第40話 相変わらずやられる冒険者
入口に冒険者の列ができとるかと思ったら、意外にもほとんどおらんかった。
せっかくなのでいつものお兄さんのとこへ並ぶ。
「ゴールデンウイークなのに意外と並んでる冒険者が少ないんですね」
「いやー、そうは言っても朝は凄かったよ」
「あ、もうみんな潜ってるから並んでいる人が少ないんですね」
「そうそう。何と言ってもゴールデンウイークだからね。中には日を跨いで潜るって気合を入れてた人もいるよ」
随分とお兄さんともフランクな関係になったもんや。
もう、なんの驚きもせずに会話しながらゴマ油の持ち込み手続きを終えとるわ。
ちなみに、ゴブリンとは普通に戦えるステータスになったからタマネギは持ち込んでへん。
あれ、家から持ってくるの普通に荷物やねんなぁ。
「日を跨ぐっていうと、『ゴールデンウイークぶっ続けで潜り続ける』って企画動画とかですか?」
ゴールデンウイークに限らず、長期休暇のときには何人かの冒険者で一緒にダンジョンに潜る企画が催されてる。
あれもコラボ動画の一種やな。
「そうそう。あのシリーズ面白いよね。僕結構好きなんだ。途中でモンスターにやられて潜り続けられなくなったら罰ゲームがあって。ああいうのに掛田さんは参加しないんですか?」
「遠慮しておきます」
さすがにウチはそんな動画を作るつもりはない。
なんであんな暗くてジメジメしたところに長時間おらなあかんねん。
魔王だって『それの何が面白いのだ』と言って許可せんやろうし。
「ええと、今日は潜っている人が多いので入口の希望はお聞きできないのですが、大丈夫ですか?」
「大丈夫です。今日は偵察だけなので」
「では、南口からお願いします」
手続きを終えて南口へと向かう。
……なんやろか。
なんかさっきから視線を感じるねんなぁ。
振り向いてみるが、手続きをしている中年の男性冒険者しかおらん。
「気のせいか……早よオークを探して帰ろ」
南口に到着すると、横に置いてある転送装置に触れて第3層へと転移する。
日本と魔王城の行き来もこんな感じなんやろうか。
というか、この技術を部屋と学校の間で使えたらええのに。
なんでダンジョン限定でこんな凄い技術が使われとるんやろ。
「はぁ。どうしようもないこと考えとらんと、オークの捜索やな」
どうせダンジョンに潜ったんやし、第4層へ降りる階段方面を目指してみよ。
いずれ魔王に『階層を進めるぞ』って言われるやろうし、何度もダンジョンこんでもええように先手打つのも悪くないな。
スマホに表示させた第3層の地図を確認する。
ダンジョン内では電波が入ってへんから、事前に攻略サイトのページをスクショしたもんや。
「ええと、こっちやな」
魔王のおった世界ではどうなんか知らんけど、関西のダンジョンも関東のダンジョンも既に内部の地図は判明しとる。
ダンジョンができてすぐの頃はマッピング動画って分野が流行ったみたいやけど、今では完全に下火や。
一応、その流れを汲んだ【隠し部屋探し】ってジャンルがあるけど、まあ伸びてへん。
なんせ、ゲームのダンジョンなんかでは隠し部屋は鉄板かもしれんけど、この現実に存在しとるダンジョンでは、未だかつてそんな場所が見つかってへんからな。
ただただ壁や床を調査するだけの地味な動画に成り下がっとる。
ちなみに、初めての最下層マッピング動画を撮影したのがレジェンドの加賀さんや。
その撮影で偶然にもドラゴンに遭遇したことで、初めてドラゴンと戦った冒険者っていう称号も同時に手にした。
ウチはよう知らんのやけど、ネットで読んだ記事では当時は随分と騒がれたらしい。
「むむむ……この匂いはタマネギ……」
どこか近くで他の冒険者がゴブリンと戦っとるんやろうな。
ウチが動画を投稿して直ぐの頃はあっちこっちで匂ってたけど、最近は無くなってたんやけどな。
そういえば、意外とダンジョン内では他の冒険者と会うことないんよなぁ。
まあ、冒険者自体全国で350人もおらへんし、しかも東西2つのダンジョンに東西南北4つの入口がある。
入口1つあたりに換算すれば冒険者は43人くらいになる。
さらにさらに冒険者のレベルによって潜る階層も違うし、関西や関東近辺に住んでへん冒険者はそうしょっちゅうダンジョンに来ることもできへん。
そりゃ、出会うことは少ないわな。
この時期にタマネギの匂いがする距離に他の冒険者がおるってのは、混雑するゴールデンウイークならではかもしれへんな。
「って、タイミング悪いな……」
土むき出しの代わり映えしない道を歩き続け、道中のスライムを油まみれの剣で容赦なく切りつけ、悪臭を感知したらゾンビを避け、分かれ道で迷わへんように注意したりすること数十分。
もう少しで第4層へと降りる階段が見えるというところで目的のモンスターを発見する。
ゴブリンを大きくしたような外見に、黄土色の皮膚。
そして何より特徴的なのは、漫画のヤンキーが金属バットを持つときのように、右手に持った棍棒を肩に乗せとる。
「どないしよ……」
撤退するか、戦って第4層を目指すか。
けど、ここから撤退するのも面倒やねんなぁ。
贅沢なクレームかもしれんけど、転送装置で行き来できるのが各階層の入口だけってのはなんとかして欲しい。
まあ、そんなこんなでダンジョンの外に戻るなら、目の前のオークを倒すなり、スルーするなりして第4層へと降りた方が早い。
他には、倒されて救護室送りって方法もある。
けど、いくら死なへんとはいえ、殴られると多少なりとも痛いから嫌や。
ホンマにあの棍棒で攻撃されるのに比べたら痛みなんて雲泥の差なんやろうけどな。
この痛み軽減仕様もダンジョン七不思議やなぁ。
いや、七つも不思議あるんか知らんけど。
「とりあえずは目的を果たさなあかんな」
スマホを取り出してオークのステータスを表示する。
…………………
【ステータス】
名称:オーク
体力:300
攻撃力:160 ≪基礎70・装備補正90≫
防御力:70
獲得経験値:200
【装備】
棍棒:攻撃力90
…………………
「えっ、はぁ!? ちょ、ちょっと待ってな!」
オークに日本語が通じるんか知らんけど、比較のために自分のステータスも確認する。
こちらの意図を理解してくれたのか、意外にもオークは大人しく待ってくれる。
…………………
【ステータス】
氏名:掛田 志保
レベル:10/100
必要経験値:1200(現在650)
体力:105 ≪基礎5・レベル補正100≫
攻撃力:73 ≪基礎3・レベル補正50・装備補正20≫
防御力:55 ≪基礎5・レベル補正30・装備補正20≫
魔防力:13 ≪基礎3・レベル補正10≫
【装備】
鉄の剣:攻撃力20
鉄の鎧:防御力10
鉄の盾:防御力10
…………………
「うわ……めっちゃ強いやん……」
はっきり言って、ホンマに滅茶苦茶強い。
今のウチは体力105で防御力55やから、攻撃力160のオークの攻撃を食らえば、一撃で丁度おつりなしの救護室送りや。
対して、攻撃力73のウチでは、防御力70のオークにはたったの3ダメージしか与えられへん。
いや、まあ未だに鉄装備しか付けてないウチが悪いっちゃ悪いんやけどな。
だって、魔王が交換の指示を出さへんのやもん。
「グオォォ……」
うわぁ、オークがこっち見ながら静かに唸ってるやん。
こっわ!
ともかく、ここは撤退やな。
あんなもん相手にしてられるか!
「え、ええと、ほなな! ウチはこれで失礼するわ!」
「グフッ!」
挨拶をすると吠えはするものの、意外にも襲ってこうへん。
これはラッキーや。
来た道を戻るべく振り返る。
「おお……まじか……」
振り返ると道を塞ぐように別のオークが2体立ち塞がっとった。
というか、なんならその後ろに子分のようにゴブリンが4体続いとる。
「こ、こいつ、ウチが逃げられへんの知ってて余裕の態度かましとったな!」
第4層への階段を塞いでいたオークの方を再び見ながら怒鳴る。
すると、まるで勝ち誇ったかのようにオークがニマッと笑う。
は? クッソムカつくんですけど。
「女子高生をなめんなや! やったろやんけ!」
撮影しとったら絶対に口にできない言葉を叫びながら、腰に差した鉄の剣を引き抜いて突撃する。
ああ、今のウチはめっちゃカッコええんちゃうか。
これで勝てたらもっとカッコよかったんやけどなぁ……。
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