第23話いざ村の外へ
「ツクモが俺と契約したことで俺の飢えを肩代わりしてくれたのは分かったけど、それで俺は老婆たちから見つかったりしないのか?」
ウロのいらない一言のせいで自分の醜態がタイヨウにバレてしまったツクモは、ふつふつと怒りが湧いてきたのか、ウロを追いかけ回している。
注意も面倒なのでタイヨウは、走り回るツクモに対して話しかけることにした。
「それは大丈夫よ!あなたとの間に・・・・契約があるから私が肩代わりしてあげられるから。それに・・・・あなたはミギテとして・・・・やって来た訳では・・・ないのだから」
ウロを捕まえるために家中を走り回っている。
ツクモ様ごめんなさい~とキーキー声で蛇行しながら逃げ回るウロ。
蟻が全速力で逃げ回る姿って気持ち悪いなとタイヨウは思った。
「少し休んだらこちらから攻勢にでようと思ってるの。それよりも・・・どう?右足の傷の具合は?」
あの後ウロを部屋の隅まで追い詰めたツクモは、無言のまま縮こまり謝り続けるウロの前で仁王立ちしていた。
ツクモの沈黙が余程恐かったのか、ウロは今タイヨウの頭の上で「ツクモ様恐い、ツクモ様恐い・・・」とぶつぶつ言っている。
そんなウロの姿を意に介さずタイヨウに言う。
「そういえばいつの間にか熱と痛みが消えてる。これも契約したおかげか?」
「そういうこと。もともとあなたはここの世界の人間ではないから、治りは早いのもあるわ」
「そうか、これなら多少走っても大丈夫そうだな!それで今の山の主を倒しに行くのか?それとも村人どもに説教でもするのか?」
グッと右足に力を入れて具合を確認する。
そして鼻息荒くタイヨウは身を乗り出す。
「あなた意外と勇敢なのね」
呆れるような関心するような表情をするツクモ。
(あれ?今の状況を楽しめてるのか?俺は?)
自分でも不思議とやる気になっている。
(もともと死ぬつもりがあったからこんな気持になっているのか?)
(ー違う。今は生きたいと思ってる)
(訳の分からないことばかり起こってやけっぱちになっているのか?)
(ー違う。元の世界に戻りたいと思ってる)
(よく分からないけど何とかなるって気持ちになってるんだ。ツクモとウロの力を借りて何とかしたいと思ってるんだ俺は)
「勇敢な訳じゃないと思う。元の世界に戻りたいし、戻れる気がするんだ。そのためにツクモの力になりたいと思ってるんだと思う」
目に光を宿しタイヨウは気合を入れる。
「タイヨウーー」
ツクモはどこか眩しいものでもみるように目を見開きく。
「流石です、タイヨウ様!!私も命を懸ける所存です。どこまでもタイヨウ様に付いていきます!!」
そのやり取りをぶち壊すようにウロもタイヨウの頭の上で気合を入れる。
「あなたは黙ってなさい!!」
ツクモはたまらず叫んだ。
ドアのない入口から夜明けの光がうっすらと差し込みはじめる。
まるでそれに合わせたかのように、丸くなりジッとしている状態のツクモの目だけが静かにスーっと持ち上がる。
前足を突き出し伸びの姿勢をして体をほぐすと音を感じさせずに歩く。
囲炉裏の側で横になり静かに眠っているタイヨウの寝顔を覗き込む。
(こうして見ると余計に幼く見えるわね。私を信じてくれているんだもの必ず元の世界に戻してあげる)
決意を新たにタイヨウの肩を揺さぶり起こす。
「う、うん、もう出かける時間か」
目覚めが悪いということもなくタイヨウは目を開ける。
「タイヨウ様、ツクモ様おはようございます」
起き上がるタイヨウの頭からウロは飛び退き挨拶する。
こちらも気合充分のようだ。
「これから私達がすることは交渉と宣伝よ。まずは今の山の主に対してミギテの儀式を廃止してもらうこと。そしてそれを村人たちに伝える必要があるわ」
軽くストレッチをしていたタイヨウが反応する。
「ミギテの儀式って比較的新しいものなのか?そんな簡単に廃止してもらえるものなのか?」
「別の国からやってきた異教徒による信仰方法だから、そこまでの拘束力はないはずよ。前任の私の時にはなかったものだもの」
「そうか。それなら穏便に話が済ませられるといいな」
「ええそうね。ここから先の話は村を出て歩きながら行いましょう」
そう言うとツクモは入り口へと歩いていく。
タイヨウとその肩に乗るウロもそれに続く。
夜中に家に侵入し、それ以来ずっと身を隠してしたタイヨウにとっては、陽に当たることがなんだか久し振りなように思えた。
早朝の村は不気味な印象はなく、雀の鳴き声が聞こえ、爽やかな風は少し肌寒く感じさせる。
どこか埃っぽい家の中とは違い、鼻から吸い込む空気はタイヨウのいた現実世界の都会よりも軽やかで美味しく感じられた。
こんな気持になれたのもツクモとウロが現れてくれたからだ。
心の中で2人に感謝をする。
タイヨウにとっては日の光る村を見るのはこれが初めてのことだ。
タイヨウのいた家もそうだったが、現代に比べれば暮らしは貧しいのかもしれないなと思った。
しかしとてもミギテを奉る文化がある村とは思えなった。
そう思わせるほど、早朝の村は静かで穏やかな雰囲気であった。
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