第51話 外泊に向かう冒険者

 ゴールデンウイークが始まる前は色々と心配しとったけど、なんやかんやでお父さんと魔王は意気投合したみたいや。

 なんなら、お父さんはウチよりも魔王とよく喋っとる気がする。

 まあ、古代語がどうだとか、マナがどうだ、龍脈がうんたらかんたらなんてウチには付いて行かれてへんし。

 ちなみに、その反面ウチはと言えば、絵里ちゃんとのやり取りをするようになった。

 色々とあったけど、絵里ちゃんとは大の美咲さんファンとして仲良くしとる。

 今までは、こうして冒険者についてじっくりと語り合える友達が鈴木ぐらいしかおらんかったからな。

 正直、嬉しい。

 美優は冒険者で興味あるのウチだけやし。

 いや、別に鈴木は嫌いちゃうで。

 あいつはあいつでええやつやで。

 ……って、誰に対してフォローしとんねんウチは。


「ほな、行ってくるわ」

「うむ。気を付けるがいい」

「そっちもな」


 玄関で靴を履きながら魔王に別れを告げる。

 今日から2泊3日で美優の家にお泊りや。

 一方の魔王もこのタイミングで一度魔王城に戻るらしい。

 お父さんとお母さんの二人だけの時間ってのもあげたいし、魔王にしてはええ判断やと思う。

 まあ、魔王のことやから、単純にウチがおらんかったらダンジョン行かれへんから魔王城に帰るんやろうけど。


「じゃあ、お父さんとお母さんも、行ってくるな」

「お、楽しんできぃや」

「気を付けてね」


 両親と魔王に見送られて家を出る。

 最寄り駅のロータリーに、美優が佐竹家の車で迎えに来てくれることになっとる。

 最初は家の前まで迎えに来てくれるって言うてたんやけど、それは断固拒否した。

 できるだけ美優と魔王を会わせたくなかったからな。

 何を言われるかわからへん。


「なんで魔王と美優はあんなにも仲が良くないんやろうか。というか、魔王が一方的にビビっとる気がする」


 確かに美優はウチのこととなると、少々周りが見えなくなることはあるけど、悪い子やない。

 別に避ける要素はないと思うんやけどなぁ。

 なんなら、魔法が使えるだけ魔王の方がよっぽど強いと思うんやが。

 そんなウチ的にはミステリーなことを考えながら歩くこと数分。

 最寄り駅を視界に捉える。


「やっぱりもう着いてるわな。これでも集合時間の20分前なんやけどなぁ……」


 美優が待ち合わせでウチを待たせたことはない。

 せやから、今回も早めには来てるやろうと思ってたけど、もうロータリーに見慣れたリムジンが停まっとる。

 これも我が家の前まで迎えに来て欲しくない理由やねんなぁ。

 こんなん停められたらご近所さんからめっちゃ注目されるわ。


「というか、ここでも周囲の視線を集めすぎなんやけどな。この視線の中を行くウチの気にもなって欲しいもんや」


 まあ、最近は何かとあって他人の視線にも慣れてはきたけど。

 お、ちょっとスターぽいな。

 そんなしょうもないことを考えながら、リムジンの側まで近寄る。

 すると、タクシーのように自動で後部座席のドアが開く。

 そもそも車体が長すぎて後部座席という名称が合っとるんかわからんけど。

 

「ふふ。いらっしゃい」


 車内では笑顔の美優が座っとった。


「すいません。この長いタクシーは佐竹さんのおうちに行きますか?」

「もちろん。ただし、帰りは明後日まで出えへんけどええんか?」

「うーん。どないしようかなぁ……」

「え、乗らへんの?」


 一瞬で美優の瞳が潤む。


「乗る乗る! 乗るから泣くなや!」


 慌ててリムジンに乗り込む。


「もう志保ったら焦っちゃって。嘘泣きに決まってるやん」

「あははは……」


 いや、割とマジ泣きしそうな感じやったんですけど。

 普通にウチも罪悪感覚えるレベルやったんですけど。

 仮に嘘泣きなら演技上手すぎるで。

 佐竹美優、恐ろしい子や。


「けど、この車はなんべん乗っても凄いわ」


 雨の日の下校時とか美優と遊んで夜遅くなったときに乗ったことがあるけど、ホンマに凄い。

 広すぎるし、シートは気持ちええし、設備は整っとる。

 これが車なんかと疑ってまうわ。


「車に冷蔵庫付いてるとか金持ちかよ」

「金持ちやで」

「「フハハハハハ!!」」


 女子高生なんてこんなもんやで。

 ウチの動画を見て幻想を抱いてるお兄さん方には申し訳ないけど、こんなもんやで。


「今日はおじさんとおばさんはおるんか?」

「お父さんもお母さんもゴールデンウイークは家にはおらんわ」

「えっ……」


 美優の両親はめっちゃ忙しい。

 そりゃそうや。

 これだけの金持ちになるにはそんだけの努力をして、そんだけ働いて、そんだけ維持していかなアカン。

 けど、そうなると美優がかわいそうやなぁ。


「だからこの3日間はウチと志保と佐智さちさんだけや。他の使用人はみんな親について行ってるからな」


 佐智さんっていうのは美優の専属メイドさんで、このリムジンを運転しとる人でもある。

 いつ見ても、赤みがかった髪を上げて纏めとってカッコええわ。

 外出時は美優が嫌がるからってメイド服やなくてスーツでビシッと決めとるのが、一層カッコよさに拍車を掛けとる。

 美優はちっさい頃から面倒を見てもらってたみたいで、佐智さんのことを姉のように慕ってる。

 それでもやっぱり両親がおらんのは寂しいやろうなぁ。

 予定を変更してウチがずっとおった方がえんやろか。

 ダンジョンに潜るなんていつでもできるし。


「まあ、ゴールデンウイークの後半は家族でグアムやけどな!」

「コノヤロー! ウチの優しさを返せ! ふざけんな!」

「ごめんごめん! だって、あんまりにも志保がええ反応するから」


 ああ、確かにゴールデンウイークに両親がとは言っとった。

 けど、なんて一言も言ってへん。

 上手いこと騙されたわ。


「お嬢様」

「うん?」

「そんなことをしていると志保さんが友人を止めてしまいますよ」

「えっ……」


 美優が『そんなことないよなぁ?』という小犬のような目を向けてくる。

 こやつめ。

 卑怯やぞ。


「もう! そんな目をされたら佐智さんのネタに乗っかられへんやん!」


 ホンマに可愛いやっちゃ。


「はぁ。志保さんはお嬢様に甘いですね」

「佐智さん。来月の査定は楽しみにしといてや」

「ふぐっ……」


 女三人寄れば姦しいとは良く言うたもんや。

 ホンマにうるさいで。

 車内でアホみたいな話を続けているうちに佐竹家に到着する。

 同じ高校に通ってるのに結構な移動時間やった。

 いや、まあそれも仕方ない。


「この屋敷の土地はそりゃ街中にはないわなぁ……」


 車の窓から通過する門を見上げる。

 何度見てもデッカイ門や。

 門から玄関までに広がる庭だけでウチの家よりも余裕であるわ。


「ここよりもアメリカの別荘の方がもっと大きいで」

「ちょっとでもええから分けて欲しいわ」

「志保はアメリカの土地いるん?」

「いらんわ。貰っても困るわ」


 リムジンはそのまま屋敷の入口に横付けされる。

 もうね。

 家にリムジンがくるっと展開できるロータリーがあるのがヤバいわ。

 ついでに言えば、ロータリーの中心には最寄り駅なんぞよりも立派な噴水が付いてるのもヤバいわ。


「私は車を車庫に戻して来ますので、お嬢様方はどうぞ降りてください。その、人手がないので車を戻すまではろくなもてなしができませんが」

「いえいえ。佐智さん、ありがとうございました」

「来月には私はクビになっているかもしれませんので、志保さんとの最後のドライブ楽しかったです」


 佐智さんが何とも言えない返しをくれる。

 言っとる内容は中々ヘビーなのに、こっちを見とる三白眼の目はいつもと変わってへん。

 この人も大概雇い主に媚びへんよなぁ。

 そこがええんやけど。

 多分、美優の唯一の天敵ちゃうやろか。


「もう! ウチは別に佐智さんをクビにするとまでは言ってへんやろ! 志保、行くで!」


 美優に追い出されるようにリムジンから降りる。

 こうして目の前にすると改めて屋敷の大きさに圧倒される。

 ちなみに魔王城とどっちが大きいのか気になって屋敷の写真を魔王に送ったところ、『魔王城の方が立派に決まっている。が、これは佐竹美優は絶対に言ってはならぬ』と返って来た。

 どんだけ美優に忖度そんたくするんや。


「何をぼうっとしてるん? 入るで」

「あ、うん」


 ウチも冒険者で稼いだらこんな豪邸に住めるんかなぁ。

 ……やめとこ。

 こんなとこに住む用事がないわ。

 別に来賓招いてパーティーとかせんし。

 そんなことを考えながら屋敷へと入って行く。


「うっ……ウチには眩し過ぎるぜ……」


 入って早々に豪華なシャンデリアが爛々らんらんと輝き、絵画や彫刻などの調度品類がその輝きを受けて美しく映える。

 これは玄関口やない。

 エントランスと呼ぶのが相応しい。

 うん、その方がしっくりくるな。


「またまた何をぼうっとしとるん? 荷物は後で佐智さんが来てから部屋に案内するから、とりあえずお茶でもしようや」

「う、うん」


 こんな西洋風の豪華な装飾が施された屋敷に、スタイル抜群の茶髪のお嬢さま。

 会話の内容も訪ねてきた友人とのお茶会。

 だからこそ関西弁なのが絶望的に合わへん!

 ついでに中身が若干オッサンなのも残念すぎる!

 学校では美優の関西弁になんも思わんけど、ここに来るたびに空間との違和感がヤバい。


「なあ、美優」

「うん?」

「ちょっとお嬢様っぽく話してみてや」

「意味わからへんのやけど……」


 相も変わらずしょうもない話をしながら、佐智さんが来るのをお茶しながら待つのであった。

 ちなみに美優は自称庶民派やから、紅茶くらいはちゃんと自分で淹れられるで。

 ちょっと前まで、お好み焼きとホットケーキは同じ粉で作れると思っとったことには驚いたけどな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る