六章 赦し

 壁に手をつき、身体を引きずるように下りていくレイラの歩調は遅々としたものだ。

 ウェイグは、その後ろで徐々に苛立ちを募らせていく。

 山道の通行を阻まれ、迂回路をとる羽目になった今、悠長にしていられる時間はない。欠片探しは時間との勝負。他の冒険者に先を越されてしまっては意味がない。


『……ワシらを置いていくんか!』


 ふいに、当時の細腕に縋りついてきた父の顔が思い出された。泣き崩れた母、茫然とする弟や妹の姿まで。鮮明に。


 ウェイグは奥歯を噛みしめ暗示した。


 俺は家族を捨ててきたわけじゃない。

 むしろ、その逆だ。

 家族を救うために、みんなで一緒に幸せになるために、大金をもって帰るんだ。


「……今度こそ」


 その時、ピーヒョロロと特徴的な鳴き声がして、ウェイグは我に返った。空を見上げれば、赤らみ始めた空に鳶の影絵。翼を拡げたまま、のびのびと旋回している。


 ああ、俺たちにも翼があれば……。


 ウェイグは、つと右手の崖を見下ろした。

 せめて、この山道だけでもショートカットしたい。

 無理だと理解しつつも、崖下の黄色いカーペットに目を凝らす。

 すると、風に波打つ黄葉の樹冠が、翼などなくとも柔らかくこの身を受けとめてくれそうな気がする。断崖の石くれが、パキと音をたてて割れる。


 ……ダメだ、ダメ。


 ウェイグはすんでのところで手離しかけた意思をたぐり寄せた。

 壁に手をつき、レイラの背中へ向き直ると、以前にも増してその歩調が意識されてきた。

 背筋が強張る。

 無論、そこに翼はない。

 焦燥がじわじわと胸を侵し、やがてそれは逃げ場を求めるように飛び出した。


「もっと急いだほうが良くない、かな?」


 とっさに口調を改めたが遅かった。ささくれ立った感情すべてを隠しきれるはずもなかった。

 案の定、肩越しにこちらを見返したレイラの目に怒りと呆れが過ぎった。

 ところが、二人が険悪になることはなかった。

 レイラは冷静だった。


「下りは負担が大きいです。逸れば足腰を痛めるかも。慎重に行きましょう」

「うぅむ……」


 ウェイグは、ひとまず得心した様子で頷いた。

 無理に我を通そうとしないこと。

 それは冒険者に求められる最大の素質だ。

 恣意しい的な行動をとっても、ろくな目に遭わない。危険を自ら招き入れてしまったり、仲間との間に軋轢あつれきを生じてしまったり――。


 とはいえ、呑みこんだ苛立ちは、腹の底で燻ぶり時とともに熱を増していく。背中に吹きつける風は、それを煽るように強まる。


 堪えろ、堪えろ。


 ウェイグは己に言い含めたが、反して足音は喧しくなっていった。

 空の赤みは、いよいよ紅潮した顔のようだ。

 おもむろにレイラが振り返る。


「ウェイグさん、どうか慎重に」


 釘を刺された。

 こうなると、むきになってしまうのが人の性だ。


「……このままじゃ次の街へ辿り着くこともできない。門が閉まってしまう」


 しかし反抗的な態度にも、レイラは顔色一つ変えなかった。


「必ずしも宿をとる必要はないです。準備は整えましたよね? 今夜は野営しましょう」

「野営するのは構わないが、急ぐべきじゃないか? 迂回路をとるとなると、当初の予定より大幅に旅程は伸びるんだから」

「もちろん急ぎます。でも、今は慎重に。ケガをすれば却って遅れます。今は体力を温存して、地上へ下りたら距離を稼ぎましょう」


 それほどやわではない、と言いたかったが、確実に負担は蓄積していた。痛みを感じるほどではないにせよ、足腰に砂を挽くような違和感があった。

 一瞬の沈黙のうちに、レイラは畳みかけてきた。


「幾つかの集落は避けて進む予定です。なので街道からも外れます。街道は安全で歩きやすいけど、集落というのは人が住みやすい環境に配置されるものですから。避けて通ったほうが早い場合もあるんです」

「ふむ……」


 彼女の考えは分かった。

 獣道を行くのだ。

 ウェイグとて、これが初めての旅ではない。獣道の険しさは身を以て知っている。怪我が原因で命を落とした奴もいたし、猟師の忠告を聞かず獣の穴ぐらに手を突っ込み隻腕となった奴もいた。

 それを思い起こすと、頭の熱が鎮まるのを感じた。


 今の俺は彼らと同じだな……。


 旅において不可欠なのは、仲間を信用することだ。

 レイラは若いが、決して未熟ではない。こうして話していても、彼女の歩んできた道程の確かさは知れる。


 ウェイグは大仰な嘆息をもらした。

 無論、自分自身の未熟さに対してだった。


「ごめん。レイラちゃんの言う通りにするよ。慎重に行こう」


 ウェイグは深く頷き、レイラと歩調を合わせた。

 冷たい風を背後に受けながら、二人は徐々に地上へと下っていった。

 ちょうどシラカンバを見出した三叉路まで戻ってくると、辺りはすっかり黄昏の風情だ。背の低い雑草の影すらも長い。


「あ」


 その時、レイラが地面を指差した。


「ウェイグさん、これ」


 ウェイグは、レイラの示したものを見た。

 とたんに足許から戦慄がこみあげた。


「これは……」


 それは一見すれば、何の変哲もない草地でしかなかった。乱雑に雑草が生い茂っているばかりだ。

 ところが、その一部に不自然な模様が見てとれる。

 粗雑なインクをこぼしたような鉄色の痕が。


「血、だよね?」

「ええ。おそらく魔獣のものです」

「魔獣だって!」


 思わず声が上擦った。

 レイラは愁眉を寄せたものの、口調はいたって冷静なままだった。


「実は山道にも血痕がありました。およそ一定の間隔で。比較的新しくも見えました。この辺りにあるものは、それよりも古いようですが」


 ウェイグは指先で額をたたき、平静を取り戻そうと努める。ひとまず山道の血痕については考えないようにした。


「ちょっと待ってくれ。血が道筋を描いてるのはわかる。だけど、それが魔獣のものだっていう確証はないんじゃないか?」


 もっともな事を訊ねると、レイラは出来の好い生徒に満悦した教師のように、深い頷きを返した。屈みこんで再び草地を指し示す。


「見てください。この血痕かすれてますよね?」


 ウェイグも屈みこんで血痕を覗きこむ。確かに、それは草に擦り付けられたような痕だ。


「そして枝分かれしてる。ここ、細くて丸くなってるでしょ?」

「なってる」

「これは魔獣の毛先に染みた血です。刷毛ではいたようになってるでしょ? おそらく魔獣は手負いだったのだと思います」


 それは普通の獣にしても同じことが言えるのではないだろうか?


 ウェイグは疑問に思ったが、血痕のある周囲の草は不自然に折れている。それも人の拳を押しつけるより、遥かに大きな範囲で。

 少なくとも小動物の足型でないのは確かだ。


「でも山道の男は、魔獣は落ちたと言っていた。こっちに魔獣がいる恐れはないよね?」

「はい。ですが、魔獣の血は邪を引き寄せるとも言います」


 魔獣によって負わされた傷が〈呪痕カルマ〉となるように、魔獣には不可思議な力があると信じられている。


「地図を見せてもらえますか?」

「ああ」


 ウェイグはもはや疑いもなく地図を手渡した。

 酒場で話した際は、レイラを少女のようだと感じたものだ。どこか気が抜けていて、か弱そうだと。

 手合わせの際は、血の気の多い獣のように感じた。

 だが彼女には、もう一つの顔がある。

 冷静かつ合理的で迷いのない状況判断力。感情的にならず、俯瞰的に次の局面を見据える慧眼を持ち合わせた、本物の猟師としての顔が。


 もしかしたら……。


 ウェイグの中で、期待の輪郭が太く頑丈に形成されていく。

 これまでの旅は、ことごとく失敗に終わってきた。その度に、やはり自分は、家族を置いて逃げだしたのだと自分を責めたものだった。

 それも今回で終わるかもしれない。レイラというパートナーがいれば、今度こそ〈ガラスの靴〉が――大金が手に入るのではないか。


 まだ一日も一緒にいないってのに、俺ってちょろいな……。


 苦笑しながら、ウェイグはレイラの横顔を一瞥した。

 レイラが南の街道を指差した。


「街道を通るのは危険そうですね」


 ウェイグは首を傾げた。

 街道が危険?

 意味が解らなかった。


「もう一度、血痕を見てください。ほんの少しずつですけど、東へ逸れてます」


 再び草地に目を凝らすと、レイラの言葉通りだった。

 血痕は徐々に東へ逸れ、南東へ延びていた。


「まさか?」


 ウェイグは彼女の意図を察し、地図を覗きこんだ。

 街道は東へ大きく弧を描いていた。


「……なるほど、分かった」


「たぶん楽な道じゃないです。わざわざ迂回して道が築かれてるってことは、地面がぬかるんでたり穴があるかも。毒性の生き物が多い恐れもあります。とにかく急ぎましょう。これ以上暗くなると、辺りが見えなくなる」


「わかっ……て早いな」


 ウェイグが頷く前に、レイラはもう歩きだしていた。早速、草地へと踏み入っている。南方には林の陰影がある。どうやら、あれを突っ切るようだ。

 ウェイグはパートナーの背を追い、なにか軽口の一つでもこぼそうかと思ったが無理だった。

 レイラは決して大柄ではないが、その一歩一歩は地を滑るように速いのだ。おまけに、草地のなかだというのに、足音の一つもたてない。自然に馴致じゅんちした足取りには、追い縋るだけで精一杯だった。

 間もなく林へ突入し、道はいっそう険しくなっていった。

 そこここに灌木が生い茂り、根が張りだして、何度も足をとられた。


「気を付けてください」


 その度に、助け起こされた。

 洞があれば「蛇がいるかもしれません」と忠告を受け、跳ねるように移動せざるを得なかった。

 空は見る見るうちに昏くなる。

 林の闇も深さを増していく。

 そこに謎の鳴き声がゲラゲラとこだまする。身が竦む。

 美女が振り返り、怜悧な眼差しを寄越す。抑揚もなく告げられた「鳥です」の一撃で、男の自尊心はズタズタに引き裂かれた。


「はぁ」


 華奢な背中を悄然として追っていたウェイグだったが、


 ……ササ。


 乾いた音を捉え、背筋を伸ばした。

 とっさにレイラの腕を掴みひき止める。

 驚いて振り返った唇に人差し指を押し当てた。

 そして自分の耳を、半ば手で覆うようにした。


「……」


 レイラはこちらの意図をすぐに察したようだ。耳をそばだてる様子はなかったが、その場に屈みこんで地面を観察し始めた。


 ……キッ。


 今度は甲高い、金属を擦ったような音が響いた。

 カサ、ギギと物を削ぎ落とすような音が続く。

 ウェイグは足許のレイラを見下ろし、目が合うなり深く頷いた。


 間違いない。何かいる。


 先の金属質な音から獣でないのは明らかだ。

 間もなくレイラからもアクションがある。

 近くの木を指差している。

 下生えに隠れて、人目には気付かれにくい木の根元だ。そこに比較的太い枝が斜めに立てかけられている。それだけでも奇妙だが、枝には幾つもの糸の輪が取り付けられていた。


 その正体はウェイグにも判った。

 小動物を獲るための輪罠だ。


 ウェイグは敵の襲撃を警戒し、辺りを見渡す。慎重に空隙を測っていく。

 腰に佩いたショートソードは、短剣よりも格段に威力が高くリーチもある。対人戦においては有用な武器だ。冒険者の装備としては欠かせない。

 しかしこのような閉所で安易に抜けば、木に動きを阻まれる恐れがある。一つの判断ミスが、致命的な隙を生じる。


 ウェイグは腿に巻いた革帯へ指を這わせた。そこに収められた短剣を抜く。

 猟師の用いる狩猟用ナイフとは大きく形状の異なる、錐状短剣。

 敵の帷子の隙間や急所を的確に貫く、死の十字架スティレットだ。


「……」


 しばし身構えた二人だったが、物音が近づいてくる気配はなかった。

 水気を含んだ奇妙な音ばかりが鳴っていた。

 レイラはそれを獣の解体する音だと言った。


「無益な争いは避けましょう」


 囁くレイラに、ウェイグは頷きを返した。

 足音をたてぬよう、その場をあとにする。

 無駄に時間を使ってしまった所為で、辺りはほとんど闇に沈んでいた。レイラはそれでも「窪みがあります」、「蛇の巣に注意」などと言うのだから目が利いているようだ。猟師の能力は、実に人間離れしている。


「……よし」


 レイラがようやく足を止めたのは、さらに半刻ほど歩いた頃だった。


「今日はご飯を食べて休みましょう」


 ウェイグの目には、ほとんど何も見えない。黒い靄のような下生えがかろうじて窺えるばかりだ。

 一方、レイラは「好い枝」があると言う。それを彼女に誘導してもらいながら手繰り寄せ、地面に打った杭と括り付けて即席の屋根を作った。

 枯れ葉を敷き詰め、隣り合って腰を下ろす。

 ウェイグはサルーガで調達したトカゲの干物を頭からかじった。


「火は焚かなくていいの?」


 樹皮を集めていたし、てっきり使うものだと思っていた。


「まだ食料がありますし、さっきの人に気付かれると厄介ですから」

「なるほど」


 闇の中、互いの声もまた色を失くす。咀嚼音だけが風の音と混じり合う。その冷たい風を沈黙の中で受けると、胸の中まで凍えていきそうな気がした。


「ねぇ、レイラちゃん」

「なんですか?」

「レイラちゃんは金が手に入ったら、何が欲しい?」

「……」


 答えは返ってこなかった。

 水を飲む音が、ごくごくと拒絶のように響いた。

 ウェイグもまた水筒を呷った。ひどく冷たかった。


「……なにが欲しいんでしょうね」


 返された声に戸惑った。答えが返ってきたことも、その内容も、ウェイグに予想できたものではなかったから。


「欲しいものがないの?」

「あると言えば、あります。平凡に暮らしたいです。大きくも小さくもない家に住んで、家族と笑いながらご飯を食べるんです」


 レイラの声は静かだった。どんな顔をしているかは解らない。ウェイグの目に、宵の闇は深すぎる。

 それなのに、胸が刃で抉られるように痛んだ。

 時に静寂は、ふだん雑音の中に隠されているものを浮かび上がらせるのかもしれない。


「でも、変ですよね。アタシはきっと過去に縋ってて。ホントに欲しいのは幸せだった頃の生活で、これから手に入れる幸せじゃないのに」


 それをお金で手に入れるのも間違ってる、と彼女は言う。

 ウェイグはトカゲの足をもいで口に入れる。旨味が拡がる。けれど、ほんの少し苦味がある。


「確かに過去を繰り返すことはできない。手に入れた幸せは、いつかの幸せとは違う。でもきっと幸福って、何かの形をしているわけじゃない」

「どういう、ことですか?」

「それを幸福と思えるかどうかが重要なんじゃないかな。俺も幸せを買おうとしてる身だけど、間違ってるとは思わない」


 豪勢な暮らしをしたいわけではない。ただ日々を生きる糧が欲しかった。それを家族にも与えてやりたかった。

 それが自分の幸せなのだと、ウェイグは信じてきた。きた。


「他人は幸せを金で買うものじゃないと言うかもしれない。でも、それはその人の価値観。俺たちの幸福は、それぞれに異なって感じられていいはずだ」


 無数の不幸があるように、幸福も無数にある。

 それがもしコインの裏表のようなものなら、「貧しさの不幸」に対するのは、「富める幸福」であるはずだった。


「過去に縋るのも当然だ。俺たちは、その過去を歩んできたんだから。過去を経験して今があって、そして未来を望んでいく。その先には、確かに過去はないけど……そうだな、今を変えることができれば、過去も変わるんじゃないだろうか」


 暗闇の中、レイラがちらりとこちらを見る気配がした。


「〈ガラスの靴〉は、きっときっかけなんだ。今を変えるための。今を変えることができれば、過去への見方も、その想いも変わる。そして新しい未来を望んでいけるかもしれない」

「じゃあ、求めるものは必ずしも〈ガラスの靴〉じゃなくていいんでしょうか?」


 そうかもしれないと思ったが、ウェイグは首を縦に振らなかった。


 必要なんだ、俺には……。


 自ら言ったように、〈ガラスの靴〉はきっかけに過ぎない。

 他に大金を得る方法があれば何でもよかったのだ。

 だが、ウェイグは歩いてきてしまった。

 としての道を。

 いつか振り返ってみたとき、自らが歩んできた軌跡には、無残な屍が転がっていた。


「……わからない。でも、俺たちは自ら選んでここにいる。今が誤った過去になったとしても、また新しい今を歩んでいく糧になるさ」


 そう言い聞かせなければ、生きていける気がしなかった。

 夜目が利く彼女は、まさかこの闇まで見据えていないだろうか。

 怖くなった。

 この純粋な女性に、自分の醜い本性を覗かれたくはなかった。


 けれど、そうかもしれませんね、と答えた声は、心なしか笑っているように聞こえた。


 そして、むしろウェイグのほうが、初めて彼女の心に触れられたような気がした。

 ウェイグは安堵すると同時に、胸の高鳴りを自覚した。


「……アタシ、ずっと間違えちゃいけないって思って生きてきました。村を追われた、あの日から。きっと自分が間違ったから、こうなってるんだって思ったし、また間違えたら、もっとひどい目に遭うんじゃないかって……。実際、ちょっとした判断ミスで飲まず食わずの一日もあって、悪い人に騙されたときもありました」


 レイラは淡々と語った。

 しかし言葉の一粒一粒が、ウェイグの胸に鋭い痛みとなって押し寄せた。

 同時に痛みの中から芽生えるものもあった。


 尊敬だった。


 きっと本人が語った以上の労苦を経験し、彼女は今ここにいるのだ。

 それは凄まじいことのように思えた。

 生きる事は、無数の選択の帰結だから。

 きっと彼女には、数えきれないほどの「生」と「死」の選択があった。

 その度に「生」を選んできた強さに、ウェイグは感銘を覚えていた。

 そんな密やかな情動など露知らず、レイラはほっと安堵の吐息をついた。


「でも、初めて赦された気がしました。アタシ、間違ったっていいんですね」

「俺自身、そう思いたいだけかもしれないけど」

「それでも嬉しかったです」


 思いがけず、その一言がウェイグの胸を打った。


 嬉しい。


 ただ、それだけの言葉が、自身への肯定のように思えた。

 こんな自分でも、まだ人を喜ばせることができる。

 生きる価値があるのだ、と。


「……なら、よかったよ」


 手のひらが冷たい。いつの間にか、剣の柄を握りしめていた。

 けれど触れあった肩は温かい。じんわりと沁みて、内側に融けていくようだ。


 俺は用心棒である以上に、この人を守りたい。


 突として、そんな思いが芽生えた。


 ……ザザ。


 ならば守れ、と武神ゴルドアは言うのだろうか。

 夜に支配された林の中、ウェイグは遠くオレンジの光が揺れるのを見た。

 腰を浮かし身構えた。


「……誰か来る」

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