第2話「しおかぜかおる」

ジャパリパークセントラルを抜けて数分後。

あたしたちはラモリさん操るクルーザーに揺られながら景色を眺めていた。


「このあたりもキレイだね~」

「そうですね! 海が近いんでしょうか? しおかぜの匂いがします。」

「ご明察! イエイヌさん。いま我々はジャパリパーク屈指の人気スポット、ジャパリビーチに向かっています。」

ジャパリビーチかぁ~! 楽しそ~! やっぱり海のフレンズちゃんがいるのかな? だったらその子とも仲良くしなきゃね!


「あっ、見てください、もうすぐトンネルですよ。」

「お、ほんとだ。この先にジャパリビーチが‥? っていうかいつの間にこんな森の奥に入ってたんだろ?」

その森は、いわば緑のカーテンみたいな。そんな感じで周りからはほぼ見えないように木と葉っぱでいっぱいだ。すっごいきれいで、空気も目に見えるくらいきれいだった。

「さあ、トンネル入りま~す。」


クルーザーがトンネルに入った。ライトが結構あって、明るい。


「そろそろですかね‥? もうすぐジャパリビーチと海が見えてきますよ~!」

そこそこ長いトンネルだったけど、抜けるとそこには‥!


♪ Rオリジナル 人魚たちのボサノヴァ

「わあー! これが海‥! きれいですね、ともえさん!」


素晴らしくきれいな青い海が、白い砂浜の横に広がっていた‥!


「すっごーい! これは描くしかないでしょー!」

あたしは、海とビーチ、その横を走るクルーザーの絵を“いんすぴれーしょん”の働くまま、あっという間に描き終えた!


「わはーっ! いい絵ですね、ともえさん!」「えへへ。これでひとつ、思い出ができたねっ!」

こうやって思い出を残しておくことで、このスケッチブックの前のページみたいに、見たときに思い出すことがあるかもしれないからね。でもやっぱり一番は楽しかったことを残したいよね~。


‥ふと、あたしはスケッチブックをめくり、絵を探した。

‥‥あった!これだ。 あたしが出したのは、海に浮いてる‥ふね? が隣にある建物の絵。

もしかしたらジャパリビーチのどこかにこの建物があるのかも?


「ともえさん、ともえさん。」 突然、イエイヌちゃんに声をかけられた。

「どうしたの?イエイヌちゃん。」

「あの‥‥実は、わたしも絵をかいてみたいです。」

「もっちろんいいけど、どうして?」

「わたしも思い出を残したいんです。おうちにかえったら、いっしょに絵を描けるようにもなりたくて‥」

「そっかぁ。うふふ、そうだよね! よしっ! じゃまず、簡単なものから描いてみよっか!」

「はいっ! ガンバります!」

音声、音楽フェードアウト


「それじゃあ、まずは丸と葉っぱから‥」


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OP みゆはんー足跡



真っ白な道に 並ぶ足跡 


降り積もる雪に 埋もれてゆく



右は僕 左は君


寄り添って 重なり合って



I believe you


霞みゆく 足跡は 二人だけのクロニクル


手を取り 刻んだ



ああ 夜空に浮かび 瞬く星たちよ


僕らの行く先を 照らしてください


ずっと二人で これからも二人で


歩き続けてゆく 覚悟はできてます



雪解けを待つ 蕾のように


この愛を そっと そっと 大切にしたい



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「はい、ジャパリビーチに到着でーす。」


クルーザーのドアが自動で開いて、目の前にさっきの海がみえた。


「ひゃ~、きれいだなぁ‥。」「そうですね、ともえさん。太陽がいい場所にあって、とってもかがやいて見えます。」


「‥ん? あっ!あれは!」 海をながめていると、右の、ちょっとさきの方に船が横にある建物を見つけた。

「あたしのスケッチブックにあった所!」

「ほんとですか!? どこに‥‥あ! あれですね!」

イエイヌちゃんも見つけたみたいだ。


「ラモリさん、あのばしょまでいっしょにいこう!」

「おお、あそこですね。

あれはゴコク港、船の発着場であると同時に、海のフレンズとも触れ合える珍しい場所ですぞ。」


「ホントに!? スッゴく楽しみになってきた! はやくいこいこ!」

「そうですね、いきましょう!」

「ああっ、お待ちくださいともえさん‥いかんせん私は足が遅いもので‥‥」


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「そおーれっ!」  「いよっと!」

「あははっ、やったねアシカちゃん! またまた大成功!」

「ふっふっふー、今日の私は絶好調ですよ~!」


「あっ! みてみて! たぶんあれ、おきゃくさんじゃない?」

「いいタイミングですねぇ。今日は例の大技も決められそうですし!」



建物と船の近くには、青い服の、海の生き物っぽいフレンズちゃんが二人いた。

挨拶は大事、これホント。

「こんにちはー! 初めまして、フレンズちゃん!」

「初めまして~! あたしはバンドウイルカ!」

「私はカリフォルニアアシカで~す。」

「私はイエイヌですぅ。こちらの、ともえさんのお供をしてます。」


「ともえさん? 聞いたことない名前ですね。」

こっちの眼鏡をかけた大人っぽい子がカリフォルニアアシカちゃんで‥


「キミはなんのフレンズなのー?」

こっちのセーラー服でげんきいっぱいな子がバンドウイルカちゃんだね!


「うーん、よくわかんないんだ。それが。」

「そっかぁ。大変だね。でもでも、今日のショーでともえちゃんを楽しませてあげるよ!」


「ショー、ですか?」

「そうです。船の近くで飛んだり跳ねたりのとっても楽しいショーですよー。」

「へえ~! そうなんですか!」


「面白そう~! ねえねえ、そのショーってやつ、みせてほしいな?」

「もっちろんですとも!」

「じゃあ、船に乗ってね!」


その船は、クジラの形をした、おもしろい船だ。潮を噴いている背中が日除けになってるみたい。

乗ってみると結構広く、真ん中には底を覗ける、ちょっと深くなった所がある。


「[ソーラー船 ホエール号に搭乗を確認。操作を開始するには、搭乗員の承認が必要。]」

またラモリさんから変な機械音が聞こえてきた。何を言ってるのかは全然分からない。

「ホイホイ皆さん、まもなく出発しますよ~。準備はいいかな?」

「いいともー! さ、皆も?」「いいとも~!」「「!?!?‥‥‥い、いいとも~?」」

「よーし、ではではー、出港~!」


ブァーン、といった音が鳴った後、船が動き出した。

「わあー!動いたよアシカちゃん!」

「すごい! すごいですよ! 動くとこは見たことはありましたが、乗ったことはなかったもので‥!」


さっきまでの潮風が、より強く吹いてくる。いい景色だし、いい空気だし、いい場所だなぁ~。


さっきの底を覗ける場所では何がみえるかな?


「ああ!みてみてみんな! この中! 海の中が見えるよ!」

「おお‥ うわぁ‥! これが海の中ですか‥きれいですね‥。」

「でっしょー? いろんな色の岩があってキレイだよね~!」


「これは珊瑚礁といって、昔々の生き物が固くなってできた岩です。」

「へえー、これも生き物なんだね‥」


「そうだ! せっかくなんだからさ、海に潜っていろいろ見てみない?」

「あっええ!? あ、あたし泳げないけど‥」

「わたしもです‥水の中は苦手で‥」

「そこは心配無用ですぞ、お二人とも。」

いったん船を止め、ラモリさんが船の倉庫から何かを探している。

‥持ってきたのは、ガラスでできたっぽいヘルメット。‥こんなので大丈夫なのかなぁって正直思っちゃったけど‥


「こちら、サンドスターの物質再生能力を応用した、水の中でも、砂の中でも、宇宙でも呼吸できちゃう優れモノなんです。」

何かよく分かんないけど、大丈夫ってことだよね?

「ほいどうぞ。ともえさん、イエイヌさん。」

ひょいっと、そのヘルメットを渡された。


「なにそれなにそれー?」 「これ、水の中でも息できるようになるんだって!」

「ん?? あっ!そっか、海のフレンズじゃない子は水のなかじゃ息できないもんね!

いやーははは、ごめんねぇ、うっかり忘れてたよ~‥」

「大丈夫っ! そんなに気にすることじゃないよ。」「そんな‥あははっ、ありがとう‥!」


「ともえさん、わたしちゃんと被れてますか?」「うんうん、大丈夫そうだね!」

「準備OKですか? それでは、私に続いて海に飛び込んでください!」

「はいっ!」「ではいきますよ~」

「ワン、ツー、スリー!」


先に、ドルカちゃん、続いてアシカちゃんが海の中へ。あたしたちも続いて海に飛び込んだ。

「イエイヌちゃーん、大丈夫?」

「はっ、はい‥なんとか。」

「大丈夫、あたしも遅いから!


‥あれ?」


さっき、あたしは泳げないって勝手に思ってたけど‥

「わっ! すごーい! 泳ぐの早いね、ともえちゃん!」

「これは、イルカのフレンズにも負けず劣らずの早さですね‥!」

「へへ、何か自分でもよく分かんないけど泳げた!」

でも、このままじゃ泳げないイエイヌちゃんが仲間はずれになっちゃうなぁ‥


「イエイヌちゃん、あたしと手を繋いでいこっか?」

「えっ!? そ、そんな。泳げないわたしに、お気遣いありがとうございます‥。」

「うふふ、優しいのですね。」「へっへーん、あたしとイエイヌちゃんは仲良しだからね~」

「いいねぇ~、じゃあさ、みんなで手を繋いで泳ぐのはどうかな?」

「おおー、いいですね!やってみましょうか!」

イエイヌちゃんは真ん中で、両端にあたし、アシカちゃん。あたしの横にドルカちゃん。

こんな感じでみんなで手を繋いだ。

「皆さん‥わざわざありがとうございます!」

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♪水辺のやすらぎ



四人で手を繋いで海の中を泳ぐ。緑のくねくねしたもの‥きれいな岩の穴‥海の中で暮らすフレンズちゃんたち‥

たくさんのきれいなものが、あたしの目に入ってくる。

「どうですか? 海のフレンズじゃない方には新鮮な光景でしょう。」

「うん‥! とってもきれい‥。」あとで、絵にかいてみようかな。

「わたしも、みたことのないものばっかりです‥!」イエイヌちゃんも、目を丸くして見ている。


しばらくみんなで泳いだところ、一人のフレンズちゃんがこちらに泳いできた。

「あ! マイちゃん!」「おー、何かたくさんいるけどお友達かな?」

「そうなの! さっき上で会ってから、海をみんなで泳ごうってことになってさ。」


「そうだったのね。そこのお二人さん、初めまして! 私はマイルカ。ドルカちゃんのお友達だよ。」

「よろしく!マイちゃん。あたしはともえ!」「わたしはイエイヌですぅ。」

マイちゃんとドルカちゃんは姉妹みたいにそっくりだ。おなじイルカのフレンズだからかな。


「ともえ‥ちゃん、かぁ。」

‥あたしが名前を出したとき、マイちゃんは少し怪しんだような顔をした。

「なんか、ヒトみたいな名前だね。」


♪洞窟の奥

え‥いま、ヒトって‥!

「えっ!? なにか、ヒトについて知ってるの!?」


「う~~ん、結構昔に、ヒトと出会ったことがあるような気がするんだよねぇー。」

「それってどんな人だったか覚えてる!?」

「どういうヒトだったかはあんまり覚えてないけど、そのヒトのお友だちがフレンドリー立ったのは覚えてるかな‥。」


「その人は、どこにいるかわかる?」

「まあ、昔って言っても、「例の異変」がおきる少し前くらいだからね。たぶんいると思うよ。」


‥このパークに、あたし以外に人がいる。

どんな人なんだろう。いい人だといいな。

でも、そもそも出会えるのかな‥

「例の異変」ってなんだろう。

うーん、気になることが多いなぁ。


「情報ありがとう、マイちゃん。」

「いえいえ、こちらこそ、だよ。ふっふ、じゃね~。」

「じゃあね~」「また会おうね~!」


マイちゃんと別れ、あたしたちは、船に戻ることにした。


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海から上がったあたしは、しばらく休むことにした。まあ一番の理由は、イエイヌちゃんが泳ぎ疲れてたっていうのがあるんだけどね。



「どうでしたか?海の中は。」

「とってもきれいだった! また入りたいな。」

「ふわぁーん‥疲れて眠くなっちゃいました‥‥‥」

「そっか。イエイヌちゃんは、寝ていいよ。」



「そっとしておきましょうか。」

「ショーはお預け、だね。」




♪けものたちの哀しみ


「‥イエイヌちゃん。」

「なんでしょう?」

「あたしの膝、貸そっか?」

「‥お借りしますね。」



「きれいな夕焼けですね。」

「そうだね。ホントにきれい。」


「‥ともえさん。」

「なあに?」

「わたしたち、今日初めてあったのに、こんなに仲良くなりましたよね。」

「うん。」

「これって、もしかしたらともえさんはわたしの生涯のパートナーなんじゃないかなって、おもってます。」

「あたしも、イエイヌちゃんとはずっと一緒にいたいって思うよ。」


「‥わたし、寂しかったんです。

ずっと一人で。ずっとヒトを待ってて。」

「だから、お願いです。ともえさん。ずっとずっと、わたしと一緒にいてください。

おうちについても、そこで一緒に暮らしましょう。」

「‥もちろんだよ。」

「寂しい思いをしたんだね。でも、大丈夫。あたしがそばにいるよ。」

「‥ありがとうございます。」

「ふふ、どういたしまして。」



夕日が沈むなか、あたしとイエイヌちゃんは、生涯を共にする約束を交わした。

あたしも、イエイヌちゃんとなら、ずっと一緒にいたい。

例えどんな壁が構えていようと、きっと乗り越えられる。

あたしの記憶が戻っても、一緒にいてくれるよね。


イエイヌちゃんはもう寝ちゃったか。

なんだかあたしも眠くなってきちゃったかな‥

このまま、一緒に寝ようか。



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次の日。

あたしは船の横にあった建物のベッドで目を覚ました。イエイヌちゃんはもう起きてるみたいだ。


「おはよう! イエイヌちゃん!」

「おはようございます! ともえさん!」

「おお、二人とも起きたみたいですね。さあ、これを。」

ラモリさんから、まんじゅうのようなものをもらった。


「これはジャパリまんといいまして、うまい、健康的、手に入れやすいといった素晴らしい食物となってます。」

「おいしいですよー、一緒に食べましょう!」

「うんっ! じゃあ、」


「「いただきます!」」


「わぁ‥おいしい!」

カレーまんのようだ。皮が柔らかくて、食べやすい。


「もっとたくさんありますがね、今後の旅の為に取っておきましょう。」



「ごちそうさま!」「ごちそうさまでした!」

「よおし、二人とも食べ終わりましたね。

では、そろそろ出発といきましょうか。」

「あっ、待って! 昨日のふたりはどこにいるの?」

「すぐ外ですよ?」

「わかった、ありがとう!」


昨日のふたり、バンドウイルカちゃんとカリフォルニアアシカちゃんに渡したいものがあったんだ。

♪けものたちの息づかい

「あっ、いた! おーい!」

「あ! おっはよ~!ともえちゃん!」

「あたし、もうそろそろ行っちゃうんだけど、じつはね、二人に渡したいものがあって。」

「ふむ、なんでしょう。」


「これ! 四人で手を繋いで泳いでる絵だよ!」

「おおおーっ! いいの!?貰っちゃって」

「うんっ! 思いでとして、残しておいてほしいな?」

「ありがとう!」「ありがとうございます!」


「こちらこそ! あっ、んじゃあね! またいつか会おうね~!」


「ばいばい!」「また会いましょうね~!」


[ブイィィーン! ブオオオォォ‥‥]



「‥行っちゃったね。」「そうですね。」

「結局、例の大技も放つ機会なかったね。」「あのときはあのときです。仕方ないでしょう。」

「それに、あんまりはしゃぎすぎると青い海の青い悪魔が‥」

「わーわー!! その話怖いからやめてーっ!」


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ED ♪たいせつなともだち


きみとはじめて であったときは あまえて なきむしだったぼく


まだひとりでは なにもできずに たよってばかりだった‥



でもきみといっしょに ぼうけんをして ぼくはきがついたんだ


ふたりだと こころが あたたかいと



きみといっしょなら いつもいっしょなら


すこしずつ つよくなって いけるきがしてるんだ


きみといっしょなら いつもいっしょなら ぼくは


もっとゆうきを もてる!

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♪さわがしい二匹

「おや、あの懐かしい姿は」

「お久しぶりなのだ! せんぱいがた!」

「よう!ひっさしぶりー。」

「こんちはー。」

「で? どうなんだい? 例のかばんさんからの依頼ってのは。」

「バッチリなのだ! どこにいるかは大体わかったのだ!」

「でも毎回あさってのほうに走っていっちゃうからさ~、奇跡みたいなものだよね~。」

「ま、まあ順調そうなら何よりなのです。」


「ふはは! 次はあっちなのだ! フェネックも来るのだ~!」

「はいよ~。」

「‥あっちは全く逆方向では。」

「まーまー、いいじゃないの。楽しそうなら、それでいいんだよ。」

「‥‥‥そういうものなのですか。」




第二話終了です。

じつは前後編に分けて後編はセルリアン戦にしようと思ったんですけど都合上、次回になりました。

セルリアン戦ないの寂しい、寂しくない?

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