第16話 absence

Mは気を失った、今ならMが外に出る事が出来るかどうか分かるかも知れない、このままいつもの出口まで背負って...!


抱き抱えようとした次の瞬間。

なっ、突然Mの体が透き通っていく、まさか消える訳じゃ、突然の事にどうすれば良いか分からず、Mの名前を叫び続けた。


「おい!Mっ!起きろ目を覚ませ!このまま消える気か?まだお前の歌はこれからもっと世界を知る事が出来るかもしれないんだ、なぁ、こんな中途半端に消えたりしないでくれよ!」


Mは半透明なまま、静かに横たわっていたが、やがて小さな光の粒が、霧散していき、Mの体を連れ去っていった。


光は何の温度もなく、ただただ奏の手をすり抜けてゆっくりと消えていった。


「エムーッ!」

声にならない咆哮は奏の描いた絵の世界の空に虚しく消えていった。


何が起こった?そうだリングだ、リングを触った瞬間に...奏は残されたリングを拾い、周りを見回し、まだMが残した物がないか、M自身がいないか探し回った。


しかしこの絵の世界はあまりに狭すぎた、すぐに全てを探し終わり、この世界の果てにたどり着いてしまう。


もうあいつはいないのか、それとも外の世界にいる可能性は?そうか、そうかもしれないな、記憶が戻って自分のいる本当の世界に戻れたのかもしれない。


自分に言い聞かせるようにしているが、不安は治らない、頭の中がグチャグチャにかき回される。


絵の中の住人Mとは、結局何だったのか、現実に存在するものだったのだろうか、ここで起きた殺人事件とは関係があるのだろうか。


考えたところで何も解決しないし、何も始まらない。ふとMと出会った時の事を思い出す。


確か大学の課題の絵を、この場所の絵を描いた後、家に帰って、エビチリが何かに気付いて....


絵か....


奏は急いで家に帰った。キャンバスにもMはいない、そして真白なキャンバスと画材を持ってもう一度現実のこの景色の前にやってきた。


もう一度描いてみよう。






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