第12話学校で勉強するということ

昼食を取りお腹が満たされる中始まった5時間目の授業は現代文だった。

頂点を過ぎて西に傾きはじめた太陽からは、陽気な日差しが教室にふり注いでいる。

生徒の開けた教科書やノートは日光を反射し、少しくすぐったくなるような温かみをそれぞれの生徒たちに浴びせている。

黒板に向かいチョークを必死に動かかす先生とは対象的に、生徒たちの動きはどこか緩慢だ。

そして教室を満たす空気もまるで動きを止めたかのようであった。

首を垂れて眠る者、頬杖をついてどちらとも言えない者、しっかり筆を動かす者、携帯や漫画を使用している者、偏差値の高い進学校の生徒であっても授業態度は他所と変わりない。

その中で衛は比較的背筋を正しシャーペンを走らせていた。

全ての授業に耳を傾けノートに記す。

それが衛のスタンスだった。

そうすることが結果的に自宅で過ごす時間に、ゆとりをもたらすことをこれまでの学校生活で学んでいた。

だからといって定期試験にも熱心かというと決してそうではなかった。

上位3分の1あたりをキープできればいいというのが衛の考えであった。

丘陵高校の2学年は4組あたり平均32人いる。

つまり学年順位42位あたりが彼の目標であった。

ただ、だからといって衛は無気力系男子ではなかった。

衛は苦手だが他人と競争し高め合うということの大切さや必要性を認めている。

もちろん勉強の大切さも。

高校受験の時まで彼も塾に通い、他人としのぎを削る生活をし大半を勉強に費やしてきたのだ。

そんな彼の考えに変化があったのは教師への見方だった。

これまでと同じように「勉強で良い点をとりなさい」という言葉を高校教師の口から聞いて彼はそれまでの考えを改めた。

まるで機械のように同じことを口にする教師たち。

そんな彼らから学べたことは衛には何もなかった。

友人を作る方法、友人と仲直りする方法、人の大切さ、悪口を言うことの何がいけないのか、挙げたら切りのない心の栄養素を、時に経験し、時にクラスメイトを反面教師とし、時に漫画や小説から想像して学んできた。

確かに勉強も大切だ。

しかし、学生の日常におけるテストの点数は些末なことだ。

仮にそんなところで人を判断するようなクラスメイトがいるなら、その人とは友人にはなれない。

しかし、そんなところを重要視して子供を判断するのが教師たちだ。

そういう人種なんだと分かってしまった。

それならこちらから手を差し伸べるようなことはしない。

それこそ1人の努力で伸びる点数なのだから。

中学生の時まではできれば先生に褒められるような真面目な生徒を目指していた。

しかし、そんなことよりも大切なことが学生生活には山程ある。

ただそれでも上位3分の1あたりを目指すのは、親や教師に心配されることなく目を付けられない絶妙な位置だからでしかない。

その上で1つ役に立ったのは、特別好きな科目も嫌いな科目も作らずどの教科にも適度に感心を持つことができる自分の特性だった。

つまり器用貧乏なところが自分の長所だと思う。

今衛の見かけ上の態度は黒板の内容をつぶさにノートに写している、ように見えることだろう。

しかし教科書を防壁のように机に立たせ、先生の視線から守られた箇所にあるのは、前日にパソコンで調べ印刷した紙の束だった。

内容は教科書で取り扱う著者の経歴(今日の授業は夏目漱石を扱っている)や関連人物、その時代の出来事、調べいて気になったワードなどが無秩序に並べられてあった。

先生の目を盗んでは紙に目を通し時間を潰す。

折角眠らずに授業を受けるのだから、好奇心を満たす時間を授業中も過ごしていたい。

そして万が一見つかっても教師から叱られるようなことになりたくない。

それらの条件から導き出した答えがこの方法だった。

それが衛の授業の受け方だった。

そんな衛の思惑を知らない周囲は彼を真面目と評すことが多い。

そんな時彼の良心はチクリと痛み、良心の呵責から申し訳なく思ってしまうのであった。

因みに同じ教室で授業を受ける朝比奈椿は帆杖をついて船をこいでおり、柳光流は登校初日にもかかわらず机に突っ伏して寝ていた。

その隣の若葉泉は先生の言葉を聞き漏らすまいという熱心な態度であった。

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