第9話 一号でも二号でもいいから分かりみが強くて幼馴染が尊い
「さぁ、保健室に着いたぞ安藤!! もう大丈夫だ安藤!! 怪我は浅いぞ安藤!! すぐによくなってまた練習に戻れるぞ安藤!!」
「いや、陰キャ王子先輩!! ずっとこうしていて!! 陰キャ王子先輩の逞しい腕の中でアタイを癒して!! アタイを強く抱きしめて離さないで!!」
「なにを、言っているんだー、こーのばかたれーい」
今日も今日とて
部活の後輩が怪我をしたので保健室に連れていく陰キャ王子先輩こと俺である。
日を追うごとに熱くなっていく日差しと、後輩の眼差しに耐えながらの練習の日々は辛いものがある。
けれども、自分の選んだ道だから仕方がない。
忍耐が時に人を強くする。
この夏を終える頃には、俺はきっと今よりもっと大きな男になっている。
そうに違いない。
それはもう、志穂をしてただの幼馴染と思わせないような、立派な男に生まれ変わっているに違いない。そう信じることで、俺はなんとか自分に課せられた役割を――陰キャ王子先輩という舐めくさりきった後輩からの仇名を受け止めることができた。
こいつら、いくらなんでも悪ノリし過ぎじゃないか。
俺じゃなかったら、普通にブチギレてるぞこんなん。
トッキーとか無言でケツに金属バット振り抜いてるぞ絶対。
とにかく、放課後の練習の途中に、俺は保健室にやって来たのだった。
この時間帯、保健室の先生は高確率で出払っている。
最近は養護教諭もいろいろとやらなければいけない仕事が多いらしく、保健室を留守にしがちなのだ。
その代わりに、部活動をしていない一般生徒――保健委員さんが保健室には必ずだれか一人詰めているようになっている。
生徒を職員のようにつかってどういうつもりだと、あまりPTAからの評判はよくない。けれども、実際問題手が回っていないのだからしかたない。
また、保健委員に志願する生徒たちは、誰も彼も揃って意識高い系――いわゆる、私医者になる看護師になるという感じの使命感の溢れる生徒たちだったので、今の所なぁなぁで事は済んでいた。
今日もまた、保健室には先生の姿はない。
代わりに、先生から預かった白衣を身に纏う、こじんまりとした影があるだけである。
窓辺に揺れる白いカーテン。
夏風に吹かれて入ってくるのは蝉時雨。
しかしながらそんな熱さを心地よく体に受けて、事務机の前で膝に手を置いて佇んでいるのは小柄な少女であった。
前髪ぱっつんの黒髪ロング。
和人形のような美しさと儚さを思わせる彼女は、保健室に現れる妖精かはたまた天使か。ふざけていたのもすっかりと忘れて、俺と安藤は彼女の佇まいに、はっと息を呑んだのだった。
俺たちの来訪にワンテンポ遅れて気が付いた彼女はこちらに顔を向ける。
桜色の唇が、まるで線香花火のように小さく弾けた。
「……中津くん!!」
「……秋田さん!!」
保健委員の秋田さん。
そう、割と効果確率で、放課後に保健室を訪れると、詰めていることが多い女子生徒として認知されている彼女は、我が校二年生のアイドル的存在。
二年生美少女ランキング一位。
彼女にしたい女の子ランキング一位。
ダブルで一位をもぎ取ったうえ、白衣が似合う女の子ランキングぶっちぎりの一位。優しく治療してもらいたいランキングもぶっちりぎりで一位。ぶっちゃけ、おかずにさせていただいておりますランキング学年不動の驚異的一位。
まさしく我が校のマドンナオブマドンナ、秋田雪子さんであった。
立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花とはまさしく彼女のための言葉。
しかもこの少女、ただそこに居るだけで人を癒す効果まであるらしい。天然のヒーリングセラピーガールなのであった。
「どうしたの? また部活で怪我したの? 捻挫かしら? ちょっと待ってね、すぐに湿布を用意するから」
「いえ、大丈夫です秋田さん!! 私はこれこの通り、ちっとも全然まったくこれっぽっちも大丈夫です!!」
「……受け答えが大丈夫じゃないように感じるのは気のせいかしら?」
「大丈夫であります、秋田婦長どの!! これこの通り元気ビンビン!!」
「……腰が引けているように見えるけれど?」
ビンビンだからである。
白衣の天使の美しい姿にあてられた、男子高校生の敏感な部分がびんびんになってしまっているから、腰がどうしてもひけてしまうのである。
頼んでもいないのに立派な添え木が出来上がってしまったから、それを隠すために腰がひけてしまうのは仕方ないのである。
よく人から唐変木と呼ばれる俺だ。
けれども、男の子の身体の不思議くらいは分かる。
俺だって男の子だから分かる。
秋田さんを志穂に置き換えてみればそんなのは考えるまでもないことだ。
そう――白衣姿に身を包んだ志穂。
白衣の下にブルマを着込んだ志穂。
ブルマに白衣という、悪魔合体のような魅力的な姿に加えて、あられもなく太ももと臍とうなじをちらつかせて、俺の名を甘ったるく呼ぶ志穂。
股間の打率が三割増し。
図らずとも広角打法になっちまうというものである。
……ふぅ。
白衣姿もいいけれど、ナース姿の志穂もいいよね。
絶対似合う。(確信)
「いや、なんか熱中症っぽいみたいで、ちょっとベッドで休ませてやりたいんだけれど。構わないだろうか秋田さん」
「もちろんよ。そのための保健室だし、そのための保健委員よ。さぁ、どうぞどうぞ。自由にベッドも椅子も使ってね」
症状が酷いのだろう。
ろれつが回っていない感じの安藤に代わって、秋田さんと俺がやり取りをする。嫌がる安藤を、それとなく秋田さんの視線から守りつつベッドに放り込むと、大事な部分が目立たないように布団をかけてやった。
テントを張るようなら、もうそれ以上は知らん。
「えっと、経口補水液と体温計。あと、塩分補給の飴があったわね」
「すまないな秋田さん。ここの所、ずっと君には世話になりっぱなしで」
「仕方ないわよ。夏の大会間近なんだから。全然迷惑じゃないわ。むしろ、もっと頼ってくれても嬉しいくらい」
なんだったら、差し入れに自作の経口補水液でも持って行こうかしら。
そんな冗談を口にする秋田さん。
まさに保健室に舞い降りた天使。
そんな感じにまぶしい彼女の姿を、俺はどうしても直視することができない。
理由は他でもない。
「……どうしたの、中津くん?」
「……あ、いや、なんでもないんだ。すまない。いや、なんというか。すまない」
罪悪感を彼女の姿を見るたびに感じずにはいられないからである。
何の罪悪感か。
こればっかりは、仕方がない。
そして、何がどうしてこうなったのか、今になっても納得がいかない。
俺自身も信じられない事情から来るものであった。
そう。
この我が校のまごうことなきマドンナ。誰もが狙っている魅惑の白衣の天使から、俺はかつてラブレターをいただいたことがあるのだ。
それも――。
「以前から、人知れずお慕いしておりました。よろしければ、本日の夕刻、保健室にて詳しい次第をお話させていただきたく思います」
などという、古式めかしい上にガチっぽい内容の恋文だったのだ。
志穂からはそんな手紙の一つも貰ったこともないというのに。
更に言えば、口でもそんなこと言われたこともないというのに。
更にさらに言えば、訪れた夕方の保健室で、ぴとりと身体に寄りかかられ、消え入るようなか細い声で「好きです、中津さん」と熱っぽく言われてしまったのだ。
こんなに熱烈に人に愛された経験などない――ことはないと思いたい。
志穂もまた、口に出すのが恥ずかしいだけで、秋田さんと同じくらいに俺のことを思ってくれているとは信じている。けれども、ここまでの熱烈アプローチをかけられて、くらりとこない男がいないだろうか。
まして、学園のマドンナからの御言葉である。
我ながら、よくもまぁそんな甘美な響きに耐えたものだ。
自分を褒めてやりたかった。
そう――俺は耐えたのだ。
秋田さんから向けられた、愛の囁きに耐え忍び、「俺には既に心に決めた人がいる」と、その告白をすげなく断っていたのだ。
あの時の、なんとも言えぬ物悲しい秋田さんの表情は、何度思い出しても心臓に悪い。きっと、これから彼女の顔を見るたびに、思い起こすことになるであろう、トラウマ級のものだった。
今こうして、何食わぬ顔をして会話をしているが、それは安藤がいるからこそ。
平静を装っているが、俺たちの間には暗く深い決して越えることのできない、流れが確かに漂っていた。
「熱、測りますね」
「あっ、やだ、そんな、秋田婦長!! ダメダメ、駄目です、女の人がそんな簡単に男の子の身体に触ったりしたら!!」
「熱中症かもしれないんですよ、命には代えられません」
「脇は!! 脇は男の性感帯なにょぉ!! んほぉおおおってなるのぉ!!」
ならんと思う。
何を言っているんだ安藤は。
気持ちの悪い奴だなぁ。
いくら美人の秋田さんにソフトタッチをされるからって、自意識過剰という奴ではないだろうか。男の子の身体は、そんな氷細工のように繊細にはできていない。
慣れているのだろう、はい、腕を上げてと自然な素振りで安藤の脇を露にする秋田さん。ダメダメ、駄目なのぉと、涙目で懇願した安藤だったが、これまた変な所で男らしい秋田さんによる強引な押し込みにより脇に体温計を突っ込まれた。
小指の先ほどもない細い棒。
それを突っ込まれただけだというのに。
「んほぉおおお!! おかしくなっちゃうぅううう!!」
安藤は気絶した。
男がしちゃいけない感じの顔をして気絶した。
女でもしちゃいけないというか、割とファンタジーやフィクションの部類に入る、そういう顔をして彼は意識をどこかに飛ばした。
おかしくなってしまったのだ。
いや、元からおかしかったのだ。
安藤よ、今は安らかに眠れ。
「また、気絶しちゃったわね。私、看護師としての才能がないのかしら」
「いや、麻酔要らずでとても重宝されると思うよ。大丈夫さ、秋田さんは自分の信じる道を真っすぐに進めばいい」
「……中津くんは、やっぱり優しいね」
秋田さんの表情がそんな言葉と共に変わった。
憂いを帯びた女性の顔。
それは、あの日、暮れなずむ保健室の中で、俺だけに見せてくれた、この学園一のマドンナの限りなくプライベートな表情に違いなかった。
しまった。
安藤が実質的に保健室からログアウトしたことにより、俺と秋田さんが二人という状況になってしまった。
まずい、これはまずいぞ。
窓から吹き込んでくる湿り気を帯びた風。
夏のどこか重みを感じる空気の中に、そこはかとなく漂う女性の優しい香り。
どんな制汗剤や香水でも敵わない、女性本来の魅力が存分に籠った濃厚なそれが近くなる。それは目の前の白衣の天使――いや今は小悪魔と化した秋田さんの身体から発されていた。
その瑞々しい唇の切れ目から。
夏場の放課後というシチュエーションに微かに緩んだ襟元から。
ついさっきまで安藤に触れていた小柄な指先から。
男をダメにする芳香が漂っていた。
男性特攻を持つフェロモンを彼女は発していた。
「……中津くん。この間はごめんね。私、貴方の気持ちを考えずに勝手なことを言って。迷惑だったよね」
「迷惑だなんてこと。アレは、煮え切らない態度をしていた、俺が悪いんだ」
「そんなことない。私が、中津くんと七尾ちゃんの間に、無理に割り込もうとしたのが悪いのよ。二人が好きあっているのは、誰が見たってすぐわかることなのに」
嬉しいことを言ってくれる。
誰がどう見たって、俺たちの関係性はカップルか。
二人は両想いにしか見えないか。
もし、そんな周りの印象通りに、俺たちの関係性が築かれていたならば、話は簡単だったのにな。俺は彼女を不必要に苦しませることもなかったのだろうな。
彼女がいると。
俺の彼女は志穂なのだと、周りにきっぱりと言いきれていれば。
そうすれば秋田さんが横恋慕するようなことはきっとなかったことだろう。
全て自分の至らなさから出た錆である。
心の底から申し訳なくて、俺は秋田さんに頬を向ける。
もう、練習に戻らなくては。
そう言って保健室に去ろうとした俺を――。
「待って、中津くん!!」
秋田さんはまた、その年齢からは考えられない、絶妙な色香を放ちながらこの場所に繋ぎ止めたのだった。
蝉時雨が、俺たちを笑うように鳴いている。
「私、やっぱりあきらめきれないの。どうしても納得できない」
「……秋田さん」
「こんなに人を好きになったことなんて今までないの。だから、自分でも戸惑うくらいに感情を整理できないの。自分の中に溢れている想いを、せき止めることができないの」
「それ以上、言っちゃいけない。秋田さん」
それは許されない行いだ。
大人だろうと、子供だろうと。
軽率に飛び越えてしまってはいけない、人間としての誠実さを踏みにじる行いだ。それをするには、相当な覚悟が必要なことだ。
その覚悟が彼女にはあるのか。
彼女に向けた言葉には、言外にそんな含みがあった。
同時に、あると答えたならば、どうすればいいのか。そんな迷いもあった。
彼女を思いとどまらせるために、俺はこの言葉を発した。
けれども、もし彼女がそれを飛び越えてくれば。
俺はいったいどうすればいいのか。
彼女の想いに応える覚悟はあるのか。
逡巡する間もなく、これが応えだとばかりに、秋田さんは向ける俺の背にそっとその体重を委ねてくる。女の芳香が強くなり、彼女の鼓動と息遣いが直に体に伝わってくる。
肩甲骨の少し下を摘まむようにしてこちらを振り向かせようとする彼女。
それでもなお、振り向かない俺。
そのままの格好で――。
「いいの、中津くん」
「……秋田さん!!」
「私、貴方の二号さんでも構わないの。だから……お願い」
好きと言って。
痺れるような女の声色で秋田さんは俺に迫ってきた。
ベッドの中の安藤は気を失っている。だが、ここは学校の施設の中。前を通る生徒だって少ないと言えどもいなくはない。
人の目がある中だというのに、こんなことをしていいのだろうか。
いいわけがない。
いいわけがないのだ。
だが、それだけに彼女の生半可ではない覚悟が伝わってくる。
彼女は本気だ。
どうやら本気だ。
自分のこともろくすっぽに分からない、駄目な俺だが、真剣に人に想いのたけを伝えんとするいじらしさを理解できないほどに鈍感にはできてはいない。
秋田さん。
どうしてそこまで俺のことを――。
「ごめんね。中津くんが優しい人だってこと。私、よく知っているの。そんな貴方だから、私は好きになっちゃったの」
「……秋田さん」
「その優しさに付け入って――ずるい女よね。けど、譲りたくないの。この想いだけは」
秋田さん。
あぁ、秋田さん。
いけないよ秋田さん。
君のような、可憐な乙女がそんな茨のような恋の道を歩む必要なんてないんだ。
俺のようなろくでなしではなく、もっとまともな男を愛して、幸せにしてもらうべきなんだ。
どうして、どうして俺なんだ。
俺が優しいばっかりに、みんなに優しいばっかりに、こんな悲しい事態を招いてしまったというのなら。俺の優しさは間違っていたんじゃないだろうか。
そして、そんな間違った優しさの結果がこれだというのなら――。
「責任を取らなくちゃいけないとか思っているんでしょう。ふーん、そう。いいけど。別に、私は、構わないわよ。さんざん小さい頃から、好き好き好き好き言われ続けて、ころりと宗旨替えされたって。えぇえぇ、耐えてあげます。幼馴染ですから」
「……SHIHOSAN!!」
「志穂ちゃん!!」
くらりと来そうな所にナイスタイミング。
志穂が保健室に姿を現した。
そしてナイスブルマ。
今日はサポーター付きで、割とがっちり肌をガード。
おまけにおへその前に腕を組んで、鉄壁の構えを見せている。
ちょっと吊り上がった眉の尾も印象的だ。
おこだな、おこなんだな、志穂。
俺が浮気している現場を目撃してしまって、怒っているのだな志穂。
そして、なんだかんだで妬いてくれているのだな、志穂。
いつもだったらそんなに長文喋らないのに、早口でまくし立てるように、しかも棒読みみたいに言い放って。
ジェラシーたまらん感じなのだな、志穂。
うぅん。
秋田さんみたいに濃厚なのも男としては嬉しい。
けれど、志穂のように淡白な感じのも、俺としては嬉しい。
やっぱりしゅき。
志穂。
マイオンリーサンシャイン。
いつだって、君のやることなすこと、俺のストライクゾーンだ。
たまらん。
「というか、昭和のメロドラマみたいなことやってんじゃねぇー!!」
「おわぁーっ!!」
「きゃーっ!!」
べちりべちりと俺と秋田さんの間にぐるぐるパンチを振りかざして割り入ってくる志穂。いつになくアクティブな彼女の行動に引きはがされた俺たちは、ようやく元の同級生の関係に戻り、さきほどまでの昭和のドラマみたいなノリを恥じ入るのだった。
うん。
不倫はいけないよね。
それは悪い文化。
ダメぜったいだ。
「けど、志穂ちゃん。志穂ちゃんと中津くんは付き合っていないんだよね? だったら、別に私が付き合っちゃっても、不倫とか不純異性交遊にはならなくない?」
「……ほう。確かに、一理あるかもしれない」
「一理もないわい。こーの、すっとこどっこい。この泥棒猫って言われたいのかな?」
「……うぅん、むしろ、私は、志穂ちゃんと一緒に楽しみたいというか。どちらかというとそちらの方が本命というか。中津くんは格好いいけれど、それは志穂ちゃんが隣にいてからこそ引き立つというか。刺身に喩えるなら、トロが志穂ちゃんで、ツマが中津くんというか」
おっと。
空気が怪しくなってきましたよ。
なになに、なんだか情熱的に迫られたけれども、どういうことだねこれは。
きみぃ、秋田くん、きみぃ。
ちょっとなんか女性の嘘の怖さを感じさせるようなことを、いきなり言いだしてくれるじゃないのよ。
完全に騙されていたわ。
というか、騙されていたというか、気が付かなかったわ。
だってそんな素振り少しも見せなかったじゃないのよ。
え、なに、最初から。
うそうそ。
初めの告白からしてもしかして、俺ってばダシに使われていたの。
だとしたら俺本当に残念なんだけれど。
残念陰キャ王子なんだけれど。
俺から離れて志穂の方に向かう秋田さん。
彼女は――男に媚びる女性のそれとは違う、甘えるようなしぐさで志穂の腕をぴとりと抱えると、あまがみするように唇をその耳たぶに這わせるのだった。
「……ね、志穂ちゃん。私と一緒に、中津くんで仲よくしようよ」
「ごめんね秋田さん。貴方はいい人だし、普通に綺麗だし、魅力的なんだけれど、私は百合の者ではないので」
「大丈夫。私、男でも女でも愛せる自信があるの。きっと三人なら、素敵な未来を築いていけるって、そういう気がするの」
「私は全然そんな気がしないから。というか、洋太の精神衛生上よくないから、ご勘弁していただけるかしら」
「……ちぇっ」
割とガチっぽく舌打ちして志穂から離れる秋田さん。
去り際、ねっとりと志穂の二の腕を撫でた彼女の顔は、獲物を狙う猛禽類のそれに違いなかった。
間違いなく、志穂のことを狙っている。
そんな表情だった。
ごめん、秋田さん。
僕にはそんな自信はありません。
マジかよ、なんだこの展開。
女って怖いなぁ。
「洋太も、もっと断るなら男らしく断りなさいよね。ほんと、誰にでも優しいというか、甘いというか。そんなんだから王子なのよ。こういう風にダシみたいに使われるのよ」
「ダシ? え、ダシ?」
「志穂ちゃん、志穂ちゃん。そういう所も陰キャ王子の良い所じゃない。わかってるくせにぃ」
「振り回されてこっちはめっぽう迷惑よ。ほんと、迷惑」
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