第41話 高校生冒険者と高校生冒険者
「ふむ。それで救護室から出てきたわけか」
「はい……」
救護室からトボトボと出てきたウチを魔王が出迎えてくれる。
普通にダンジョンから出て来るのかと思っていたら、ウチの気配が救護室にあったため慌てて来てくれたらしい。
「まあ、目的が達せられたならよい。それに、見せてもらったオークのステータスからしても、今のお前が負けるのも仕方あるまい」
「うん……」
くぅー。
魔王の優しさが身に染みるで。
ホンマにこいつは泣く子も黙る魔王なんやろうか。
「そういえば、真中さんは何しとったんや?」
「グッズショップを見ていた」
「ひぇー、あれに並んだんか」
「確かに見た目のインパクトはあるが、それほど時間はかからなかったぞ」
いや、行列に並ぶという行為がウチはあんま好きやないんや。
特に暑い中で待つのは耐えられへん。
「ほんで、なんか買ったんか?」
「目的の物は売り切れていた」
「ほう。目的の物があるとは意外やな。常盤さんか? 加賀さんか? まさか美咲さんか!?」
「いや、その辺は需要を見込んでか、まだまだ多くの品揃えがあった」
「ほな、誰のグッズが目当てやったん? あ、まさか昨日話題に上がっとった鎌田絵里ちゃんか?」
まったく。
この魔王、実は女子高生好きのただの変態なんちゃうか。
ホンマに村娘みたいとかいう理由でウチを選んだんか怪しいもんや。
「お前だ」
「なーんやウチか。……はい? なんですと?」
「だからお前のグッズを探していたのだ」
「ちょ、ちょっと待ってや!」
え、は?
さっき魔王はグッズが売り切れとったと言うてたやん。
それってもしかしてウチのグッズが売り切れってことか?
そんなアホな。
魔王がよう見つけんかっただけやろ。
うん。そうに違いないな!
「念のため店員にも尋ねたが在庫もないそうだ。今朝のお前の話の通り、注目の冒険者のグッズを買い占めるというやつだな。次の投票は期待できるぞ」
「そ、そ、そ、そうやな! ま、ま、まあ! ウチの実力と美貌なら当然やな! ほ、ほら! 帰るで!」
「帰るのはいいのだが、手と足が一緒に動いているぞ」
緊張でゲロ吐きそうや。
うせやん。
ウチのグッズが売り切れとか2回目やん。
1回目はウチが冒険者になってすぐに、美優が財力を使って買い占めたときや。
迷惑やからやめるように美優には言い聞かせたから、今回の売り切れはホンマに売れたってことやん。
「こ、この歩き方は伝統的な歩き方なんやで! 魔王に見せたろうと思ってわざと手と足を一緒にしてただけや!」
「なるほど。そのような歩き方があるのだな」
そこはつっこめや!
魔王もまだまだやな。
「はぁ。ともかく今から帰るってお母さんに連絡するわ」
「うむ」
ポケットからスマホを取り出す。
すると、画面には新着メールが届いたという通知が表示されていた。
ダンジョンから出たことで電波が回復したからやろうな。
「何のメールやろうか。まあ、どうせ迷惑メールやろうな」
「むっ。金を受け取るように言われても無視するのだぞ。奴らは言葉巧みにこちらを騙そうとするからな」
「いや、わかっとるわ。そんな自慢気に言われんでも」
なんでそんなに迷惑メールに魔王が敏感なんかさておき、とりあえず確認だけしてみる。
意外にも迷惑メールではなく、差出人は冒険者事務局であった。
はて?
冒険者事務局が何の用事やろうか。
まさか魔王のことがバレたんか?
「どこからだ?」
「冒険者事務局からや」
「ほう。して、用件は?」
「いま確認するわ」
件名と文面に目を通して行く。
「……は?」
「どうした?」
どう説明していいのやらわからず、魔王にそのままスマホを手渡す。
正味、冒険者事務局が何を言っているのか理解できへんかった。
「【新グッズ販売のお知らせ】と件名に書いてあるな。よかったではないか」
そう。
冒険者事務局からのメールには最近の人気に鑑みて、新しいグッズの販売を開始すると書かれとった。
いや、それだけならまだわかる。
売り切れるぐらい人気のウチのグッズを売って儲けたいのは当然や。
けど、問題はその新グッズの内容や。
「何々……『ゴブリン対策としてのタマネギ人気は低レベル冒険者の間で凄まじいものがあります。一方でタマネギを迷宮に持ち込む煩わしさも報告されております。加えて、グッズショップにてタマネギを売っていないか尋ねるファンも急増しています。そこで、新グッズとして【掛田志保印のタマネギ】を販売することとしました。』だと? なんだこれは……」
さすがの魔王も驚いとる。
ご丁寧にも商品イメージとして画像まで添付されとった。
ぱっと見は、よくあるオレンジ色のネットに入った5個入りのタマネギや。
けども、ネットの表には【掛田志保印のタマネギ】という商品名と共に、デフォルメされた笑顔のウチのシールが貼られとる。
言い換えればそれだけの商品や。
「な、意味わからんやろ?」
「念のために聞くが、こんな訳の分からないグッズが発売されたことはあるのか?」
「聞いたことないわ! なんやねんこの変わり種グッズは!」
しかも、ダンジョンで使用する冒険者向けのタマネギは廃棄予定のものを使い、ファン向けはちゃんとした食べられるタマネギを使うという配慮ぶりである。
「はぁ……はぁ……なんか久しぶりに本気でツッコミ入れた気がするわ……」
「う、うむ。だが、どうやら元気にはなったようだな」
「元気を通り越して、なんか更に疲れたわ。ともかく、お母さんに今から帰るって連絡するわ」
本来の目的を思い出して、メッセージアプリでお母さんに連絡を入れる。
一瞬で既読が付いて、『了解』のメッセージと共にデフォルメされた首のもげたゾンビのスタンプが貼られる。
相変わらず、お母さんのスタンプのセンスはようわからん。
なにかとグロ可愛い系のスタンプばっかり貼って来る。
しかし、この流れやと、そのうち【掛田志保印のゴマ油】とか【曽根美咲印の赤ワイン】とか売りだすんやろうなぁ……。
「よし。ほな、今度こそ帰ろか」
「そうであるな。大志殿が帰宅する前に戻らねばならぬからな」
魔王を引き連れて駅に向かって歩き出したときであった。
「ちょっと待って!」
不意に誰かに呼び止められる。
ああ、もう!
次から次へとなんやねん!
「あ、あ゛?」
「ひぃ!」
振り返ると女の子が立っとった。
身長や体型はウチと変わらんくらいや。
インナーにピンクの入った明るめの髪をショートカットにしとって、これがよく似合ってめっちゃ可愛い。
え、お持ち帰りしたいんやけど。
はて、こんな可愛い知り合いはおらんかったと思うんやが。
美優は残念美人枠やし。
「ご、ごめんな! ちょっとイラついとって」
「うぅ……」
怯えたのか、女の子はちょっと小っちゃくなっとる。
「怒ってへんで。ホンマにごめん」
あれ?
よく見たら、この子どっかで見たことあるような……。
そんなことを思っていると、女の子が意を決したように話しかけてくる。
「掛田志保さんだよね?」
「うん、せやで……あっ!」
ここで目の前におる人物の正体に気付く。
「も、もしかして鎌田絵里ちゃんか!?」
「う、うん」
「おお! え、嘘やん! うわー!」
まさかこんなところでトップランカーに会えるなんて思ってへんかったで!
しかもウチと同じ女子高生の鎌田絵里ちゃんに会えるなんて!
いやー、面倒なことばっかりやったけど、ええこともあるもんやなぁ。
この前は美咲さんにも会えたし、意外とトップランカーに縁あるんかな?
「握手してや!」
「え、あ、うん」
この握手でちょっとウチのステータス上がったりせんやろか。
……そんなわけないか。
そんなんでステータス上がるなら、美咲さんに抱きしめてもらった段階で滅茶苦茶つよなってるわ。
「あれ?」
「うん?」
「そういえば、絵里ちゃんって確か関東ダンジョンで活躍しとる冒険者やんな。なんで関西におるん?」
「ゴールデンウイークを使って関西ダンジョンの遠征動画を撮ろうかなと思って……」
「おお! さすがトップランカーやな! やっぱり色々考えてるんやなぁ」
ウチのその発言を聞いた魔王が『お前も少しはランキングを上げるように考えたらどうなのだ』と言いたそうに呆れた顔をする。
わ、悪かったな。
しかし、よくよく考えたらなんでウチを呼び止めたんやろうか。
関西に遠征動画を撮りに来ただけなら、わざわざ声をかけてこんでもええやろうに。
あ、もしかして関西に来たついでにコラボ動画を撮りたいんかな?
いやー、ウチもホンマ有名人になったもんやなぁ。
「って! こんなことするために呼び止めたんじゃない!」
「うわ、びっくりした」
絵里ちゃんが握手してた手を振り払って、急に大きな声を出す。
「私が関西に来た理由はそれだけじゃない!」
「えっと、なんや?」
「あなたに会いに来たのよ!」
あ、あれ?
ウチに会いに来たという予想は当たってたけど、なんかウチが予想しとった雰囲気とはまるで違うぞ。
友好感が全然ないんやけど。
「なんでウチに会いに来てくれたん?」
「掛田志保!」
「は、はい!」
勢いに気圧されて、思わずいい返事をしてしまう。
出席確認でもこんな元気な声で返事したことないで。
「私はあなたを許しません!」
ああ、なんやねん。
やっぱり面倒ごとやん……。
いつになったら家に帰れるんや。
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