第12話ツクモとタイヨウ
この時のタイヨウはいきなり異世界に飛ばされたせいか、白猫が突然喋るというありえないことにも寛容になっていた。
ひょっとしたら、ここに来る前の間に人以外の獣や妖怪がいるかもしれないと覚悟しておいたお陰かもしれな。
もし、現実世界であったならば、物を投げつけ発狂していたかもしれない。
「・・・お前喋れるのか?」
「・・・・喋れる」
こちらに近づく白猫はタイヨウの顔も見るが、干し肉に目が奪われがちになっている。
「・・・そうか。今干し肉洗ってやるから待ってろ」
よほど干し肉が気に入ったのだろう。
タイヨウは柄杓にもう一枚干し肉を浸し手を動かす。
「あなたは私が喋っても驚かないのね」
白猫が不思議なものを見るように呟く。
声音は高くどうやらメス猫のようだ
。
「ここに来る前ならパニックになってと思うけど、今は不思議と受け入れられるみたいだよ。分からないことだらけで白猫が喋ることくらい何でもないことかもしれないな」
「まだ若いから柔軟な思考がそうさせているのかしら」
「難しい言葉知ってるんだな、お前」
「・・・・・・・」
白猫は気分を害したように上目遣いで睨んでいる。
「えっと、ごめん。馬鹿にしたつもりはないよ。もう言わないから」
「別に気にしてないわ。言っとくけど私は長生きしてるのよ」
暗に自分の方が博識だとほのめかしているように、白猫は澄まし顔をしている。
今は自分より頭がいいかどうかは些末なことであり、猫の機嫌を悪くさせていなくなるほうが寂しいなとタイヨウは思った。
「そうなんだ。酷いこと言ったね」
(ひょっとしたらこいつ化け猫なのかな?尻尾は一本しかないけど・・)
猫は歳を取ると猫又になると言われている。
小学生の頃、学校の図書館に置いてあった本のことをタイヨウは思い出した。
「・・・・私は化け猫じゃないからね」
「えっ・・・心が読めるの?」
白猫の鋭い指摘にドキリと心臓が早鐘を打つ。
「視線でバレバレなのよ」
前足で顔を舐めながらちょっと誇らしそうに言う。
「ごめん・・・・はい干し肉」
「ありがとう。いい塩加減で美味しいわよ」
「そう。最後の一枚も洗うな」
タイヨウは最後の干し肉も塩抜きすると猫に食べさせた。
猫はゆっくり噛みしめるように食べる。
「・・・・あなたの名前は?」
白猫がつぶやく。
「北風太陽。お前にも名前はあるのか?」
「私の名前は・・・・・・ツクモ」
少し間を置いて言いにくそうにツクモは話す。
「へぇ九十九っていうのかいい名前だな」
「そう?」
思いの外タイヨウに褒められて驚くツクモ、それは安堵の表情に近いかもしれない。
「そうだよ。長生きするようにって意味かな?」
「どうなんだろ。・・・それよりも何故あなたのような人がこんな場所にいるの?」
心底理解できないような口調でツクモは聞く。
「それはこっちが聞きたいよ!トイレの流れに呑まれたらここだったんだから」
「えっと・・・その直前の記憶はないの?」
それとなく、しかし大切なことを匂わすように慎重に尋ねる。
「え・・いや思い出そうとはしてるんだが、用を足した記憶しかないな。多分寝るつもりだったとおもうんだよ・・な」
ツクモの発言にまたもや心臓がドキリとする。
少し前から頭の隅に気にとどめて置いていたが、一向に記憶は思い出せていない。
「・・・・そうなの」
残念なようで気の毒そうな声をして返事をするツクモ。
「それよりここはどこなんだ?どうしたら俺は元の世界に戻れるんだ?」
身を乗り出しタイヨウはずっと誰かに答えて欲しかった質問をぶつける。
「そうね・・・私が本来の力を取り戻せたら、タイヨウを元の世界に戻すことは可能だと思うわ」
「そうなのか!それはどうすればいいんだ?ついでにあの老婆たちは一体何者なんだ?ミギテって何なんだ?俺をどうするつもりなんだ?」
「質問が一杯ね。まぁその気持も分からなくないけど。一つ一つ答えることにするわ」
白猫はあくまでも冷静だった。
そして一呼吸置いてから、
「その前に私に関わる条件として一つ質問をさせて欲しいんだけど、いいかしら?」
どこか鋭い目をしてツクモはこちらを真っ直ぐ見つめる。
「なんだよ」
自分よりもずいぶんと小さな生き物の迫力にタイヨウは腰が引ける。
「あなたは本当に元の世界に戻りたい?」
またしてもタイヨウの心臓はドキリとなった。
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