アンチェインド

 ここはどこだろうか。


 全身が消失したような無感覚の中、僕は一人、見覚えのないどこかに立っていた。



 声が聞こえる。


 言葉ではない、きんきんとした響きのようなものだったが、しかし僕にはなぜか、それが誰かの声だとはっきりとわかった。


 僕はその声に誰、と聞き返す。すると、声は少しだけトーンを変えて再びどこかから聞こえてくる。


 僕は何度も問いかけた。どこにいるの?僕にどうしてほしいの?


 それに応じて、誰かの声も徐々に大きく、近くなっていく。


 やがて、声のする方向がおぼろげに定まってくると、僕はそこへ向けて一層大きく呼びかけた。


 どれくらいそうしていただろう。時間の感覚が曖昧だったけれど、しかし不思議と、そんなことは気にならなかった。


「――――」


 ふと、今までで一番はっきりとした声が聞こえてくる。


 僕はそれに応えたくて、必死に叫び返した。


「キミは誰っ!?どこにいるのっ!?」


 声はどんどん近く、少しずつ鮮明になっていく。


 いつの間にか、身体はいつもの自分の姿に戻っていた。蘇った全身の感覚を研ぎ澄ます。声は、もうすぐそこまで接近していた。


 そして、ついに手が届くほどの距離にまで声が近づいた、その時。


 ふっ、と何の脈絡も前触れもなく、突然視界が真っ暗になる。

 見上げると、小さな円形の穴が凄い速度で遠ざかり、どんどん小さくなっていくのが見えた。


 落ちていく。暗く、深い、闇の底へ。


 いやだ。もう、あそこには戻りたくない。


 助けて。


 誰か。


 たす、け、



『――――思い――せ――――お前の――――』

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