石に私も悪い先輩をする気はない」
「……うぅっ、黒タイツ!! ありがとうございます!! けど、そっちのペースで話すのやめてくださいませんか!! こう、俺にも燃え滾る使命感というか、少年漫画の主人公的なノリというか!!」
「いいから、次だ。次は――そう、第四位だ。いいか、第四位だぞ。まったく、なぜ第四位なのか分からない。アイツを差し置いて、後輩のお前たちがランキングが上というのがそもそもどうかしていると私は思うのだが」
「……いきなり多弁になりましたが、第四位の方が好きなんですか?」
殺気。
ほんのそれは一瞬の事だった。
まるで鶴が背伸びをするように高く黒タイツが天に伸びたかと思えば、黒タイツ女の瞳に赤い殺気の光が宿っていた。
口の端からは漏れだす空気は、夏だと言うのに白んでいる。
冷たいのか、熱いのか。
なんにしてもヤバいのは間違いない。
これはダメだ。
喰らったらありがとうございますとか言って楽しむ余裕のない奴だ。
余計なことを言ってしまった。
頭の中を走馬灯が走る。
思い出すのはどれもこれも、愛しい志穂とのひと時ばかり。
あぁ――。
「……最後に、志穂の黒タイツが拝みたかった!!」
「だっはー、暑い暑い。おーい、七尾ちゃんやい。ここに放り込んどけばいいのかい。このバレー部の備品とやら」
「すみません藤原先輩。本当ならバレー部が自分でやらなくちゃいけない仕事なんですけれど」
「いいってことよ。まぁーなんだ、可愛い後輩の恋人と幼馴染が居る部なんだから。俺も先輩として放っておくわけにはいかないしな――って、おろ?」
処刑執行その寸前。
人の声がしたかと思えば、体育倉庫の扉が開く。
陽光と共に入って来たのは制服姿の男女二人。
そのどちらにも俺はよく見覚えがある。
一人は、もはや語る必要もないだろう、今日も超絶眩しいマイサンシャイン、俺の幼馴染の志穂である。
そして、もう一人は――。
「藤原キャプテン!! キャプテン藤原!! 男藤原辰之進パイセン!!」
「そう、俺こそが藤原辰之進!! 男らしいことだけが取り柄!! 守備も打撃も作戦立案もてんでダメだが、人をその気にさせることについては一家言ある男!! 生まれついてのポジティブムードメーカー!!」
その存在だけでチームの士気が三割増し。
ここぞというタイミングで、まったく根拠のない男らしい台詞を吐き出し、やる気という名のバフをかけるムードメイクの魔術師。
まごうことなき我が野球部が誇る陽の者にして、みんな大好き我らがキャプテン。
野球部現主将、藤原辰之進先輩だった。
どうして、彼はバレー部がいつも練習で使っていると思われる、ポールを担いで現れた。
制球力もなく、打撃センスも壊滅的、肉体だけは仕上がっているが感覚が運痴過ぎてから周りの藤原パイセン。
しかしながら、そこはやっぱり男の子。
そして困っている人を見捨てられない快男児。
きっとその言葉の通り、バレー部に頼りにされて運ぶのを手伝ったのだろう。
男だ。
これぞ男だ。
間違いない。
アンタが一番。ドキっ、男がときめくナイスガイ。
女子供がどう言おうと関係ない。
間違いなく、男が選ぶ男の中の男。
多くの男が夢想する、かくあるべしとの理想像。
男が惚れる男とはこういうことを言う。
そう、もしもあるなら間違いなく、男が付き合いたい男ランキング絶対一位。
野球部主将、男藤原辰之進先輩だった。(二回目)
「うわぁあああん!! 藤原パイセン!! 俺、俺、汚されちゃったぁーっ!!」
「おう、どうしたどうした中津!! わっはっは、こんな所で会うなんて珍しいこともあったもんだな!! しかし、汚れちまったってのはいったいどういうことだ!!」
「そこの、そこに居る黒タイツがよく似合う女に身体を縛られて!! それで、あんなことやそんなことや、とても言えないどエロい凌辱を!!」
「……縛られてねえじゃん?」
はて。
気が付くと俺を縛っていた荒縄は、まるで最初からなかったみたいに消えていた。
マジック。
あるいは催眠術。
もしくはおおいなるどっきり。
分からない。ちょっと目を離した隙に、俺の腕に絡まっていたはずの荒縄が――まるでエロ漫画みたいに俺の身体を拘束していた荒縄がなくなっていやがる。
この世界はまさか、俺が認識していなかっただけで、異能系の能力バトルが横行する、なんかそういう感じのアレで、縄の存在自体がなかったことにされたのか。
くっ、なんにしても――。
「本当なんです!! 信じてください先輩!! そこの黒タイツ女が!! 黒タイツ女がアタイの純潔を奪おうと!!」
「おっ、なんだ冷泉じゃんか!! お前もバレー部の備品整理か? 今日は練習休みだってのに、熱心だな!! だはは!!」
黒タイツ女に気さくに話しかける藤原パイセン。
あれ、これ、普通に知り合い的な奴だ。
けど藤原パイセンだめだよ。
そんなまるで俺たち後輩に話しかけるような、軽くてフレンドリーなノリが通じるような相手じゃないよ。
この女、イケメンランキングがどうとか言って、俺を拉致監禁するようなクレイジーサイコパスなんだよ。
そんなサイコパスになれなれしく話しかけちゃダメだよ。殺されてしま――。
「……奇遇だな藤原。その、バレー部の備品整理を手伝ってくれていたのか?」
「おう!! 中津の幼馴染の七尾ちゃんに頼まれてな!!」
「……すまない。いや、かたじけないというべきか」
「なーに、良いってことよ!! 俺にできることは、こういう力仕事と、人をその気にさせることだけだからよ!! いやほんと、運痴ってのは陰キャよりも厄介だぜ!!」
「……そんなことはない。お前のひたむきさとその笑顔に救われる人間は多い」
「うれしいこと言ってくれるじゃないのよ!! 流石は大和撫子の生き字引、三年生美少女ランキング一位と呼ばれる冷泉だな!! 男の立て方が分かっていやがる!!」
んっ、んっ、んー?
あれ、これ、なんだこの打って変わった黒タイツ女の反応。
まるでこれじゃ藤原パイセンの言う通り、大和撫子ではないか。
陰の者でありながら、陽の者の作法を弁えている高度な存在。
大和撫子ではないか。
勝手に人のことを拉致監禁して、イケメンランキング四位の者の情報を聞き出そうとする、ヤベー思考とヤベー行動力を持った、ヤベー女だろう。こいつは。
というか――。
「……藤原。すまないが、他にもまだ運ばなければならないものがあるんだ。手伝ってくれないだろうか?」
「おう任せろ!! 俺は女の頼みはどんなことだろうと断らない主義だ!!」
「……頼りになるな」
「存分に頼れよ!! 頼られれば頼られるほど、俺は頼りになるぜ!!」
「……ふふっ。無茶苦茶なことを言う奴だ。しかし、事実頼もしい」
完全に恋する乙女の顔をしている。
さっきまで、キリングマシーンのような瞳をしていたくせに、ほわわんと柔らかいタッチの瞳になっていやがる。
ほんでもって、血の通っていない白磁のような顔をしていたはずなのに、今はすっかりと頬に紅が差している。
なんてことだ――。
「もうお察しだと思うけれど」
「……志穂!!」
「校内イケメンランキング四位にして、陽の者ランキング不動の一位。彼氏にしたい男子ダントツ一位とは藤原先輩のことよ」
「……いや、うん、いや、うん。そうだろうけど。そうだと思ったけれど。いや、男の俺が認めるほどに、藤原先輩は確かにいい男だけれど」
けど、それにしたって。
黒タイツの女、露骨に態度変え過ぎじゃない?
え、なに。
恋する乙女は何をしても許されるにしても、限度ってモノがあると思うのだけれど。そういうの結果としてよくないと思うのだけれど。
秋田さんといい、黒タイツ先輩――もとい冷泉先輩といい。
「女の子、怖すぎなんですけれど?」
「女の子は恋をすると、幾つも顔を持つようになるのよ」
まじかー。
そんなものなのかー。
女の子ってこんなものなのかー。
うん、イケメンランキング二位とか言われて浮かれた自分が居たけれど、もはやそんなのどうでもいい。陰キャ王子とかいうあだ名に、浮ついていたけれども、それもまた関係ない。
女の子なんて信頼できない。
「……やはり、俺にとって信じられるのは幼馴染の志穂のみ!!」
「……ところで洋太ぁ。冷泉先輩の愛の鞭は気持ちよかったかしら?」
これくらいバレてるくらいがちょうどいい。
俺のちょっとのっぴきらなくなっていた股間に向かって、氷のような笑顔を向ける志穂に、俺はふっとニヒルな表情を返した。
股間のそれをくいっと腰と共に引く。
「なにぶん、初めての体験だったからな。よければ、今度志穂にもやってもらいたいものだ。そうすれば、気持ちいいのかただ痛いだけなのか分かるように」
「や・り・ま・せ・ん!!」
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