魔王のJK冒険者育成計画！ ～お前をトップ冒険者にしてやろう～

第42話 ぶつかる冒険者

　絵里ちゃんから全くもって意味不明な宣言を受けた。

　ともかく、どういうことか聞かなあかんな。

「ええと……ウチなんかしたか？」

「『なんかしたか？』じゃない！」

　顔を赤くして、めっちゃ必死やん。

　知らんうちに、絵里ちゃんに対してなんか悪いことしたんやろうなぁ。

　真相を聞いて謝罪せなあかんな。

「ごめん。ホンマ心当たりないんやけど」

「美咲さんとコラボするなんてうらやま……じゃなかった。身の程を弁えなさい！」

「はい？」

　いきなりこの子は何を言ってるんや？

「えっと、絵里ちゃんって美咲さんのマネージャーかなんかなんか？」

「違うわよ！　そ、そんな畏れ多いことできるわけないじゃない」

「ええ……」

　ウチがキレられてる理由が全くわからへん。

　前言撤回や。

　なんで謝罪せなあかんねん。

「ともかく、身の程を弁えなさいと言っているの。美咲さんは本物のトップランカーなんだから」

「は、はぁ」

　混乱するウチを無視して、絵里ちゃんはブツブツと「私だってまだ美咲さんと話したことないのに」とか「ああ、どうしてコラボ相手が私じゃないの」だの「美咲さん、美咲さん、美咲さん……」と止まることなく口にしとる。

　やたら美咲さん関連で絡んでくるやん。

　……あー、なるほどな。

　まったく、ウチの周りはどうしてこういうのが多いんやろうか。

「絵里ちゃん」

「なに？」

「もしかして、憧れの美咲さんとウチがコラボしたから嫉妬してるんか？」

「な、な、な、なんで嫉妬なんてする必要があるのよ！」

　その焦り方は答えを言っとるようなもんやん。

　わかりやすすぎるで……。

　悪い子じゃないんやろうな。

　ただ、憧れが強すぎて、ちょーっと拗（こじ）らせてるんやろうな。

　とはいえ、こうなったらウチも黙ってられへん。

　やられっぱなしは嫌や。

「あのコラボは美咲さんから提案してくれたんやで。絵里ちゃんと違って、ウチは色々なモンスターの倒し方をしっとるからな。その力を借りたいって、ウチを必要としてくれたからこそのコラボや」

「きぃぃぃ！」

　おお、効いとる効いとる。

　少しの間絵里ちゃんは取り乱して、スッと元の顔に戻る。

「あなたの投稿動画は全部見たし、今日の行動も後ろから少し見学させてもらったわ」

「えっ、じゃあ今日感じてた視線は絵里ちゃんやったんか……」

「ともかく、あなたの戦い方は単調に剣を振って、ステータスでゴリ押すだけの無様そのものよ！」

「ぐぬぬぬ……」

　事実なだけに言い返せない。

「美咲さんは優しい人だから、そんなあなたを哀れに思ってコラボをしてくれただけなんだから。いい気にならないでね！」

「は？」

　ちょっと待てや。

　なんでウチは初対面でこんなに煽られなあかんねん。

「何を好き勝手言っとるんや！」

「なによ！」

「「うぎぎぎぎ！！」」

　絵里ちゃんと額を突き合わせて、互いに唸る。

　ええい！

　そっちがその気ならこっちにだって考えがあるで！

「その辺にしておけ」

「真中さん！　止めんとってや！」

「いいから冷静に周りを見てみろ」

　魔王に言われてウチと絵里ちゃんは周囲を見渡す。

　知らんうちにウチらを囲む人だかりができとった。

「あれって鎌田絵里と掛田志保だよな？」

「おお、東西の有名女子高生冒険者が揃ったぞ！　これは今日来てよかった！」

「ふたりともカワイイ！」

「なんか揉めてるみたいだけどもしかして不仲なのか？」

「同じ女子高生冒険者としてライバルなのよ！」

　等々、色々と言いながら多くの人が手に持ったスマホで写真を撮っている。

　しまった！

　今日はゴールデンウイークで冒険者ファンがいっぱい来とるんやった。

　そんな中で、ウチと絵里ちゃんが言い争いをしてたらこうもなる。

「というか、志保ちゃんの隣にいるイケメンだれ？」

「お兄さんかなんかじゃね？」

「そうなんかなぁ……。あっ、もしかして彼氏とか？」

「あり得るかも」

　などと、不穏な会話をしとる人もおる。

　こんなのが兄なのも彼氏なのもお断りや。

「どうだ。少しは冷静になったか？」

「「はい……」」

　魔王に諭されてふたりで元気なく返事をする。

「まあ、若人がぶつかることは悪いことではない。それが成長のきっかけとなることも多々ある。が、周りに迷惑をかけるのはいかんな」

　魔王が大人の余裕を見せてくる。

　なんか悔しいけど、言っとることはもっともや。

　ここはお互いに謝罪して、手打ちにするのがええやろな。

　ウチもちょっと絵里ちゃんを煽りすぎたわ。

「しかし、このままモヤモヤして終わるのもそれはそれで気分が良くないだろう」

　あれー？

　なんか雲行きが怪しくなってきたぞー。

「そこでだ。お前たちは冒険者なのだ。なれば勝敗はまさにそれで決着をつければいい」

「ええと、真中さんでしたよね？」

「うむ。吾輩は真中王太郎である」

「その、つまりどういうことでしょうか？」

　たまらず絵里ちゃんが魔王に尋ねる。

　ホンマ、いったい魔王は何が言いたいねん。

「どっちが勝者かは動画の再生数で決めれば良いのだ！」

「なるほど！」

「え、『なるほど』！？　なんで絵里ちゃん納得してんの！？」

　おかしいなぁ。

　家に帰れると思ったんやけどなぁ。

「ルールは至ってシンプル。新しく撮影・投稿した動画の24時間での再生回数で勝負する。単純に再生回数の多い方が勝者となる。敗者は勝者に謝罪をする」

「わかりやすいルールですね。それに、冒険者らしい。真中さん、完璧です」

　え、はい？

　なんで勝負する流れになってるんや？

「いやいやいや！　ちょっと待てや！」

　魔王の手を引っ張って、少し絵里ちゃんから離れる。

「なんだ？」

「『なんだ？』ちゃうわ。なんで勝手に真中さんが仕切っとるんや。それにウチには戦う理由がないんやが……」

　というか、仮にウチが負けたとして、何に対して謝罪するねん。

　今なら騒ぎを起こしたことをお互い様ということで謝罪できるけど、一方的に謝罪する内容がないんやけど。

「ふむ。吾輩としてはお前が今の今まで頑張ってきたことを良く知っている」

「な、なんやねん急に……」

「確かに絵里とやらが指摘するようにお前の戦い方はまだまだ拙（つたな）い。それでも一生懸命に成長していると一番近くで見て来た吾輩は理解している」

「う、うん」

「そんなお前が愚弄されたのが吾輩は悔しかったのである。とはいえ、吾輩が鎌田絵里に直接文句を言うのも少々問題があろうと思ったのだ。それで名誉回復のために勝負の場を用意したのである」

「お、おう……」

　え、ホンマに魔王どうしたんや。

　というか、ウチのことこんなに評価してくれとったんか？

　この胸に生まれた感覚はなんや。

　まさか、魔王に褒められて嬉しいんか？

「しかし、どうやらお前の望んだことではなかったようだな。わかった。吾輩が絵里に頭を下げて勝負の話はなかったことにしてもらおう。人間の小娘などに頭を下げるのは苦痛であるが、お前に迷惑をかけるのも本意ではない」

　そういって、魔王はスタスタと歩いて絵里ちゃんの方へと歩いて行く。

　ああ、もう！

　そんなこと言われて引き下がれるほどウチは器用ちゃうわ！

「真中さん！」

「なんだ？」

「ウチ勝負受けるわ！」

「おお！　そうかそうか！」

　魔王が嬉しそうに笑顔になる。

　ただ、若干笑顔が企（たくら）みが成功した感じの悪い笑顔に見えたんやが。

　あれー、もしかしてウチやらかしたんちゃうか？

「な、なんだかよく分からないけど……ともかく！　昨年の年間順位第10位の私に勝てると思わないことね！」

「ふん！　そっちこそや！」

　ウチらの話を聞いた野次馬達は大いに盛り上がる。

　そりゃ、突発的に企画が始まったようなもんやからな。

　ファンからすればおもろいこと間違いなしや。

「よし！　じゃあ今から行くわよ！」

　そんな喧騒の中、絵里ちゃんが気合を入れてダンジョンへと向かおうとする。

　が、それを止めたのは意外にも魔王やった。

「鎌田絵里とやら。少し待って欲しい」

「な、なによ」

「今日は掛田志保の単身赴任中の父親が久しぶりに帰って来るのだ。だから、勝負は明日として欲しい」

「むぅ。それなら仕方ないですね。わかりました。動画の撮影と投稿は明日にします。掛田志保！　明日は覚悟しておいて！」

　それだけ言って絵里ちゃんはさっさと立ち去る。

　お父さんが帰って来るから見逃してくれるあたり、やっぱり素は悪い人じゃないんやろうな。

　少々、憧れが強すぎて暴走してるんやろうなぁ。

　ウチ以上の美咲さん信者みたいや。

「よし。我々も帰るぞ。佳保殿が待っている」

「う、うん」

　周囲の視線を感じながらウチらもダンジョンを後にする。

「なあ、魔王」

「なんだ？」

「その、お父さん帰って来るからって、勝負を延期してくれてありがとうな」

「うん？　あ、ああ。そうであるな」

　あれ？

　なんか魔王の歯切れが悪いぞ。

　さっきの勝負を受けたときの笑顔といい、これはなんか裏があるんちゃうか？

「魔王」

「どうした？」

「なんか企んでないやろな？」

「はて？　何のことであろう」

　そう言って歩き出した魔王は手と足が一緒に動いとった。