第30話 soul

「世にも奇妙な物語、実に興味深いねぇ、こんな世界があるだなんて、普通の人は誰も信じない、狂信者と言われてしまうだろうねぇ」


天城蓮は楽しそうに自分の世界に浸りながら、独り言のように話を続ける。


「では答え合わせといこうか」


ゴクッと僕の喉が鳴る音が聞こえた。


「魂はHDDに保存が出来る!」


「記憶が保存出来るって事ですか?」


「記憶を含む魂の話です。いわば君のいうところの脳の保管とでも言いましょうか、しかし実体はもちろん無いよ。いわばゴーストの状態、ただし成長や新しい事を覚えることは不可能、あくまでも過去の経験や記憶のみ保管は可能だと私は考えている。」


「考えているって、答えじゃないんですか!?」


「まあ後は本人に聞かないことには分からないが、何せ今回は記憶失ったしまったようだからね。」


「しかし記憶が保管出来るってことは、もし肉体さえ、いや肉体に代わる器があれば、人は永遠に生きられるってことですか?」


「ふはははっ、実に面白い、実に良いよ奏!君は最高だ!私はその通りだと思う。永遠の命、器さえあればそれも可能なのかもしれない、ただし魂の保管ができる事、それが前提となりますがね。」


そこで言葉を止めて、急に距離を縮めてくる、僕の両肩をぎゅっと握り、今までにない気味の悪い笑みで語りかけてくる。


「君にはその魂を保管する能力がある、そして先ほど成長や新しい事を学ぶことは難しいと言いましたが、君の能力は魂に新しい情報を刻むことが出来ると思います。だから記憶のないMは歌を歌った、そう君が作った歌を」


「何を言ってるんですか?あの歌はMが歌っていた曲を僕が編曲をしただけです。あの曲はMが...」


「違います、違いますよ!大きな間違いをしています!私はあなたのファンになったと言いました。昔の曲も聴かせて頂きました。確かに周りには作曲者が違うと言われてもおかしくないほどあまりにも違う曲...で・す・が!

その曲から伝わってくる波動とでも申しましょうか、紛れもなくあなたの曲だとビンビン伝わってきましたよ。」


「私は遂に出会うことができた!命の、魂の継承能力者を!」


テンションが明らかに出会った時と違う、何かに取り憑かれたように暴走モードに入っている。


「天城さん僕はにわかに信じがたいのですが、僕にそんな能力が本当にあるんでしょうか?仮にもしそんな能力があったとして、僕には死んだ人を生き返らそうなんて事は思わないと思います。確かに親しい家族、友人が亡くなってしまったら悲しいです。ただ...」


「ただ?」


「やはり人は命という蝋燭が消えてしまう儚い灯だからこそ、今を生きようと頑張れるんだと思います。その体を変えながら生き長らえたとしても、

その先に何があるんでしょうか?そもそもなんの為にそこに執着を求めるのでしょうか?」


「奏くんは大切な人を失った事はあるかい?絶望を感じた事はないかい?例えば自分の兄弟や、仮に息子や娘がいたとして、突然手からこぼれ落ちるように失ってしまった喪失感を味わった事はあるかい?だから分からないんだ。だから理解できないんだ。なぜ、何故!私が探偵の道を選んできたのか!」


私はずっと探しているんですよ。

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