第24話タイヨウの抱く疑問
「肝心の現山の主はどこにいるんだ?山の頂上とか?」
すっかり状態は良くなったとはいえ、傷口が開くことを恐れ慎重に右足をかばいながらタイヨウが質問する。
「偉いからてっぺんにいるって考えかしら?それは早計ね。ここから1時間30分ほど歩いた場所に祀る場所があるわ。そこにいるわ」
前を歩くツクモは振り向きながら答える。
四つ足をテチテチと早歩きしている。
現在タイヨウたちが歩いている道は村の入口を下った先の脇道だった。
真っ直ぐ行った場合は老婆たちの言う袋小路になり、脇道は一見すると見落とす藪の茂みにあった。
「そうか。分類としてはお前と同じ神様みたいなもんなんだろ?そんなやつに交渉なんてできるのか?」
「あら?さっきは乗り気だったじゃない?急に恐くなったの?」
「違います。タイヨウ様は武者震いしているだけですよ!ね、タイヨウ様!」
「お、おう、俺に協力できることはするよ」
いきなり口を挟み決してタイヨウのこと悪く言わないウロを、内心鬱陶しく思いつつなんとか否定する。
「まぁ、最悪争うことになっても大丈夫よ。あなたと契約した私たちを山の主はどうすることもできないのだから。それにウロもいることだし」
ツクモは尻尾を揺らめかせどこか余裕のある調子で言う。
「はい。お任せ下さい。私がタイヨウ様とツクモ様を守ります!」
ウロも自信満々に前足を上げて応える。
「やけにウロも強気だな。それはお前が特別ってことか?・・・・それとも契約ってのはそんなに凄いことなのか?」
急に右足を舐められるた時の記憶がフラッシュバックし、忘れようとタイヨウは首を振る。
そんな様子を肩の上で揺られるウロは驚いて肩から落ちそうになる。
「ど、どうしたのですタイヨウ様!?」
「いや、気にするな。ないでもない」
必死に動揺を鎮めようとするタイヨウ。
「問題があるとしたら村人の方ね・・・」
顔を曇らせこちらを振り向きながら歩くツクモは、タイヨウに注意を促す。
「彼らに今の私達の『姿』は見えないは。でも一度『いる』と認識されたら途端に見えるようになるわ」
「はぁ!?それはどういう理屈なんだ?それじゃあ、万が一やつらの近くでくしゃみでもしたら、バレるのか?」
タイヨウは金づちで殴られたような衝撃を受ける。
「そうよ。だから声は張り上げないで。それとあなたの発言は不吉だから控えたほうが良いと思うわよ」
ニヤリと猫の悪い(人の悪い)笑みをこちらにかえすツクモ。
(しまったフラグを立てちまった!?)
言われて気付いたタイヨウは嫌な汗を額から流すのだった。
「・・・・・・。事前に聞いておきたいんだが、もしやつらに捕まった時はどうなるんだ?・・言っとくけどビビってる訳じゃなくて知識として知っておきたいから言うんだぞ?」
ウロに牽制しつつツクモに尋ねる。
「分かっておりますよ、タイヨウ様」
ウロは小声で囁きタイヨウをイラッとさせる。
微塵もタイヨウが臆しているとは思っていないようだ。
一体どうしてそれほどまでの信頼を寄せることができるのか、不思議でならない。
「まず、村の中心に用意されてる儀式の火を灯し、周囲の村に通知させるわ。その後あなたは3日3晩御神木に括り付けられた後、村人たちの見送る中生贄として、禁領地つまり私達がこれから向かう祠に行くこといなるわ」
「それって人柱ってことだよな」
「声が震えてますが、また武者震いですか?タイヨウ様?」
うるさいと大声でウロを罵倒したくなる気持ちをグッと堪える。
「それとずっと気になっていたんだが、3人の老婆以外の村人はどこにいってるんだ?まさか3人だけってことじゃないだろ?」
「ええ、あの村には他に2人、夫婦で暮らしていたはずよ。多分あなたを探すために他の村を訪ねながら、今も山にいるはずよ。それ以外の住人は山を下りたわ」
「山を下りたってことは麓には町があるのか?」
「私は山を下りたことがないから聞いたことしかないのだけれど、一応町はあるそうよ。ただ、争いが絶えないみたいで町に彼らの居場所があるか分からないわ」
「そうなのか・・・・。なぁ、俺がここに来るのを老人たちは知ってたみたいだけど、それはなんでなんだ?」
「次から次へと質問がるのね?」
歩くことでタイヨウの脳が整理されはじめたらしく、色々と不明だった点に次々と思い至る。
ツクモは質問攻めにも嫌な態度を見せず、歩調をタイヨウに合わせながら答える。
「それは夜空に流れ星が降るのよ。少し青みがかった色のね。周辺の村も含めて毎日確認をするようにしているの。もし確認できた場合は村の中心にある木を燃やして、ミギテの到来を周辺の村々に告げるのよ」
「俺が来ると同時に流れ星が降ってたのか。だからあの老人たちは確信があったんだな。納得がいったよ。それじゃあ、最後に1つだけ・・・」
「・・・・何?」
少し間が空いたことを訝しく思ったツクモがタイヨウを見上げる。
タイヨウは俯き気味に少し言いにくいことらしく、思いつめている。
「あなたがミギテとして犠牲になったら、どんな恩恵がこの村にあるのかってことかしら?」
冷静に前を向いてツクモが言い当てる。
タイヨウは驚いてツクモの背を凝視する。
「タイヨウは優しいから迷いが生じないように、正直に言うわね」
タイヨウは思わず唾をゴクリと飲み、身構える。
「特に何も恩恵なんてないわよ。本当よ」
内心自分がミギテにならないことで、最悪村が壊滅的な被害に見舞われるかもしれないと心配をしていただけに、拍子抜けしてしまった。
それに恩恵がないということも理屈に合わない気がした。
「性格に言うと、村の作物や山の直ぶつの生育や動物たちの成長に多少支障が出ると思うわ。でも微々たるものよ。1つ言っておくとあなたが犠牲になったからと言って、出ていった村人たちが戻ってくることもないわ。それとこれとは問題が別だから、勘違いしないでね」
タイヨウは内心気にしていたことをまたも言い当てられ、驚きをかくせない。
ツクモはタイヨウの表情に気をよくしたのか、これでも元山の主なんだからと付け加えて伸びやかに歩いている。
「さっきも言ったけど、元は私がここの主だったの。だけど不作が続く時期が続いたの。それは私の力ではどうすることもできないことだったわ。私が出来たことと言えば、見守ることだけ。健やかな村々の繁栄と山の繁栄を祈る。ただ、それだけでもいい【流れ】に乗れば、村人たちは小さな幸せを感じることはできたはずなの。でもあの時期は違ったわ。悪い【流れ】にここ一帯の山々が乗っていたの。それに加えて、異教徒が新たな山の主の立ち上げを村の住人たちに薦めはじめてしまったの。私の求心力は失われていったわ。そして新たな山の主の力が増していったのよ。」
話す内に当時の辛い記憶が蘇るようで、ツクモの歩く姿は先程と違い元気のないものになってしまっていた。
しっぽも地面すれすれに垂れている。
「村を下りた人たちはね、私のことを強く支持してくれていた人たちなの。どうしても異教徒の教えを受け入れることができず、変わっていく村や山の状態に我慢できなかったのよ。ミギテという存在がどこからともなくやって来ること。その人たちを生贄に捧げることが苦痛でしょうがなかったのよ」
「そうだったのか。山の主は何でも分かるんだな」
関心したようにタイヨウは呟く。
「いいえ、そうじゃないの。彼らが山から下りる直前に禁領地まで足を運んでくれたの。そして長いこと誤ってくれたわ。その時に私は決意したの。この山々を正常なものにすることを!」
よほど残念だったのだろう。
ツクモの最後のセリフは涙声だった。
タイヨウも自然と拳に力が入っていた。
「分かった。俺も気合いれるよ。でも禁領地って物騒な名前だよな。山の主がいるからなんだろうけど、呪われたりしないのか?」
「もしかして怖いの?」
少し目の赤いツクモがニヤと雰囲気を変えるように茶化して言う。
タイヨウは自分の覚悟をバカにされたようで、イラッとした。
「名前は物騒だけど元は私の家よ。何も怖がる必要はないわ」
「お前はそうかもしれんが、俺は生贄になる可能性があるんだぞ!!」
(しまった!?)
――――つい大声をだしてしまった。
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