第3話 Trace

キャンパスにかけられた布を捲り《めくり》、自分の描いた絵におかしい所がないか確認する。


「ふぅ、やっぱり夢だよな....焦った」嫌な汗をかいたし、シャワーでも浴びるかー」


キャンパスに描かれてた土手に、うっすらとした足跡を見つけることは、その時はできなかった。


シャワーを浴びながら、ふと夢の中のメロディを思い出す。生々しく、とても悲しい曲。歌詞は所々しか聴き取れなかったが、何となく誰かに伝えて欲しいと願う気持ちのような気がする。


「そうだ!聴いたことのない曲だ、俺の夢の中の、いわば俺の頭の中で作られた曲、できた!新曲の形!」


「ほら脳内で再生されてるぞ、聴こえるぞ!頭の中に曲が流れ込んでくるようだ!はっはっはっ!」


「これが覚醒か?覚醒というやつなのか!?」急に厨二臭い台詞をはきながら、バスタオルで身体を拭きつつ、早速DTMの五線譜に、音符を連ね始めた。


あーでもない、こーでもない、あれ?あそこのメロディはー?いざ作業をしてみると、所々の記憶が剥げ落ち、はっきりしないところが数カ所あった、その数カ所違うだけでも全体のイメージは全然違うものに出来上がってしまっていた。


「俺、覚醒してなかった...才能ねぇな俺ほんと..」


未だに既にアップされている曲に、うんともすんとも反応がない真っ白なコメント覧に項垂れる。


カリカリと何かを擦る音がして、その方向へ目を向けると、エビチリが布をかけられたキャンパスに向かって、布を取るように前足をバタバタさせている。


「あぁーっ!絵が!こらこらー!めっ!」


いそいで猫を追い払い、今度こそ傷がついたであろう絵の確認をする。「おかしいなー、今まで絵にいたずらなんてしたことがなかったのに」


幸いにも大きな傷はなく、上塗りすればどうにかなるレベルだったようだ。


「ん?何だこの跡、いまできた猫の肉球跡か?」


よく見ると人の足跡にも見えるが、こんな足跡を描いた覚えはない。目を凝らして見ていると、あの曲が聴こえてきた。このキャンバスの中から




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