第18話ウロと使い魔
動けないウロを掌の上に乗せたまま、囲炉裏の側でツクモと膝を突き合わせて話し合う。ツクモは猫なので足と言ったほうが正確かもしれないが。
「まず彼女は私の使い魔なのは分かったわね。この世界で私は衰弱していたの。そして私とこの村とここの山を救ってくれる存在を見つけてきてもらう役をウロ達に任せたの。合計6体の使い魔の内の一体が彼女よ。」
「・・・・ん?彼女?今、お前ウロのこと彼女って言ったのか?」
淡々と言うツクモのセリフに聞き逃がせないフレーズがあり、タイヨウは思わず疑問を口にする。
「ええ、そうよ。6体の使い魔の内男の使い魔もいたけど、ウロは女の使い魔よ」
「使い魔にそもそも性別ってあるんだな。なんか頼もしいこと言うから俺はてっきりウロは男の使い魔と思ってたよ」
「まぁ、私も帰ってきた彼女が成長してあんなに個性を持つとは思ってもいなかったわ。そもそも帰ってくる事自体望み薄だったし」
改めて絶望的な状況だったことを知り、なんとか力を貸したいと思った。
「・・・他の使い魔達はどうなったんだ?」
「異世界に飛ばしてしまうと連絡は取れないの。ウロ以外に帰ってきた者はいないは。推測だけど、力を失い消滅している可能性が高いでしょうね」
「それじゃあ俺とウロが出会ったのは本当に偶然なんだな・・・・」
たまたま部屋で見つけた蟻に情けを掛けたところ、自分の命を救ってもらう羽目になるとは。
改めて考えると悪魔の悪戯のようでゾッとしてしまう。
もしウロのことをティシュで潰してしまっていたらと思うと、想像するだけで身震いする。
そのストレスを和らげるためにタイヨウはいつの間にか、ツクモの頭を撫でていた。
ツクモはタイヨウの精神の動揺を察してか大人しくしている。
「・・・・・・・、もちろん他の5体の使い魔たちもそれぞれの場所で、一生懸命助けを求めていたはずなの。でも元は違う世界から来た彼らに、誰も手を貸すものなんていないのよ。ウロの姿を見れば分かる通り、力の弱っている今の私が使役できる使い魔も、当然力の弱いものになる。他の使い魔たちもネズミや蝿などの小型動物の姿を借りていたと思うわ。当初の私の計画では、向かった先で力を蓄えて戻ってきてくれればなって程度だったの。まさか人間に保護されて、角砂糖までもらってくるなんて思ってなかったわ」
「え・・・角砂糖がここにくるのに必要だったのか?」
ツクモには悪いと思ったが、角砂糖という間抜けなセリフに驚愕が隠せず話に割り込む。
「ふふ、言い方が悪かったわね。要は何でも良かったの。【慈しんで与える】その行為に意味が生じるの。そこにかけがえのない力が宿ってるの。あなたのことを想うウロの心の強さがそれを物語っているでしょう?どれだけ嬉しいことかどうかは当事者にしか分からないものなのよ。私からも御礼を言わせてもらうわ。ありがとう。私の使い魔をよくしてくれて」
ここにきてはじめてツクモが笑った。
愛らしい猫の甘えるような表情だった。
「・・・・・・・・・・・」
感謝を口にされたことで逆にタイヨウは冷静になった。
確かにウロを守った。
でもそれは偶然だ。
それに結果的に俺も命を救われている。
小さい頃は蟻を踏み潰して遊んでいた時もあったのだ。
(・・・・俺はつくづく運がいいんだな)
タイヨウはどこか遠くを見るような目をして思った。
「・・・・・。自分を過小評価することは美徳じゃないわよ」
顔つきを真剣なものに変え厳しく言い放つ。
「あなたがウロを助けてくれたから、結果的にあなたは助かったの。そこには偶然も当然あるでしょうけど、自分の行った善行をきちんと受け止めないとダメよ」
その大きな瞳はまるでこちらの心が透けて見えているかのようだ。
「お、おう。そうするよ」
ツクモの剣幕に押され勢いで頷く。
しかしツクモの言うことは最もだとタイヨウは思った。
例え運や偶然が重なったとしても、一週間面倒を見て角砂糖を糸でウロとつないだのは自分なのだ。
そう思うと何とも言えない胸の充足感を感じた。
そしてふと自分がここにきて瓶の水を飲もうとした時のことが、突然フラッシュバックされた。
「ウロ!?お前だったんだな!!俺が瓶の水を飲もうとした時に止めてくれたのは。あの痛みで目が冷めて水の誘惑から踏みとどまることができたんだよ。お前には助けられてばっかりだな。俺こそありがとう」
この世界に来てタイヨウもはじめて笑った。
16歳の幼さが残る満面の笑みだった。
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