第33話 PR19 二條いちみ
「そんなことができるの?」
二條いちみは、紫兎の考えを聞いて、問わずにはいられなかった。
「できます。というより、今のところこの方法しかないと思います…」
いちみも、ジッ…と考えてみた。
確かにその通りかもしれない。
でも…
…
紫兎が続ける。
「ただ…今はまだ序盤のポイントしか分かりません」
「それはどこなの?」
「明日の夕刻。ほぼ同時に3
「紫兎ちゃん、凄いです…」
デザートのアイスを頬張りながら瑠璃は目を見張った。
「どうして分かると?」と
「んーと、それが……自分でもよく分からないの。ただ、あの場所から戻ってきて、急にそんなイメージがどっと流れ込んできて…」
「ほんであの時、急に倒れちゃった、とか?」と、
「うん、そうみたい」
大量のデータが脳に一気に流れ込んできて、処理能力が追いつかずにリミッターが作動した。
つまり、ダウンしたコンピューターサーバーのようなもの。
二條いちみは、自身の御子時代に、それと似たような
そのスキルの場合、強制的に増幅させた視覚や聴覚の情報を相手側に押し付け、過負荷をかけて混乱させるというものだった。
それと同じで、予知イメージであれ、強制的な多量情報の流入が脳へかける負担は、相当なものになるはずだ。
「今は大丈夫なの?」
「はい。休んで起きたら、自分でそれを何となく調節することができるようになってたの……水道の蛇口?そんな感じで…」
……覚醒?
いいえ、紫兎ちゃんの場合、それは当てはまらない…
いちみは、この時点ですでに、紫兎が御子であると、確信めいたものを持っていた。
イレギュラーな御子。いえ、違う、特別な御子。
紫兎の危険感知能力は、特筆すべきものだと知っているのは、いちみだけじゃない。
つまり、この予知スキルは、紫兎が御子として元々備えていたそんな能力の次レベルへの解放。
…あるいは、進化…
「…紫兎ちゃん、それってどのぐらい先まで分かるの?」
「んーー…今はまだ何とも言えないです。ただ、その次のポイントもだんだんとイメージがハッキリとしてきてるのは分かります。その時刻も。
この感覚は、口で説明するのがとても難しいのですけど…ぼやけている映像の焦点がだんだん鮮明になっていく…そんな感じ…」
「わたしの結界解除スキルと似てますね。口で説明が困難なところとか」
と瑠璃が口を挟む。
「そう…似てるかも、ふふっ」
奈須ノ城瑠璃のアレは、見たものでなければ、分からない。
いちみは、考える。
……ゲートが開く場所が事前に特定できるのであれば…
「ねえ、紫兎ちゃん。例えば、その予知したゲートに飛び込んで、その鬼魔衆の溜り場に乗り込んで、まとめて浄化してしまう、っていうのは、どうなの?」
「それも考えました。けど、危険すぎます。潜ってみて分かったのですけど、あのゲートは存在自体が不安定過ぎます。いつ閉じるのか、まったく分かりませんし、分かった時には、時すでに遅し、です。
あっという間に閉じ込められて永遠に抜け出すことができなくなります」
そうそう、と相槌を打つ調査隊の御子たち。
「わたしも同じ意見です。あの時は、あそこに紫兎ちゃんがいてくれたから助かったのですけど、もし、いなかったらと思うと、ゾッとします」
瑠璃は、身震いする。
そうそう、と釣られて身震いする調査隊の御子たち。
「そうなのね…残念…」
「色々考えたのですけど、やっぱり、あずきちゃんが言うようにモグラ叩きをするしか方法がないと思うのです……でも、これなら迎え討てます」
「そうね…その通りだわ」
後手で守るより、先手を打てる御子は強い。
東京、仙台では後手に回るのを余儀なくされた、しかも守りながらの戦いは困難を極める。
が、富士川では、先手を打って待ち伏せることができた。
あのイメージだ。
ゲートを上がってくる鬼魔衆は、そこしか通ることができない。
いくら速くても新幹線の線路上を進むことしかできなかった、あの能面のように。
それに…
前もって出現地点と時刻が分かれば、住民の避難もできる。
これはかなりのアドバンテージだ。
いちみの頭の中で、どんどん作戦のイメージが膨らんでいく。
その範囲は日本全域……
そのための機動力として各都道府県配備のSMT914戦略ヘリがこちらにはある。
そうして次々と出現する巨大鬼魔衆を、待ち伏せた御子の
それで果たして勝ち目はあるのだろうか?
こちらは、たったの50。
魔力にも限りがある。
50の御子が必要なほどの危機なんて起こり得るのか、と
…しかし…これしかない…
その運命の鍵を握るのは、この特別な御子、引波紫兎の危険予知スキル。
いちみは、専用回線携帯を取り出し、司令本部の五郎につなぐ。
「司令、二條です。これからすぐに紫兎ちゃんと司令本部に戻ります。松本国務次官に各機関の代表との緊急招集を要請して下さい。……はい、そうです。
「いったい何事だ?」と返す司令長官に、いちみは、こう告げた。
「明日、この国が滅ぶかどうかの危機、と言えば、お分かりどすか?」
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