第10話 place

「こんにちは」


もう当たり前の様に絵の中に入り、そこの住人と化している何者かも分からない人物Mに古い友人かの様に話しかける。


「やあ奏、今日はどうしたんだい?」


「CD制作の進捗について一応話しておこうかと思って、レコーディングも無事に進んでるし、店長は無駄に元気だし、そうだ、ほらジャケットが出来たんだ。」


Mが住んでいるこの絵の世界、この場所、そしてこの河川敷に1人佇むMを描いた。本来は学校の課題で描いたいた絵だが、何故かこの世界に入るための扉となっている絵。


そこに実際はいないはずのMを描いた。これはこの曲の本当の作曲者かもしれないMをどうしてもどこかに入れたかったので、俺が勝手につけた名前のMよりも、ずばり本人の姿絵を入れた。


「M?」


ジャケットを眺めたまま、動きが止まっている、そういえばMは呼吸をしているのだろうか?気になってふと脈をとってみたい衝動にかられ手を掴んだ瞬間だった。


掴まれた手を振り払い、彼の目には涙が浮かび、急に座り込んだままブルブルと震えている。そして掴んだ手はとても冷たく、そして真っ白い手首には、日焼けか何かの後だろうか、白っぽい丸い跡が残っている。


「ごめん痛かったかい?それとも何か思い出したのかい?」


「いや分からない、ただとても嫌な感じがするんだ...」


アーティスト名を何にするか相談するのも忘れ、彼の様子ジャケットの絵を見比べるながら、やはりこの場所には何かあるんだろうかと、後日絵の中ではなく現実のこの場所に足を運ぶ事となる。

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