見える仮面と見えない化粧

@NORUNO

第1話溶け込む努力

鏡に向かう。

脱衣所の洗面台に両手をついて寝間着姿の石田衛(まもる)は自分の顔を覗き込む。

正面を映し出す容姿はいたって”平均的”だ。

少なくとも彼は自分のことをそう評価している。

特徴のない二重瞼。

特徴のない鼻。

特徴のない唇。

主張のない顎のライン。

耳に少しかかる長さの髪型。

旋毛(つむじ)は一つ。

顔の作りの全てが”普通”だ。

目を引く部分のない整った顔。

それ故、石田衛は世間一般に照らし合わせれば”恰好のい”い顔立ちと言えるだろう。

衛が自分の顔をどう考えていようが友人や他人は彼をそう評価する。

自身では”どこにでもいる顔”と思っていても、周りはそうは思わない。

生まれてからの17年間、衛を除く多くの人の反応がそうである以上認めざる終えない。

俺は顔立ちが整っているのだと。


実際、衛は外見というフィルターを通して円満な対人関係をこれまで築けてきたと思っている。

助けられてきたと言ってしまってもいい。

そうでない人比べると圧倒的に良くしてもらっていると思うし、苦手なことがあっても汚点として相手の瞳に映ることは少なかった。

もし自分の顔に著しい特徴があったとしたら、これまでに存在した良好な人間関係は果たしてあったのだろうか?と、訝しく思う時や漠然とした不安に襲われる時がある。

自身の容姿に感謝しているものの、いまいち相手の懐に踏み込めない、相手から踏み込まれない状況に苦しんでもきた。

そのため【外見ではなく中身で勝負したい】という気持ちを衛はいつの頃からか人一倍強く持つようになっていた。


鏡で自信の顔を見る度に少なからず頭をもたげる葛藤をなんとか思考の端に追いやり、緩慢な動作で顔を洗い一度お湯で髪を濡らして乾かすことで寝癖をなくす。

ワックスは適量手に取り髪全体に軽く馴染ませるだけ。

それだけで少しお洒落な雰囲気が出るし清潔感も出る。

衛にとって朝の支度はいかに周囲に溶け込むかに主軸を置いてする行為だった。

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