第23話 換金について知る魔王

 動画の撮り直しというハプニングこそあったが、無事にスライム討伐動画の編集を終えてサイトに上げることができた。

 ゴマ油を塗った剣でスライムを倒すという破天荒な内容のおかげで、今回の動画も注目動画ランキングに掲載される。

 今や志保は変わり種動画の冒険者として少しずつ有名になっている。

 当の本人は動画の評判のなかで『服が破れてないなんて……』だの『志保ちゃんかわいいよ志保ちゃん』だの『スライムもっと頑張れ』といったものを見つけてはキレていたが。


「それで今回は換金するということでいいのだな?」


 今は次の動画について風呂上がりの志保と話しているところであった。

 その中でポイントを換金したいと提案されたのである。


「アカン?」

「いや、お前のポイントだ。お前が決めるといい」


 吾輩はあくまでも志保のサポートないしプロデュースをする立場である。

 実際にどんな動画を撮るのか、動画で得たポイントをどうするのかの決定権は志保に存している。

 そうでなくては嫌々やりたくもないことをやらせることとなり、何一つとして楽しいことがない。

 吾輩は志保をトップ冒険者にしたいのであって、操り人形の奴隷をトップ冒険者に仕立て上げたいわけではない。


「それで今は何ポイントなのだ?」

「ええと、34万7545ポイントや。こんなにもポイント増えるなんて、春休みの頃は思ってへんかったわ……」

 

 スライムの動画は上げたばかりであったが、もう既に再生回数は13万ちょっとである。

 これからまだまだポイントは溜まるだろうが、確かにゴブリン相手に苦戦していた冒険者が短期間に手に入れるポイント数ではない。

 色々な動画を見てきた吾輩だからこそわかる。

 志保は完全に特異な例である。


「それでどれだけ換金するのだ? 全て換金すれば6万9509円になるはずだが」


 つくづく動画の再生回数で稼ぐというのが大変だとわかる。

 これだけ話題性のある動画を撮ったというのに、1か月生活する分にも満たない稼ぎしか貰えないのである。

 言い換えれば一度軌道にさえ乗れば、放置していても過去動画の再生回数が増えて楽なのかもしれないが。

 実際にスライム動画を上げたことで、再び前回のゴブリン動画の再生回数も増えている。

 投稿を続けるうちに相乗効果でより稼げるということだろう。


「計算めっちゃ早いな……」

「これくらい魔王なら当然だ」

「けど7万円いかへんくらいか……ほんなら、ほぼ全部換金したいんやけど」


 全部と来たか。

 志保が決めれば良いとは言ったが、これは少し予想外であった。

 友人と遊びに行くために1万円ほど換金する程度だと思っていた。


「1つ聞きたいのだが、金をポイントに返還することはできないのだな?」

「うん。それができたら金持ちが有利になってまうからな。できるのはポイントからの換金だけやねん」

「やはりか」

 

 となると、全てのポイントを換金してしまうと、投稿済み動画の再生回数が増えるか新作動画を投稿しなくては、装備の更新ができなくなるわけか。

 ふむ…………。

 まあ、問題はないだろう。


「お前の好きなようにすればいい。魔王に二言はない」

「装備が新しくできへんなるけど……」

「しばらくは今の装備で問題ない」


 ゴブリンとスライムを狩ってレベルアップに専念するのも悪くない。

 今までは再生回数稼ぎを目的としていたため、根本的に志保のステータスが足りていなかった。

 ダンジョンの階層を進めなくては、新しい動画の題材となる新しいモンスターにも出会えないのである。

 今更、ただただゴブリンやスライムを倒す動画を上げても、ファンの期待を裏切るだけである。

 どのような内容の動画を撮るにせよ、次なる動画を上げるには新しいモンスターと出会う必要がある。

 そのための準備期間だと思えばいい。


「換金の理由くらいは教えて欲しいものだ」

「あ、うん、せやな。実はな…………」


 志保から換金したい理由を聞きだす。

 理由としてはを買いたいということであった。

 

「なに!? なぜそれを早く言わないのだ! 今すぐ換金しろ!」

「う、うん。急に乗り気になったなぁ」


 吾輩でも先の理由を聞けば換金の必要性くらい理解できる。

 それくらいの事象であった。


「だが、換金とはどうやるのだ? まさかスマホから金が出てくるわけでもあるまい」


 いくら便利な機械とはいえ、画面から物体が出現するとは思えなかった。


「当たり前や。2種類の方法があって、口座に振り込んでもらうか電子マネーとしてもらうかのどっちかやねん」

「むむ。口座への振り込みというのは何となくわかる。銀行制度の存在する世界に行ったことがあるからな」

「いや、その他の世界とかいう方がウチには良く分からんけど。電子マネーって言うのは……簡単に言えば装備品みたいな感じで、データのお金やな」


 そう言って志保はスマホを操作して何やらアプリを起動させる。

 提示された画面には1240円と表示されていた。


「いまこのスマホにはこんだけの金額のデータが入ってんねん。ほんでこれは現金と同じように店で使えるんや。つまりデータの受け渡しで1240円分の買い物ができる」

「ほう。便利なものだ。現金の持ち運びも釣銭勘定も不要ということか」

「そう言うことやな。それに電子マネーでの換金やったら即時にできるんや。振り込みの方はどうしても時間が掛かるからな。即時とは行かへん」


 なるほどな。

 装備を購入するもの一瞬だったように、データというもののやり取りだけなら即座に換金できるというわけか。

 本当にこの世界の科学技術は進んでいる。


「なら今すぐ換金するといい」

「ほな申請するわ」


 再び志保がスマホを操作する。

 そしてしばらく待っていると先ほどの電子マネーの画面を見せてくる。

 画面には6万円と表示されていた。


「全額換金したにしては1万円ほど足りないようだが」

「そっちは口座振込にした。現金として手元にある方が便利なこともあるからな」

「そうか」

「明日の学校終わったら早速行こか」

「…………うん? その言いぶりだと吾輩も買い物に付いて行くのか?」

「せっかくやから行こうや。街のこと知っとったら便利やろ?」


 ふむ。

 確かにそうかもしれない。

 今のところ吾輩の移動レパートリーは拠点である掛田家とダンジョン、それに学校だけである。

 三郎や古谷に出会った場所まではタクシーで移動しただけあって少々離れている。

 何もこの世界での楽しみを志保の育成だけに絞る必要もない。

 ならば街を知るのもいいだろう。


「よかろう。明日は吾輩もついて行こう」

「よっしゃ。決まりやな。ほな寝るわ」

「うむ。魔王が見張るのだ。安心して眠るがいい」


 この部屋は世界で一番安全であることを保障しよう。

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