第2話いつもの食卓

髪のセットをし終えると1階にある脱衣所から2階の自室に戻り、高校指定の制服に着替える。

再び一階に降りるとリビングで朝食を取る。

時刻は6時半。

父親の方針でなるべく家族そろって食事するということが、石田家の昔からのルールだった。

今日は朝の部活動で既に中学校に行っている2つ年下の妹を除いた、父と母と衛の3人が朝食の席に着いた。

父の石田雅治(まさはる)はいつも表情が硬く、寡黙だった。

自宅では新聞や本と睨めっこしていることが多い。

今も味噌汁を飲んでいるが、目線は食卓に広げられた新聞にある。

衛が幼い頃は母、弓子から”教育に悪い”と雅治は叱られていたものの、いつも効率的だからの一言で雅治が聞き入れない内に、すっかり日常の風景となってしまっていた。

仕事は母曰く技術職と聞いている。

しかしそのへんのことを直接父から聞けたためしはない。

いつも”それなりにやっている”と父に言われはぐらかされてしまう。

衛にはそんな父の姿がどこか余裕のないように思えてならなかった。


母の弓子は主婦とパートの兼業をしている。

どこかバランスが悪く下り眉の老いた老犬を連想させる父と比べ、弓子は端正な顔立ちをしていた。

一体父のどこが気に入って結婚することになったのか、衛には不思議でならなかった。

父の外見だけで判断しているのではない。

愛想がなく表情の乏しい性格も母とは正反対だからそう思うのである。

一度母に質問してみたところ”愛嬌があってよく話を聞いてくれるが良い”のだそうだ。

2人を見比べると衛の顔のパーツは大半が母親からの遺伝だろうと推測できる。

自身の朝食を両手に持って椅子に座る弓子は、父とは違い会話が好きであった。

社交的で仲のいい主婦やパート友達をよく自宅に招いてお茶会をしている。

今も適当に相槌をしている衛には気付かず、夢中で昨日のテレビの内容を話している。

朝から母は元気で石田家の食卓を明るくしていた。

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