第参音目「生きる為の手段」

ーー其れは思い出したくもない過去の一つの一日であった。


私は気付いていた。

なぜこの研究所が何の為にあるのか、

なぜ自分が居るのか、

なぜ仲間が消費といって殺されていくのか、なぜ自分が殺されずに今を生きているか。


全て理解した時、身体が勝手に動いていた。


仲間を救う為に必要な情報、経路、金、全てを知らなければならないと、本を読み、知識を得て、たまに賭け事、外道な事をし、積み重なって行く。


それは、走って行くように日々が過ぎていくように感じた。


いつしか、仲間になぜ逃げるのか、どう逃げるのか、全てを説明し、理解出来るまで話した。


その日まで、仲間とすごした日々が、ゆっくりとしたような、早いような、そんな時間が流れていた。


その日までは……。


ついに決行の日が来た。

仲間がしっかりと今日まで生き残っていた。その事に私は嬉しかったが、これからは、バレないようにしなければならないと、自分に喝を入れて、深夜、実行した。


運動が得意な奴に監視機器を封鎖して貰い、見廻り時間、配置も計画通りなので、針金で鍵を開け、研究所の入口まで、練習していた音の無い歩きをして近づく。


全て順調だった。

望むのは、新しい未来。

皆、同じであった。


全員地下から出たことに安堵し、喜んだが、異変に気づくのに遅かった。


夏のような蒸し暑い空気が周りを包み込んでいて、温度が、上昇していくのをじわじわ感じる。


渦の中心にいる人物の周りは軽く近づくだけで溶けて死ぬだろう。


気づいたら、簡単に数えられる人数になっていて、最後の三人となっている頃には私は、膝から崩れ落ち、絶望と言うものを味わった。妹達も泣き崩れていた。


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「私の過去は明るくは無い。寧ろ、闇に包まれているくらいだ。だが、そこで死んだ仲間達が見れなかった未来を、外の世界を、太陽を。全て私が感じようと、頑張っているのだよ。」



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