第3話 非モテ男、美少年神様との生活を始める
明くる朝のことである。
樹の目の前には、自分の一物を口に咥えている
「おい、ちょっと待て!」
「え、嫌だった?」
樹のあまりの驚き様に、口を離した天が尋ねてくる。
「彼女っていうのは彼氏の朝のソレを鎮めたりするらしいから……」
「おま……それ何処で学んできたんだよ……」
まさか、出会って二日目の相手、それも男の子で神様に自分の物を咥えられるとは、全く以て想定外であった。
「樹は僕とそういうこと……したくない?」
天は小首を
正直、したいかしたくないか、の二拓で言えば、したい、と樹は思っている。初めての行為が男性同士になってしまうことに抵抗がないわけではないが、それでも、天を抱くことを想像すると、血の滾るものがあるのも確かである。しかし、いくら何でも、出会って二日目は早すぎるのではなかろうか。
「取り敢えず、それは暫くお付き合いしてから改めて考えようか」
「まぁ、樹がそう言うなら……」
天はすごすごと引き下がり、部屋の床にぺたんと座った。
「で、この後どうする? 俺彼女とか出来たことないし何をしたらいいかあんまり分からないんだよなぁ……」
天が彼女になってくれる、とはいっても、樹自身、交際経験のなさ故に、何をすれば良いのかは全く分からなかった。世の男女は一体どうしているのだろうか。
「実は僕も現代人の恋人同士が何するのか、そんなに詳しくないんだよね……」
道理で偏った知識を披露したわけだ、と、樹は先程の天の行いについて納得した。
「僕、あの神社からそんなに遠くまで行けなかったんだよね。だから、なるべく遠くの場所で、知らない所に連れて行ってほしいな……」
甘い声で、天はねだってきた。どうやら、天が言うには、土地神という性質上、あの周辺の地域を見渡す以外に、あまり動き回れないのだという。「樹の願いを叶える」という名目で、天はようやく自由に動き回れるらしい。紀元前の昔からずっとあの場所から動けなかったことを考えると、神様というのも、案外難儀なものだ、というのが、樹の率直な感想であった。
樹は荷物をまとめて家を出た。その隣には天の姿もある。一月三日には仕事があるため、二日には帰らなければならない。
樹は天を連れながら、在来線に乗り、新幹線に乗り換えた。席は一人分しかないため、天は樹の膝に座ることとなった。こうしていると、恋人というよりは、弟ができたみたいに思えてくる。ほんと可愛い。
天は、最初の内は新幹線の内部をきょろきょろと見渡したり、時々席を立って車内をうろついたりしていたが、暫くすると樹の膝上に収まって、窓の外の景色を眺めていた。
新幹線から再び在来線に乗り換え、最寄りの駅で降りた。地元と違い、今樹が独り暮らししている街は、それなりに賑やかな場所であった。天は忙しなく視線を左右に振っている。
二人、正確に言えば一人と一柱は、終始無言であった。というのも、天の姿は樹以外には見えないため、会話などすれば樹は「独り言をぶつぶつ呟いている怪しげな奴」になってしまうからだ。
そのまま、樹は一人暮らしをしているアパートの一室へと帰宅した。実家と違い、如何にも狭苦しく、そして何処となく陰気な雰囲気の漂う部屋である。無造作に置かれた漫画本や、脱ぎちらかしの衣服、ビニール袋に入ったままの品物の様子が、部屋の主の私生活の様子を物語っている。
「へぇ……ここが樹の住んでる所なんだ……何か汚くない?」
「悪かったな……」
思えば、自分の彼女になると宣言した相手に、見せていい部屋ではない、と思わざるを得なかった。このような部屋を見せねばならなかったことは、樹にとって
その日の夜飯は、簡単なもので済ませた。神様は食事を摂らないらしく、天はただ樹の食事の様子をじっと眺めていた。
「ねぇ、樹」
「ん?」
食べ終わった樹に、天が話しかけてくる。
「今日一日で色んなものを見ることができたよ。ありがとう樹」
「いやぁ、俺何にもしてないけどな……」
樹がしたことといえば、実家から独り暮らし先に戻ってきたぐらいである。たったそれだけのことで感謝されるのは、何だか釈然としない気分である。
「ううん、いいんだよ。君が僕を連れ出してくれなかったら、ずっとあそこにいたままだったから」
天は、何処か憂愁を感じさせるような表情をしていた。そして、正面から、そっと樹に抱きついた。天の
「樹、これからも末永くよろしくね」
そうして、樹の住まいに、天が住み着くこととなった。
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