第9話転校生
衛にとって朝から続く異例はホームルームの時間にも生じた。
それは担任の先生の後から続いて現れた一人の生徒だった。
転校生だった。
教室中が水を打ったように静になる。
それはホームルームの始まる前に、先生の口から突如として新しい生徒の紹介がされたからではない。
転校生の容姿が非常に優れていたことに大きな要因があった。
「今日から君たちと一緒に勉強することになった”やなぎひかる”君だ。家庭の事情でこの時期に、転校することになったそうだ。見るからに好青年だからな!君たちも仲良くするように」
中年の男性教諭はおっとりした口調で、衛たちに背を向け黒板に字を書きながら転校生を紹介する。
黒板には柳光流と書かれた
光流と書いて”ひかる”と読むようだ。
黒板には親切にフリガナもふってある。
確かに”ひかる”と読むには少し変わっていると衛も思った。
しかし、彼の容姿とその名前は非常に合っているようにも思われた。
柳光流の身長は衛よりも高く180㎝丁度あたりで細身だった。
茶色く染め、緩くパーマをあてているセミロングの髪は彼によく似合っていた。
そして、顔や唇は小さく、鼻筋は一直線に通っており、目は綺麗な二重であった。
光流は真新しいはずの丘陵高校の制服をすでに着崩しており、腰の位置でズボンを履いていた。
しかしその姿がまた様になっている。
どこか全体にだらしなさがあるものの、不清潔な印象にはならない絶妙なところだった。
妹に服の参考にするよう渡された雑誌に載っていた読者モデルが、そのまま目の前に現れたように衛には感じられた。
名が体を表すいい見本のように思えた。
「親の仕事の都合でこちらに引っ越して来ました。皆さんよくして下さいね」
と光流はさして緊張もせず無難な挨拶をした。そして
「転校前の学校ではバンドを組んでたんで、興味があったら話を聞いて下さい」
と付け加えた。
彼の口から音楽の話題が出たことは驚くほどしっくりと感じた。
それは衛だけではなく教室中の生徒が思ったことだろう。
そして最後に添えた笑顔は輝いているようだった。
彼の席は廊下側の最後列になった。
衛は授業中の関心が光流に向かないように、学校側が配慮をしたのかな?などと教卓から移動をする光流を見て突飛な想像をした。
しかしそれほどまでに光流の容姿は目立っていた。
そして彼の歩く姿を多くの生徒たちが目で追っていることで、あながち自分の推測も間違っていないのではないかと、衛は思った。
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