第40話3人での通学

最寄りの駅までを衛と紅美と結衣の三人で歩いていく。

6時を少し過ぎた時間帯はまだ通行人も少なく3人横並びになって話す。

身長が160cmの紅美を真ん中に挟んで歩くことになった。

いつも結衣と一緒に登校しているようなので結衣もその方が気楽だろうと衛は思った。

結衣の隣はどうしても緊張してしまうせいもそこにはあった。


紅美は何が嬉しいのかいつもよりテンションが高く、先程から結衣と衛の顔を交互に見て話をしている。

コロコロと表情を変えつつ話をふる紅美はこの場ではマスコットのようであった。

紅美の存在は結衣との2人きりだと何かと沈黙が多くなりそうでありがたかった。

ただ、


「今日のお兄さんはいつもよりも洗面所で念入りに髪をイジってたんだよ~」


などと人のことをバラすのは勘弁して欲しいと思った。

そんな紅美のセリフを隣で聞く結衣は、家での衛の様子を聞いていいのものかと下を向いて遠慮気味にしている。

それでも口元の笑みを結衣は隠せていない。

そんな彼女の表情にますます紅美は機嫌を良くしていた。

そんあ2人は仲のいい姉妹のように見えた。



紅美の通う中学校はかつて衛と結衣も在籍していた。

向かう方向も衛たちの通う高校と同じで電車は下り方面であり、当然乗る電車も同じことになる。

ただ、一度乗り換えの生じる衛たちと違い紅美の中学校は乗り換えなしで行くことができる。


会話は自然と3人に共通の中学高の先生たちの話題になっていた。

衛の担任だった先生の話や人気のない先生の愚痴など盛んに話す妹の話は衛を懐かしい気持ちにさせた。

その話には結衣も盛んに参加しお世話になった先生の近況を聞いている。

休日にしか顔を合わせることがなく、話す機会も減っていた妹が楽しそうに学校のことを喋る姿に安堵もした。


妹が小学校低学年の頃は衛におんぶに抱っこで甘えん坊だったものの、高学年になるととたんに衛のことを邪険に扱い、中学生になる頃には反抗期もあったせいか話さなくなっていた。

その頃の2人の関係は結衣と衛の関係とも似ていたかもしれない。


当時衛は家の中にいてもなるべく紅美と接点を持たないようにしていた。

例え衛から話かけたとしても紅美は気のない返事でスマートフォンから目を離すことをこを止めなかっただろう。

それを注意しようものなら不貞腐れて自室へと閉じこもってしまうのが目に見えていた。


衛はそれでも妹の面倒を見たい気持ちがあったものの喧嘩になることを避け遠慮していた。

それが受験を控えた今年あたりから紅美の態度が軟化し、再び兄と慕うようになってきたのであった。

衛としてはそんな妹の変貌に驚愕するも素直に嬉しい気持ちになっていた。


紅美との通学中衛と結衣は終始聞き役に徹していた。

そしてそのまま乗り変えの駅で妹とは別れることなった。

別れ際に”しっかりと結衣ちゃんをエスコートするように”と紅美からのありがたい言葉をいただいた。


6時半を少し過ぎた駅は通勤ラッシュ時に比べると未だ閑散としているものの、同じ制服を来た朝練目的の生徒もちらほらと目にする。

初めて体験する早朝の通学は少し新鮮でに衛は感じた。

見慣れたはずの車窓から通り過ぎていく景色も目新しく感じる。

まるで旅先の風景のようだと言ってしまうのは少々大袈裟さかもしれないが、そう形容できるほど衛の目には楽しげに映った。


紅美と別れたことで結衣と2人きりになる。

しばしば沈黙が訪れるものの危惧していたように居心地が悪くなることはなかった。

会話が途切れる度に隣の椅子に座る結衣の顔を見てみるが、どうやら彼女もリラックスしているっようで、前回の時とは表情が自然なもののように思えた。

結衣から面と向かって告白されてから顔を合わせて話すのは今日がはじめてのことだった。


「急は早起きだったけど衛くんは眠たくない?」


気遣うように結衣が聞いてくる。

両膝をピッタリと揃え膝の上に学校指定のバックを乗せている。

弓道着一式は部室に置いてあるようで荷物は衛とほとんど変わらない。l

少し衛の方に体を向け斜めに座っている。


「今日は一日眠たいかも。……でもいつもと違う通学時間に少し興奮してるんだ。これからできるだけ結衣と通学時間を合わせたいんだけど……問題ないかな?部活動の友達とかに迷惑にならないといいんだけど?」


一緒に登校することを決めてからずっと気になっていたことを聞いてみた。


衛も本当なら結衣の方に少し体を向けて話したかったのであったが、仮にそうした自分たちの姿がなぜかテレビのお見合いのシーンのように想像できてしまったため、止めておくことにした。

衛も荷物は膝の上に置くタイプなので結衣と同じ格好となる。


「えっと…それは大丈夫だと思う。話せば分かってくれるはずだし。……それに…もうバレてると思うから」


そう言う結衣の視線の先には同じ制服を着た女生徒たちが3人、こちらをうかがうようにして話をしている。

少し幼さの残る彼女たちはどうやら弓道部の後輩らしい。

結衣は一度彼女たちを見た後恥ずかしいようで俯いてしまっていた。

ただ真一文字に引き結ばれた口の端は上を向いており、顔を真赤にしてするその表情に衛はドキリとしてしまった。


「そっかそれなら友達には悪いけど登校する時は……結衣と…一緒にいさせてもらおう……かな」


「…う、うん。よろしくね」


思わず口を衝いて出たセリフであったが途中から恥ずかしくなってしまい尻すぼみとなってしまう。

結衣の顔を見ることができない。

心臓もバクバクと鳴り煩かった。

そんな衛に様子に触発されたのか結衣もさらに顔を赤ら俯いて返事をした。


そんな2人の様子を遠くから見守る後輩たちは一層盛り上がりをみせていた。

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