第8話 re:release

嘘のような話で、とんとん拍子にCDの発売に向かって話が進んでいく。


まだ評価を受けているのが一曲しかないので、もっと作曲をしてアルバムを出しましょうとか、でもとりあえず今回は一曲のみのスポット契約で、例えば他の歌い手にカバーさせてもいいか?とか、初めてのことで自分がどうしたら良いのか分からずに全てを保留にしていく。


保留にしたところで、きっと何も分からずにここに立ち止まったままになるのだろう。そう思ったので実は昔馴染みのライブハウスの名物店長に相談をしていた。


「何っ!あの曲はお前が書いていたのか!?この界隈でも噂になっていたんだよ。」


名物店長に褒められると何だか誇らしくもあり、照れ臭くもなるが、反面本当にあの曲は俺が書いたのか?と疑いの眼差しを向けられていることに少々腹立たしくもあったが、事実半分はMが書いた曲だ。(半分?そんなノリツッコミは置いておいて...)


「うん、レコード会社からも声がかかっていて、CDを出さないかって言われてまして」


「ふん!尻の青いガキが一丁前にCDデビューだ?たかが一曲で自惚れてんじゃーねぇーよ!」


いつもの調子で声を荒げて叱ってくれる。ここの名物店長はいくつものバンドを育ててきた、それは決してただ褒めるだけではなく、いつも厳しいプロの目線で、文句を交えながら小煩く叱っていて、素直に聴き入れてきたバンドが、今ではそこそこのホールを満員にできるまでに成長をしていた。そんな名物店長を慕って、わざわざ遠方から足繁くライブを行うバンドも少なくはない。


「ですよね...正直メジャーに憧れはあったんですけど、何か違うっていうか...」


本当は、心の中では、この曲はMが作った曲で、どこか後ろめたい気持ちがあるからなんだと今分かった気がした。けど...やっぱりアイツの為になるのか分からないけど、この曲はきっと誰かに届けないといけないような気がして...


「店長、物は相談なんですが、ここでCD出せませんかね?」


店長も突然の相談に目を丸くしている。


「金にはならねぇかもしれないが、それでもいいのか?あの曲ならメジャーでの成功も指先ぐれぇはかかってるんじゃねぇのか?みすみすそんなチャンスを逃す手はねぇと思うけどなー」


そしてニヤリと笑って「よし!取り分は6:4でいいか?」


「どっちが6なんだ?」


「そりゃ決まってるだろ〜」


「分かりましたじゃあ7:3ということで!」


「フン!ケツの青いガキが偉そうに!売り上げからレコーディング費用と人件費は差っ引くぞ、あと次の曲も考えとけよー」


「あとジャケットデザインなんだけど、俺が描いた絵を使っても良いかな?」


「オメェのCDだ好きにしな!クレジットにはここのライブハウスと俺の名前もプロデューサー名義で入れとけよー」


そうしてインディーズでのCDデビューが決まった。




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