第2話 非モテ男、神様と恋人契約を交わす
「で、それで、神様さんは何者で、何をしに来たの?」
「何者っていうか、昼間も言った通り神様なんだけど……もっと詳しく話した方がいいか」
親戚が帰って、
この子は
「だから、僕のことは
目の前の神様、呉太天改め天は媚びるようにウインクした。
「呉っていうと、あの
「違う違う。三国の方じゃない。もっと古い方の呉だよ。呉越同舟って聞いたことない?」
それは聞いたことがある。仲の悪い者同士が同じ目的のために協力するみたいな意味の言葉だった筈だ。昔、中国に呉と
「まぁ、当時の呉越や楚は中国扱いではなかったけどね……」
呉、越、楚などの南方国家は、周とその周辺国を始めとする
その後、呉は
伍子胥はそれを警戒して呉王夫差に諫言した。しかし越を服従させたことで傲慢になっていた夫差はそれを聞き入れず、また越から賄賂を贈られていた奸臣
その後、はたして伍子胥の予言の通り、呉は越王勾践に滅ぼされ、夫差は自害し果てたのであった。呉の滅亡は紀元前四七三年、孫氏の呉が建国される七〇〇年程前のことである。
「なるほど……勉強になる」
樹は古文漢文と歴史が大の苦手で、特に世界史の中国史などには全く歯が立たなかった。漢字だらけでちんぷんかんぷんな印象しかなかったのである。唯一、ゲームの影響で三国志だけは少し分かるが、それだけである。
「……で、彼女が欲しいっていう願いを叶えてくれるって言ってたよな?」
「ああ、だから、今日から僕が君の彼女になってあげる」
「いや……流石に子どもは無理だわ……」
樹に小児性愛の
「ていうか、神様さんは男の子と女の子どっちなのよ」
「え、僕は
「少年だったのか……じゃあ尚更パス。俺にそっちの
確かに天が可愛いのは認めるが、それでも樹は根っからの
「それに、俺は結婚して子どもも欲しいんだ。神様で男じゃそれも望めないじゃん」
「え、だって、可愛い彼女が欲しいとは願っても、結婚して子どもが欲しいなんて願わなかったじゃないか」
それを聞いて、しまった、と、樹は今更ながらに思った。
「でも彼女が欲しいって言ったのに男が来るんじゃ叶えたことにならないだろう」
そう反論すると、天は途端にしゅんと押し黙ってしまった。
「まぁ、そう
「ねぇ……本当にだめなの……?」
天は正面から這うように迫ってきて、上目遣いに顔を覗き込んできた。その目は涙を溜めているように潤んでいて、泣き出す一歩手前のような表情をしている。
ヤバい……めっちゃ可愛い……
間近で見ると、そこらの人ではとても太刀打ちできないぐらいに、整った目鼻立ちのの美少年である。こんなあざとい仕草にさえ陥落させられそうになるのが、童貞の童貞たる
「うう……分かった」
「ほんと? やったぁ! じゃあ契約成立! これから僕は君の彼女ね」
無邪気に笑う天を見ていると、何だか、新しい世界への門が開けるような、そんな気がしてきた。はたして開けていいものなのかは分からないが。
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