第37話俊介からの電話
衛は自宅へと帰宅をすると、夕食までの時間を自室で過ごしていた。
そして愛用の机に座りパソコンで教科書の気になる言葉を色々と検索をしていた。
柳が転校して来てからと言うもの、心の平穏が侵され続けている気持ちが抜けず、何をするにも集中力を欠く日々が続いているように、衛は感じていた。
なんな衛の気持ちをさらに揺さぶるように、スマートフォンの液晶ががまるで危険信号のように、突如発光し通話の通知を表示する。
時刻は5時半を少し過ぎたところ。
この時間に連絡をくれる相手が想像できず、衛は嫌な予感を覚えた。
通話相手は出口俊介を表示していた。
「あ、俺、出口だ。今話しても大丈夫か?」
「おつかれ、部活はもう終わったの?俺は全然構わないよ」
少し慌てたように話しはじめる俊介。
ますます衛の心は不安な気持ちになる。
心当たりは若葉泉とのことであった。
「いや、部活は抜け出してきた。それよりもB組共通のグループトークに俺も参加してんだけど、少し前からお前と若葉?かなと思われる写真が送られて来てさ。話題になってんだよ。一応お前に伝えとこうと思ってよ」
お前はB組のに参加してないから知らなかったろ?と俊介は言う。
その声は単純に衛の心配をしているようなだ。
「教えてくれてありがとう。やっぱりそういうことになったか……嫌な予感してたんだよね」
まさかが実現してしまい、衛の胸一杯に泉への罪悪感が広がる。
そして自分の軽薄な行動で結衣にも不安を募らせる結果になってしまったことに後悔を覚えた。
「俺は本来こういうクラスの厄介事にはノータッチなんだが、お前のことだしな……俺に出来ることはあるか?お前のネタで遊んでる奴らにヒトコト言ってやってもいいしよ」
そう息巻く俊介は自分のことのように憤ってくれているらしい。
その証拠に部活動を抜け出してまでも衛に連絡をくれたのだから。
衛には俊介のその行動が素直に嬉しかった。
「ありがとう。そう言ってくれるだけで、十分気持ちが楽になるよ。でも、今は何もしなくて大丈夫だから!!そんなことをして出口くんがクラスの標的にされちゃう方が俺は嫌だからさ!!元はと言えば俺の軽率な行動が原因だから……」
「お前のことだからそう言うと思ったよ。お前に確認取らずに喧嘩売ってやれば良かったぜ。それにしてもお前が女子と帰るなんて珍しいと思うんだが……いや、何でもない。人の事情を詮索するようなマネして俺も人のこと言えねぇな」
前半は勝ちっきな俊介の性格が前面に出ている発言だった。
後半は俊介らしからぬ尻すぼみになる言い方だった。
いや、志信同様に直ぐに自分のことを客観視できる点で衛は俊介らしいとも思えた。
確固とした価値観と良心を持っているところはで志信と俊介は性格が似ているように感じた。
「ううん、出口君にも知っといてもらいたいんだけど、俺と若葉さんは小学校の頃から同じなんだよ。彼女幼い頃からテストの成績が良くてさ。前から一度勉強について教えてもらいたかったんだ。それでたまたま下校時間が重なったから話すことにしたんだ。ただ、変に噂になってるタイミングでする行動じゃなかったと、今は思ってる」
「そうだったのか。そう言えば若葉って頭いいもんな。そっか、小学の時から知り合いなら何の問題もないよな!それに勉強についてってのもしっくり来るしな。衛は何も変なことはしてないんだから、遠慮することないぞ!!あいつら有る事無い事適当なこと噂してるからな、頭くるぜ」
ひょっとしたら俊介は友人を信じたい気持ちの裏で、写真を見て衛の行動に不安を覚えていたのかもしれない。
どうやら相当ゲスな噂話が行き交っているのだろう、俊介は衛の立場に憤りイライラしている雰囲気が、スマホ越しから伝わってくる。
衛の口から納得のいく説明を聞き、安心できた反動もあるのかもしれない。
「くれぐれも出口君は何もしないでね。もし出口君が標的にされるようなら、今度は俺が爆発しちゃいそうな気がするからさ!」
「それはおっかなそうだな。ハハハッ、それじゃあ大人しく止めとくしかないな」
衛の少し力強い言葉が俊介には嬉しかったのか、声のトーンを下げて冷静になったようだ。
「いや、衛のことだからよ、俺がいちいち連絡しなくても気にしないような気もしたんだよ。でもクラスの奴らのおもちゃにお前がされてると思うと居ても立っても居られなくなってよ……」
頬をポリポリと掻きながら少しバツの悪い表情をしている俊介の顔が衛には想像できた。
「ううん、出口君には感謝しかないよ。若葉さんと帰ったことはイジられると覚悟してたところがあったけど、それでも明日知るよりも今知ることができてホッとしてる。わざわざ部活動を抜けてまで教えてくれてありがとう!!」
「そう言ってもらえると、行動してよかったぜ。それじゃ俺も満足できたから、切るな。また明日学校でな」
衛も挨拶を返し俊介との通話を切った。
俊介に言った通り事前に知ることができて衛は、少し安堵していた。
そして恐らく明日は柳の隣の泉に少なからず被害が出ることを、今の内から覚悟するのであった。
その時は……。
そんなことを頭の中にイメージし何度も想定しておくことにした。
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