第4話 Manifestation

「ありえない....」キャンバスの後ろ側をのぞき、音が流れるような機材がない事を確認する。


もう一度キャンバスを見ると、足跡も消え、曲も聴こえなくなっていた。

「気のせい...か?」


楽観的な俺は今聴こえてきた曲を完璧に覚え、イメージが違っていた数カ所を修正する作業に入った。


「出来た...」


早速“chord”に投稿をする。すると翌日から、先日までの曲とは違い、様々なコメントや “cool!”な評価がつけられていた。


翌々日になってもその勢いは収まらず、概ね高評価をつけられ、とうとう今話題の曲として投稿サイトのお薦め覧にまで表示されるようになった。


そうなると勢いは止まることは知らず、次々に寄せられるコメントとともに、そしてもう一つの弊害を生み出していた。以前投稿していた楽曲に対し、それに反比例するかのように悲惨なほどの低評価と、新曲に対して本当に同じ人が作っているのか?という懐疑的な投げかけで埋め尽くされ始めた。


こうなると時間の問題で、数日後にはやはり心が持たず、初期の楽曲は逃げるように削除するに至った。


そして数日後、突然彼は現れた。


数日間曲に対するコメント返し等でパソコンに食いつくようにしていたが、あまりの件数に猫の手も借りたい状況になり、やがてコメントを返すのも限界と悟った。


そのままにしていた絵の続きを描こうとキャンバスから布をとった瞬間、自分の目を疑った。描いた覚えのない男が、土手に座っていた。


そう夢の中で見た男だ


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る