第7話集落の様子

熱と痛みの生じる右足を引きずりながらタイヨウは慎重に時間を掛けて集落の入り口を通って行く。

見通しのきかない暗闇の入り口はまるで魔物が口を開け待ち構えているように見える。。

周囲を囲む木の塀の高さは太陽の肩の高さあたりまであった。

塀の影からいきなり人が現れて組み敷かれるのではないか、という嫌な想像をしていたものの、そんなことはなくすんなりと入ることができた。

集落に足を踏み入れた時、喉の渇きとは関係なくごくりとツバを飲み込んだ。

やっとのことで見つけた集落だが、生活感のない様子に不気味さを覚え緊張する。

日は完全に傾き月の光だけが頼りとなっている。

その光も雲が薄く出ており視界が悪い。

気を張って集落の中に入ってみたものの依然として人の気配はしない。

恐怖で足がすくみ入り口近くの塀に持たれるようにしてズルズルと腰を下ろす。


(はぁ・・・はぁ・・・体を休めることはできそうだけど・・・人はいないのかな?)


呼吸が浅くなっていたようで、深い溜息が漏れ深呼吸を2度3度とする。

どの家の玄関口にもドアは設けられておらず、そこには真っ暗な闇が広がっている。


ーーーータイヨウは腰を上げるとフラフラと歩いて行く・・・

ーーーーそして手短な家の入口へと吸い込まれていく・・・・


(っは!・・・・・はぁ・・しっかりしろ・・・おれ)


そんな錯覚を覚えた。

その錯覚は近づいて中を確かめたい欲求と、今にも人外な化物がそこから現れるのではないかという恐怖をタイヨウに覚えさせた。

一度考えてしまうと止められない。

際限なく頭に浮かんでくる恐ろしいイメージは、入り口から目を離せなくさせる。

しかしタイヨウの疲労はいよいよ深刻なものになっていた。

荒くなる息を殺し塀に背を預けたまま、視点は家々から目を離さずゆっくりと右回りに進むことにした。

慎重に音を立てず入り口から一番近い家の背後へと回る。

そこで塀から離れ四つん這いの姿勢で家の裏手の壁まで接近する。

そして耳を壁に押し当てて中の様子を探ってみる。

しばらくの間じっとしていたものの中から音は聞こえてこない。

目を閉じ意識を集中してみるものの、聞こえてくるのは塀の外の草木が風にゆれる音と虫の音のみ。

そして自身の激しいドクンドクンという心臓の脈打つ音とハァハァという荒い息遣いが煩わしく音を立て、聞き耳の邪魔をする。

成果が得られず再び元いた塀に腰を下ろす。


(なんで人がいる気配がしないんだ?)


(全員もう寝てしまっているのか?それともたまたま行事が何かでいないのか?)


(仮に祭り事なら太鼓の音や歌が聞こえてきてもよさそうなものだが)


(野盗か何かで追われたり荒らされたような跡はないよな)


(家の入り口の高さは人が通れる高さだったから、ここには人が暮らしているはず・・だよな・・・)


不安になる気持ちを抑え村の状況を整理してみる。

村の様子を見る限り何か争いごとが生じたようには見当たらない。

それなら風土病か作物の不作で村を放棄したのだろうか?

しかし家の状態やちらりと見えた村の中央の組木の状態から決、して長い間放置されているようには見えない。

必死に人のいない可能性を考えてみるもののタイヨウにはどれも確信がもてない。


(じっとしていてもダメだ。せめて体を休めないと)


タイヨウの体は長いこと睡眠と水を要求し続けている。

それにもう耐えることはできない。

タイヨウは意を決すると慎重に音を立てないよう、ゆっくりと家の入口へと近づいて行った。

まさか自分を探すために人がいないのではないか?という可能性には目を瞑ることにして・・・

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る