第5話 アイツなんか鬱陶しくない?
姉が今元気なのは、もう延命治療をやめたから。言ってることが小難しくてよく分からなかったけど、抗がん剤治療をストップしたらしい。
苦しんで苦しんで生きていくよりも、元気に最期を迎える方が幸せなのかもしれない。 幸せ?
余命宣告されたのが確か3か月前。僕が親と海外留学の許可をもらうために毎日喧嘩していた。それでも姉は一言「行かせてあげたら?」。と背中を押してくれた。
僕は海外で何を学んだ?帰国子女にでもなったつもり?視野が広がったつもり?生まれたかったつもり?こんな大事な目の前のことだって見落としてる人間に何ができるっていうんだよ。
夜、寝る前に姉の部屋へ向かった。ドア越しから母と会話している声が聞こえた。
幸せそうだった。今ある一瞬の幸せを精一杯に楽しんでるようだった。
僕はその幸せを壊してしまうのが怖かった。でも後々、姉がじゃない、僕が後悔したくなかった。エゴのために少しだけ壊そうとした。
「入っていい?」僕はもう泣きそうだった
「 いいよ」ずいぶん遅い返事だった。
姉はベッドから一切動くことなく、その脇には母が座っており二人で他愛のない談笑をしていたようだった。人生を振り返ってあれはこうだったね、それはああだったね、そんなことだろう。
「あのさ、お姉ちゃん、」僕は続けて言葉を紡ぐことができなかった。目からは涙が流れてきた。
「お姉ちゃんはさ、お姉ちゃんは」鼻水が垂れて口の中に入ってきた。まともにしゃべれる状態じゃなかった。でも今言わないと僕が後悔すると思った。
「姉ちゃんだけが僕の姉ちゃんだから。姉ちゃんは何があろうともずっと僕の姉ちゃんだから。」
僕の視界はすでにぼやけて頭はフラフラで、これは悪い夢であればいいのにと思った。
「ありがと、忘れないでよね、ウチはアンタが何をしようともいいけど、何するにしても応援してるんだからね。」涙を流していた。
「ありがと」
僕はこれ以上この限られた幸福を邪魔するまいと思い部屋へと戻っていった。
僕のエゴのために姉の限られた幸福を汚してしまった。
僕は自分が嫌になった。俺は何をしているんだろう。私はこれでいいのか?もうわからない
ぼくはもうなにもかも嫌になった。
僕は手元にある薬を全部飲み、そのまま深い、深い深い眠りへと落ちていった。
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