第46話 作戦を話し合う冒険者

 お父さんと一緒に気色の悪い笑い声を出していた魔王を呼び戻す。

 これでやっと次の動画について話しができるわ。


「こほん。さて志保よ」

「なんや?」

「吾輩が調べたところによれば、こうした長期休暇においては、それにかこつけて『企画』という普段とはおもむきの違った動画を上げる冒険者が多いそうだな」

「せやな。ウチと違って社会人の人とかは連休やないとそういうことできへんからな。自然と企画動画が増えるな。というか、ホンマによう調べとるなぁ……」


 まあ、当然か。

 ちょっと前に換金して以来、全然換金してへんから、ここのところ魔王にコーチング料を払ってへん。

 そのせいで、魔王もどこに行くというわけでもなく、プライベートタイムの大半は動画研究に費やしとる。

 うぅ……なんか申し訳ない……。

 後で、ゴールデンウイーク明けには返す約束してお母さんから一万円借りとこ。


「まさか、絵里ちゃんとの戦いで、ウチもなんか企画をするんか?」

「その通りだ」

「うーん、それおもろいんやろうか。今回も魔王がオークの攻略法を教えてくれてそれアップしたらええんちゃう」


 今まで通りのことをすれば自然と再生数は稼げるんやから無理する必要はないと思う。

 何よりも、敗北すると理由も分からんけど絵里ちゃんに謝罪せなアカン。

 それだけは避けたい。


「それではすぐに人気が頭打ちになる」

「はい?」


 魔王がまたようわからんことを言い出す。


「いいか、各モンスターで裏技的な動画だけ上げていたのでは物理的に動画数が限定される。言い換えれば、再生回数の稼ぎに限界が生ずる。そうなると、ポイントも金も稼げない」

「身も蓋もない発言やな……。まあ、確かにせやけどやな……」

「そしてもう1つ。どれだけ面白い動画を作っていても、同じようなものばかり作っていてはマンネリ化するのである。普段とは違う動画を混ぜることでファンを飽きさせないようにすることが肝心だ」


 確かに魔王の言う通り、同じような動画ばかり上げている冒険者の再生回数は、投稿回数を追うごとに下落しとる。

 一方で、毛色の違う動画を所々に挟んで投稿しとる冒険者は、その動画のところでふっと再生回数が回復することも多い。


「な、なんか急に魔王が有能に見えてきたで……」

「失礼な。吾輩は元々超有能である」

「お、おう……」


 この底抜けの自信だけは見習いたいもんや。

 それだけの実力があるからこそやろうけど。


「けど、今回は絵里ちゃんとの勝負なんやから、やっぱり勝つためにいつも通りの方が……」


 とはいえ、今回は譲られへん。

 負けたらなぜかウチが謝罪させられるんやぞ。


「志保よ」

「な、なんやねん」


 魔王がものっそいものすごい真面目な顔でこっちを見つめてくる。

 いや、ちょっと待って。

 え、変に緊張するんやけど。


「今回は鎌田絵里との戦いということで既に注目が集まっている」

「う、うん」

「これがどういうことわかるか?」

「ええと、イマイチ……」

「つまりだ。それなりの動画を出せば勝手に再生回数は伸びるのだ。ならばここで稼ぎ頭の裏技攻略動画をあげる必要はない」

「はぁ!? ふざけんなや! ウチに負けろっていうんか!」


 ダンジョンの帰りから、なーんか裏があると思っとったけど、そういうことやったんか。

 勝負するのはウチやと思ってこいつ……。


「落ち着け。理由は他にもある」

「落ち着いてられるか!」

「いいか。今回の勝負は冒険者として鎌田絵里と競っているのであるな?」

「まあ、魔王に乗せられたとはいえ、せやな」

「なれば、やはり冒険者の実力によって勝負をするべきなのではないかと吾輩は思うのだ」

「実力?」

「そうだ。鎌田絵里は裏技など使わずに自分の技術と装備とステータスで勝負をしてくるのだ。ならば、お前もそれに正面から答えてやるのが筋なのではないか?」

「うぐっ……」


 た、確かにそう言われればそんな気もしてきた……。

 魔王の知恵を使って簡単に敵を倒すだけの動画で再生数を稼ぐのはなんかズルいような……。

 言いくるめられてる感がヤバいけど。


「ほ、ほんなら、具体的に何をするんや?」


 ま、まあ、まずは話くらい聞いたろやん。


「うむ。知恵を吾輩が貸すくらいは良いだろう。ズバリ題名は『【検証してみた】 本当に攻撃は最大の防御なのか? 一撃救護室でいくオーク討伐』である」


 そう言って、魔王はどや顔を決める。

 一方のウチはまさに開いた口が塞がらない状態や。


「どうだ?」

「………………」

「おい」

「はっ! アカンアカン。あんまりのセンスに啞然としてもうた」


 なんちゅう題名のセンスや……。

 ちょっと変にネット文化に染まりすぎちゃうか。

 この魔王、仮に魔界に帰ったとして元の世界に馴染めるんやろうか。


「そうであろう。【検証してみた】の部分をカッコでじることがミソである」

「いや、ネットの世界に浸食され過ぎやろ……。ちょっと引いたわ」

「失礼な」


 これを至極真面目な顔でやってるのが魔王の怖いところやなぁ。

 ウチやったら今頃恥ずかしさでベッドの上でのたうち回っとる。

 はぁ。

 とはいえ、ウチのためにやってくれとるんやから、これ以上ふざけるのもアカンな。

 こっちも真面目な感じに戻さな。


「何となくタイトルで予想はつくけど、内容はどんな内容なん?」

「うむ。今のお前のステータスではオークの攻撃を食らえば一撃で救護室送りということでよいな?」

「せやな」

「ならば、いっそのことそれを逆手に取った動画にすればよいのだ。つまり、防具はそのままに、武器だけを変更して戦うのである。やるかやられるかの緊張感ある動画になることだろう」

「えぇ……これでもウチは普通の女子高生なんやけど。武芸の覚えとかないのに無理やろ」

「そんなことは知らん」

「え、ちょっと! それヒドない!」


 ライオンが子どもを崖から突き落とすレベルで見放すやん!


「はぁ……志保よ」

「な、なんやねん。というか、なんでウチが呆れられとるんや……」

「よいか。他の冒険者は再生数を稼ぐためにどのような動画を撮るか、そしてどうやって実行するかを自分で考えているのだ。今回はそのうちの前者は吾輩が手助けしてやったのだ。冒険者の実力で勝負するならせめて後者ぐらい自分で考えてみると良い」

「ぐぬぬぬぬ!」


 なんでや……。

 なんで今回の魔王はこんなにも圧が強い上に、無駄に説得力のある諭し方をしてくるんや。

 

「それにだ。レベルが上がると必然的に体力と防御力が上昇する。オーク相手にこの手の動画を撮ることができるのは今しかないのだ」

「確かにそれもそうやけど……」

「もちろん、お前に他の案があるなら別だが」

「それは……ないわ……」


 どうやっても魔王はオークの弱点を教えるつもりはないみたいや。

 かと言って、絵里ちゃんに「やっぱ勝負はなしで」なんて今更言われへん。

 そんなことしたら、ネットでどんな反応されるかもわからん。

 こうなったら覚悟決めるしかない。


「ああ、もう! わかったわ! やったるわ!」


 ええい!

 こうなったらヤケクソや!

 けど、ただで転ぶウチやないで!


「魔王!」

「なんだ?」

「今回は魔王の口車に乗ったるんやから、ウチが絵里ちゃんに勝ったら、なんでも1つ言うことをきいてもらうで!」

「吾輩はお前のためを思っているというのに口車とは心外である。だが、確かにお前に褒美は必要だろう。よかろう。もし勝てたら魔王のできる限りを尽くしてお前の言うことを聞いてやろう」

「その言葉、忘れんといてや」

「もちろんだ。魔王に二言はない」


 よっしゃ。

 なんか変にやる気出てきたわ。

 絶対に、魔王に言うこと聞かせたるからな!

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