第3話

種馬か。

まぁ、それも悪くないかもしれない。

エニの言葉にフッと笑ってしまった。

「よし、わかった。俺で良ければエニを手伝うよ。」

異世界でアダルトグッズ専門店。

なかなか面白そうかもしれない。


そう思い直し、ゆっくりと立ち上がる。

死ぬよりは百倍、いや何千倍も良いはずだ。


立ち上がり、しゃがんでいたエニに向けて手を差し出せばエニは少し意外そうな顔をしてからとびきりの笑顔を浮かべ手を取ってくれた。

「ありがとう。じゃあ、色々とこれからよろしく。正式に転移する時にあなたの今持っている能力をスキル化して付与するわ。…あと、これは私からの"祝福"よ。きっと役に立つわ。」

手を取り合い、同じ目線の高さとなったエニからチュッと鼻先にキスをされた。

キーンという強い耳鳴りと目眩があって、うう、と唸り声をあげ目を閉じていればエニがよしよし、と頭を撫でてくれた感触があった。

ふんわりと春みたいないい匂いがした。



「あなたが役に立ってくれると信じてるわ。」



耳鳴りと目眩が治まり、次に目を開いた時にはエニの姿はなくなっていた。


蒸し暑かった店内も心無しか涼しく、店の外はザワザワと賑やかだ。


慣れ親しんだ秋葉原からは離れたことがわかった。

少し感傷に浸りながらも、よし、と顔を叩けば店をちゃんと開ける準備にかかる。

俺がいた世界じゃ夜だったけど、こっちの世界は日の差し込む感じからしてもまだ夕方くらいだろう。

客層も見なければ。


天気が悪い日以外は出入口の扉は開け放ってある。

扉を恐る恐る開けてみれば、何人かが突如現れた謎の扉を不思議に思ったのか店の扉をジロジロと見ていた。

「いらっしゃい、今日からオープンだよ!」

興味津々と言った様子で扉を見ていた青年に声を掛けた。

「あ、いや…俺…」

俺が声を掛けたことで真っ赤になって青年は逃げ出して行った。

いや、なんか悪い事したかな…。

ふぅむ。と首を傾げながらも、扉は開けたし、とレジカウンターに戻ればレジから羊皮紙が出てきた。


ざらりとした手触りのそれを出し、内容を読んでいけば先程まで話していた俺の"雇用契約内容"が丁寧に書いてある。


まとめればこんな感じだ。


・アダルトグッズを人々に広めて少子化対策に務めること

・俺の世界には帰れないこと

・こちらの世界での生活は不自由ない程度に補助すること

・住居は今まで住んでいたアパートを3階に繋げたのでそちらを利用するようにと

・水道電気光熱費はエニの方で支払いを済ますから気にしないでいいということ

・物資の支給、補助は日本円にてやり取りすれば可能であること

・俺の世界への干渉は裏のスタッフ出入口からなら可能(荷物の受け取りとかのみ)

・"神の祝福"として"言語翻訳"と"愛の伝道師"を授けたこと


最後のなんだ、愛の伝道師って…。と思いながらも、まぁご都合主義な俺の異世界転移生活が始まった。

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