第17話 second

奏は走った、息も絶え絶えになりながら土手にたどり着いた。呼吸も整えないままに絵を描き始める。


余計なことは考えないようにと絵に集中するうちに、自然とMのあの曲を歌っていた。一心不乱に呼吸を乱しながら、何回も何回も繰り返し、繰り返し歌いながら絵を描き続ける。


流石に日が落ちてくると、影の位置や空の色までも変わってしまう、ある程度描いたらまた明日同じ時間に来ようと考えていたが、描き始めたらそんな事はお構無しに頭のイメージだけで描きあげていく。


ここの絵を描くのは2回目なだけあってスピードは比べものにならない、終盤の細かい仕上げに入っていくにつれて、奏の動きもゆっくりになっていく、集中しているせいか、あれだけ歌っていた歌も今はそのゆっくりとした作業に合わせる様に、スローバラードを口ずさんでいる。


結局一晩かけて概ね描きあげてしまった、仕上げにMを描くかどうか迷ったが、最初の絵には描いていなかったことを踏まえ何も描かなかった。


帰り際反対の河川敷で何か物音を聞いた気がしたが、疲労と満足感であまり気に留めずまた急いで家まで走って帰った。


そして汗だくになった体をスッキリさせようと、いったん絵をリビングに置いて、シャワーをすることにした。


一通りスッキリし、体を拭いているとエビチリの鳴き声が聞こえてきた。まさか...急いでリビングに戻り絵を見ると、誰かいる、そしてまた歌っている。


しかしそれはMではなく、見覚えのない女性の姿だった。



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