第11話光流との食事

3人とも弁当を口に運びながら会話を進める。

話の流れで3人とも下の名前で呼び合うことを了承し、会話は引き続きスクールカーストについてとなった。


「・・さっき光流君が言ったスクールカーストなら俺も聞いたことがあるが、うちの学校にはそういうのなんじゃないか?」


と口にあったものを喉に入れ終えてから、志信が言った。

自分と違い志信がスクールカーストを知っていることに衛は驚いた。

志信の説明ではインドのカースト制度と違い生まれながらの身分制度の意味合いはなく、学年やクラス単位で生まれる個人の人気による差を階級に当てはめたことからスクールカーストと呼ぶようになったとか。

上位は良い意味で目立つ人、中位は無難な人、下位は悪い意味で目立つ人というのが、ザックリとした3つの階級があり、上位と下位にいくほど少数になるそうだ。


「志信・・君と衛君が意識してないだけで、この学校にも必ずあると思うよ。どこの学校でも運動系の部活動をやってるやつが、クラスの中心だったりするじゃん?。そのクラスにおけるカーストのトップを表しているよね。2人は丁度真ん中に位置するんじゃない?だから、今まで気付く機会がなかったんだと思うよ。俺の理想は真ん中より上が理想かな。間違っても下層はないね」


すらすらと話す光流はどこか得意げだ。

以前の学校ではカーストの上の方にいたのかも知れない。


「俺も衛も確かにそういうのには疎いかもな」


「俺たちクラスや学年の噂話は朝比奈さんから教えてもらうことが多いもんね」


衛はそう答えつつも、光流が自分達に敬称を付けて呼ぶことに対して、軽い抵抗?のようなものを覚えていることに目敏く気付いた。

ところがあたしの噂話?という突然の本人の声でその考えは霧散した。


「朝比奈さん!?いや、変な噂話とかじゃないよ?スクールカーストについて話してたんだよ」


突然声を掛けられたことで、衛の声は上ずっしまっていた。


「スクールカーストってあんたたち変な会話してるのね。まー、マモが人の陰口を言うとは思ってないから安心しなさい。でも慌て過ぎよ」


どこか可笑しそうな口調で椿は答えながら、空いている前の席に着く。

朝と違い椅子に対して横を向いて座っている。

志信に正面を向ける格好だ。

光流に対しては背を向けることになる。

そしてスカートの丈は膝上へと変化しブラウスのボタンもしてある。

朝に衛が身だしなみの注意をし、昼までには椿が身だしなみを正す。

これも毎度のことだった。


「悪いけど衛君!彼女のこと紹介してもらえる?」


光流の言葉には勢いがあり前のめりだ。。


「気が回らなくてごめんね、同じ組の朝比奈椿さんだよ。光流君とは同じ列の前から2番目に座ってるよ。」


急かされるように衛は早口に答えた。

それまでスマートフォン、弁当、会話の順で関心を示していたような光流とは、態度が全然違うことに驚く一方で


(光流君は女好きかな?)


と衛は検討をつけた。


「椿です。柳くんだっけ?これからよろしく」


と言葉少なに光流を一瞥して挨拶した。


「椿さんって呼ばせてもらっていい?俺のことも下の名前で呼んでもらっていいから。衛君に呼ぶみたいに渾名で呼んでくれてもいいよ」


もし漫画のようにセリフが吹き出しから見えるようであれば、光流の言葉の語尾には音符がついていたことだろう。

そう衛に感じられるほど、光流の返答は明るく砕けた調子だった。

そして輝くような笑顔だった。

それこそ漫画の主人公のように。


「ん~、渾名は思いついたらね。下の名前も追々ね。それで志信スクールカーストの話って何?」


「うむ・・・その通りだな!渾名は順番にしてもらおうか。俺なんてただの呼び捨かメガネとしか言われないからな。光流君の前に俺に素敵な渾名を付けるのが先だ」


椿の返事は光流の要望を否定するものだったが、嫌味のないサッパリしたものだった。

光流も決して不快には感じなかったことだろう。

そして志信の言葉は3人の笑いを誘った。

椿はあんたの渾名はメガネで十分よと言ったりしている。


「それでカーストのことなんだが、うちの学校にもあるのか?って話をしてたんだよ」


笑いの一泊を置いて、志信が椿の問に答えた。


「う~ん、あたしもこの学校ではあんまり意識したことないかな。・・・そうね、一応当てはめてみれないことはないんじゃない?学校もそうだけど、大人数が集う集団をグループ分けをすることはそんなに難しくないと思うな・・・統計学って学問もあるくらいだし。・・・むしろ頭の中でいつの間にか他人にレッテルを人は貼ってたりするもんよね・・・。そういう意味じゃ私も自分の立ち位置を無意識に感じてたりするのかしら・・・」


と椿は思案顔で最後の方は独り言のように言った。

椿は軽薄そうに見える外見に似合わず理知的なところがあった。

誰とでも話を合わせることができる訳を衛は椿の言葉から感じた。

当の本人は、言い終わってからしばらくの間熟考し黙っていたことにハッと気付くと、プイっと横を向いて表情を髪で隠してしまう。

きっと頬を赤らめているんだろうなと衛と志信は同時に思った。

2人ともこれまでの付き合いで何度か目撃している、椿の微笑ましい態度だった。


「椿さんもカーストについては否定的なんだ。意外だな。まぁ現状部外者に近い俺と、入学時からここの学校の生徒である君たちとは、見方が違って当然なのかもな」


「そうかもしれないね。転校初日でしかも一番後ろの席から眺める教室の様子は、俺たちとは全然違うかも!俺なんかスクールカーストって言葉もよく分かってなかったくらいだし」


結果的に3人からスクールカーストについて否定された光流は、嫌な態度を見せず柔軟な着地点に話をまとめる。

衛もそれに続けとばかりに、光流のセリフを補足し応援する姿勢を見せた。

そして運よく昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。

衛にとって転校初日の光流の印象は明るく親しげなものであった。

光流とのお昼休みは終始和やかな雰囲気だったと感じた。

しかし衛は心のどこかで気付いていた。

光流がどこかで気分を害し不機嫌になるのではないかと恐れている自分に。

食事中ずっとそのことが頭にあった。

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