第6話座席で思うこと

衛の座席は黒板を正面と仮定すると左手側2列目の前から4番目にあった。

梅雨が開けた日差しの暑いこの時期は、窓から差し込む光で既に机と椅子は温められていた。

時刻は8時5分頃。

30分にホームルームが始まるため、少し早めの登校と言えるだろう。

それでも教室にはすでに10名ほどの生徒がいた。

自分の席に向かうまでの短い時間が、衛にはやけに長く感じられた。

それは少なくない人数が彼に視線を向けてきており、執拗に向けられる目に緊張したせいだった。


(なんか注目されてる気がする。気不味い・・・。いっそのこと話しかけられた方がマシだな)


俯き気味に歩き、そんなことを思った。

どうやらクラスメイトたちの一部に、衛と結衣の登校を見た者がいたのだろう。

座席に着いてからも衛の心は平静とはほど遠い所にあった。

幼馴染の結衣と一緒に通学できたこと。

それが原因で注目を集めているということ。

今頃結衣も同じようにバツの悪い思いをしているのかもしれないと思うと、衛は自分の短慮(たんりょ)な行動を呪いたくなった。

少なくとも自分はある程度覚悟していた。

しかし結衣はそうではないのだ。

せめて高校の最寄り駅で降りる時には別々に降りて別れてあげるべきだった。

一度は口にまで出そうと思ったのにもっと話がしたくなり言うことができなかった。

自分の喜びばかりに目がいってしまっていたことに、衛は申し訳ない気持ちになった。

彼女はこんな自分の古文の抜き打ちテストの心配をしてくれたというのに・・・。


一度その考えが浮かぶと居ても立ってもいられない気持ちになった。

ポケットにしまってあるスマートフォンを取り出し、衛は交換したばかりの連絡先に完結な謝罪の文章を入力して送った。

送るまでに何度も誤字脱字がないかとチェックした。

しかし送ってから思い至った。

優しい彼女のことだから内心どう思っていようとも、こちらの気分を害するような返事は来ないだろうことに。

文章からじゃ相手の真意はつかめない。

そう思い至るとただただ精神が消耗しただけに感じた。


(・・・・一体今日の俺はどうしてしまったのだろうか?

朝から頭はフル回転しっぱなしだ。

”何を考えているのかよく分からないやつ”というのが俺のコンセプトではなかったのか?

そう人から見られるのを期待していたはずだ。

世界を斜に見て所謂(いわゆる)中二病の延長のような性格が自分ではなかったのか?

周りからどう見られているかを気にするなんて男らしくない。

見た目で判断しない、されたくないというのが心情だったではないか?

それなのに少しでも結衣に良く見られようとばかり考えてしまっていた。

これでは良い格好しいではないか!?

今までの俺は一体どこにいってしまったのか。

・・・・・少し冷静になれ俺!

ここまでの考えも全てが心臓の鼓動に煽られるようにして考え過ぎだ。

何かを期待するような考えをするな。

どうせぬか喜びに終わるぞ・・・・)


周囲の人間から見ればいたって通常通りに見える衛の頭の中は、しばらくの間目まぐるし速度で考え事をし続けていた。

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