交響曲第一番 第一楽章

第壱音目「終わりの始まりと叫ぶ」

目覚まし時計の音で目を覚ます。


春だけど少し寒いので布団に少し籠る、

そんなことしていると母が私を起こしに部屋へ向かう。

それを聞いて兎のように飛び起きる。


今日は入学式。中学生になる、新しい日が始まる。

新しいカバンに

新しい制服、

新しい時代に私は身を投じる。


朝の陽射しに向かって玄関を出ていく。

「行ってきます!!」

と元気よく言った。


そこでジリジリとけたたましくなるチャイムに目が覚める。


天井は黒に近い灰色と緑色と、木の芳醇な香りも濃い茶の色も無いと改めて落胆するのには慣れてしまった。


思えばここに来て8年がたった。


5歳の時に女が私をここに連れてきて、

「この兄を殺した人でなしが!もう私の目の前に現れるんじゃないわ!」

といい残して去っていった。


初めの頃は、自分が何をして、ここに居るのかが分からなかったが、

今となっては、ここが何なのか、なぜ私がここに居るのか、言わずとも分かってしまった。


ここは研究所。

MusicParadeを作る為に人間を検査し、逃げ出さないよう監禁する為に建てられた政府の上の者しか出入り出来ないところだ。


私は、今、最年少検査対象者である。

そのせいか、研究者から色々な薬を投与される。


薬の副作用で死んだ同い年の子を何人も見てきて、人の心が亡くなった気がした。


いや、亡くなった気がした。のでは無い、無くしたのだ。


だから、私はこの研究所から脱出する。


この1年、脱出する為に痛みにも、傷にも、悲しみ、怒り、どんなものにも、耐えて、決して悟られぬようにした。


医学の本を読み、知識を得てから、ある夜に、自分の腕に埋め込まれたチップをナイフでとった。


痛かったが、自由になるなら、と思えば耐えられた。


傷が瘡蓋になる頃、私は研究所を飛び出した。


監視カメラが動かない時間と、見回りの交代が重なる頃、身代わりの人形をベッドに置いて鉄格子の窓を壊して、複製して、必死に音をたてないように、走った。


私は、地下の地獄からやっと地上へ出て、研究所を囲む巨大な壁を越え、

久しぶりに見る街の景色に驚きと、

敬愛を込めて、


「初めまして、私の新しい世界。」


と地獄の終わりの始まりを叫んだ。

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