第47話 準備をする冒険者

「ほな、早速準備開始や」

「そうするといい」


 準備といっても、企画の内容的にやれることは武器を変えることだけやけどな。

 とにもかくにも、スマホを操作してまずは所持ポイントを確認する。

 

「うひゃ! え、ウソやん」


 ありえへん。

 なんやねんこのポイント数。


「どうした?」

「ポイントが……」

「ポイントがどうしたのだ?」

「250万を超えとる!」

「ふむ」


 さすがの魔王も驚くかと思ったけど、なんか反応が薄い。


「お金に換算したら50万円やで! 50万! なんでそんなに反応薄いんや!」

「確かに金額的にはそこそこであるな。だがな、志保」

「うん?」

「お前はお前が思っている以上に人気があるのだ。事実、グッズも売り切れていた。それに、今回は既に鎌田絵里との勝負がネットで話題となっている。その効果もあるのだろう」

「そんな、実感ないわ……」

「それに、吾輩は常にお前の動画を確認している。再生回数の激増は既に知っていた結果だ」


 え、やっぱりこいつウチのストーカーなんちゃうか?

 今の部分だけ切り抜いたら普通にやばい奴やん。


「ア、アカン……今更ながら手が震えてきた……」


 震える手で、動画の再生回数を自分でも確認する。


「ふへぇ……」


 見たこともない数字が並んどって、出したこともない声が漏れる。

 【タマネギゴブリン】が74万回超、【ゴマ油スライム】が80万回超。

 そして、なにより、美咲さんとのコラボ動画である【赤ワインゾンビ】に至っては140万回超と、初めての100万回再生超を達成しとった。

 はぁ……やっぱ美咲さんって神だわ。

 しばらく、心臓を落ち着かせるために余韻に浸ったところで、ふとした疑問を抱く。


「って、なんでゴブリンより再生回数が少なかったはずのスライムが伸びてるんや?」


 そんなウチに対して、視線を合わせることなく魔王が答える。


「コメント欄を見てみろ」

「うん?」


 ウチの動画を監視しとる魔王に従って、スライム動画のコメント欄を見てみる。

 『今話題の掛田志保ちゃんのあられのない姿を見に来ました』

 『おい、全然服が溶けてないぞ』

 『普段の撮影以上に気合が入った私服でかわいい!』

 『なんか話題だから見てみたけど、俺は絵里派から志保派に乗り換えるわ』

 ……等々、この数時間で書き込まれたコメントが大量に付されていた。


「なんやねんこれ!」

「まあ、吾輩たちが何もしなくても勝手に宣伝がなされた結果だな」

「ふざけんなや! はぁ……はぁ……はぁ……」


 スライム動画ということでなんとなく想像はしとったけど、ほんまにふざけんなや。

 なんか怒りのおかげでやる気出てきたわ。

 こいつら全員、ちゃんと冒険者としての実力で黙らせたる。


「ええい! ともかく装備新調や!」


 スマホの画面を動画から装備購入画面に変更する。


 …………………

 武器

【初心者】

【鉄】

【鋼】

【銀】

【金】

【ダイヤモンド】

【オリハルコン】

【ミスリル】

【特殊】

 …………………


 このページを表示するのも久しぶりやなぁ。

 というか、せっかく鉄装備は全部揃えたのに、結局剣しか使わんかったなぁ。

 せや。

 今回はオークの棍棒攻撃をもらったらアカンのやから、リーチのある槍を使ってみよ。

 魔王も自分で色々と考えてみろって言っとたしな。


「ええと、オークが体力300の防御力70やから、それなりの槍がええなぁ……」


 そんなことを呟きながら、何度見ても質素な武器購入画面と睨めっこをする。

 魔王もウチが槍を探しとる意図に気付いたのか、静かに頷いとる。


「むむむ……」

「どうした?」

「いやな。オークの攻撃を食らったら一発でやられるやんか」

「そうであるな」

「ほんならウチも一発でオークを倒せる槍がええんちゃうかなと思ったんや」

「先に一撃を貰った方が負けという動画にするのだな。スリルがあって悪くないのではないか」

 

 魔王が珍しく手放しで褒めてくれる。


「でや。武器を除いたウチの攻撃力が53やろ。つまり、オークを一撃で倒すにはオークの体力と防御力を足した370から53を引いた317以上の攻撃力を持つ槍が要るわけや」

「簡単な算数であるな」

「これ見てや」


 購入画面を開いたスマホを魔王に手渡す。


 …………………

 武器

【銀】

 銀の剣:攻撃力100 10万ポイント [交換]

 銀の槍:攻撃力150 両手武器 20万ポイント [交換]

 銀の槌:攻撃力200 両手武器 40万ポイント [交換]

【金】

 金の剣:攻撃力200 100万ポイント [交換]

 金の槍:攻撃力350 両手武器 200万ポイント [交換]

 金の槌:攻撃力500 両手武器 300万ポイント [交換]

 …………………


「なるほど。お前の希望を叶えるにはこの200万ポイントもする【金の槍】が必要なわけか」

「うん……銀装備までは比較的手に入れやすいようになってんやけど、金装備からは一気に必要ポイントが跳ね上がるの忘れとったわ。かと言って【銀の槍】やったら一撃あたり183ダメージやから2回当てなアカンし……」


 か弱いウチにそんなことできるとは思われへん。

 オークにけちょんけちょんにされるのがオチや。


「【金の槍】で良いではないか」

「へっ?」


 てっきり魔王のことやから、後々のためにポイントを残す意味でも【銀の槍】にしろって言うんかと思ったら違った。


「今回はお前に任せると言ったのだ。お前の結論が【金の槍】ならそれで良い」

「ホンマ? 後でやっぱなしとかアカンで?」

「ああ、ホンマだ」

「よっし、じゃあ早速買うわ」


 魔王の許可こそ出たけど、やっぱり[交換]をタップする指はなかなか進まん。

 ああ、さよなら。

 ウチの40万円……。

 こうしてウチは【金の槍】を手に入れる。


 …………………

【ステータス】

 氏名:掛田 志保

 レベル:10/100

 必要経験値:1200(現在650)

 体力:105  ≪基礎5・レベル補正100≫ 

 攻撃力:403 ≪基礎3・レベル補正50・装備補正350≫

 防御力:45 ≪基礎5・レベル補正30・装備補正10≫

 魔防力:13 ≪基礎3・レベル補正10≫


【装備】

 金の槍:攻撃力350

 鉄の鎧:防御力10

 盾:装備不可

 …………………


「なんか極端やなぁ……」

「これで明日は大丈夫だな?」

「一気につよなった気がするわ。なんとかしてみる」

「うむ」


 はぁ……。

 まだゴールデンウイーク始まったばっかりやのに、ドタバタしとるなぁ。


「ちなみにだが」

「なんや?」

「今日も絵里とやらは動画を投稿しているぞ」

「え、ホンマに?」

「この通り、注目の動画にランクインしているぞ」


 魔王がスマホを手渡してくる。

 確かに、注目動画ランキングの1位に絵里ちゃんの動画が表示されとった。

 何があろうとも毎日投稿のルールを守るとは

 なんというか、さすがトップランカーやなぁ。


「なになに……題名は【関西遠征1日目 第1層から第12層】って、ウソやん! 1日で12層まで潜ったんか!?」


 ウチはあんだけ苦労してまだ第4層にも到達してないんですが。

 というか、勝負の話題もあるからか、既に今日の動画が20万回再生行ってるんやけど……。

 え、これと明日は戦うんか?


「な、なぁ」

「どうした?」

「これ勝てるんやろうか?」

「さあな。少なくとも、絵里の動画は今日の続きを撮るのだろう。そうなれば、単純に第13層以降を見たい視聴者と勝負の行方が気になる視聴者の獲得が期待できるな」

「うぐぅ……そんなん勝ち目ないやん……」

「ならば急遽ではあるが、スライム動画を撮るか? コメント欄もそれを期待している」

「絶対に嫌や! それだけはやらんからな!」


 まったく。

 ウチの肌はそんな安売りせえへんからな。

 そ、そういうのは好きな人にだけや……。

 前に下着姿を魔王に見られたのはノーカンやノーカン。


「はぁ……ともかく、今日はもう遅いから明日に備えて寝るわ」

「そうするといい。あれこれ悩んだところでどうしようもあるまい」

「ほんまド直球やなぁ」

「それに吾輩の経験上、戦いに挑むには質の良い休息が欠かせぬ。吾輩も勇者と戦う前日には……」

「あー、はいはい。有り難い忠告どうも。ほな、おやすみ」


 話を切り上げてベッドに潜る。

 これ以上魔王の話を聞いてると、どんなグロ話が出てくるかわからへんからな。

 そんなウチを尻目に、魔王はいつものように動画漁りを始める。

 もしかして、魔王なりに気を使ってくれたんか?

 いや、そんなわけないか。

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