第25話 PR14-2
「デルタ!上昇して全景をとらえてくれ!」
五郎は、慌てて指示を送る。
「了解。じょ…上昇!」
二條いちみは、モニタースクリーンに灯る魔光を数えた。
……4つ…、一つ足りない…
「えっ?…あれ?…」
紫兎は、御子たちの顔を見渡す。
ほんとうに、一人足りない。
それが誰かは、すぐにわかる。
「
互いに顔を見合い、「あれっ?」と背後の闇を振り返り見る。
「もっと照らしてみて…」
皆で魔光の灯火の照度を上げてみた。
…が……いない…
「煉花ちゃーん!!」と呼んでみるが、その声は闇の壁に反響してぐるぐると回るだけだった。
まるでアルファ機が消えてしまった時のように。
……魔力が尽きて落ちた…?
いや、それは考えられへん。その前に何か兆候があるはずや……
鴨宮あずきが唖然としていると、
もしかしたら、岩盤に、気づかない隙間があったりするのかも知れない。
紫兎は、MCリングで煉花に話しかけてみるが応答がない。
あずきも、ダメや、と首を横に振る。
……そんなことっ……て……
ロストラインは、越えてないはずなのに…
「穢れ反応は?」
「ネガティヴ」
「デルタ、センサー類に異常は?」
「特にありません」
モニタースクリーンには、右端に魔光灯が二つ、岩盤に沿って別れて動く魔光灯が二つ。
!!
…なっ…!
それを目にした誰もが驚きで息を呑んだ。
…消えた…
今度は、岩盤沿いに動いていた魔光の灯が、二つとも消えてしまった。
あずきと紫兎もその瞬間を見ていた。
「おーい」と声を出しながら壁沿いを探していた
そして、その姿までも。
「…う……嘘やろ……」
あずきは、
殺気も邪気も、何も感じなかった。
紫兎は、リュックの横のライトを取り、二人が消えた辺りに向けてみるが、岩盤しか見えない。
「…ザッ…紫兎!…ザ……ザ…どうなってる!?」
通信ノイズと五郎の焦り声。
!!
…と…その時…
紫兎の背筋にゾクッ…としたものが走り抜けた。
……何かヤバイかも……ぇっ?……上…!?
直感に従って、真上に目を向けた。
“ソレ”を感知した紫兎の瞳が、
…見えない……けど…来る!!
ハッ…と息を呑み、紫兎は、大声で叫んだ。
「瑠璃ちゃん!…潜って!」
「な……なんや?」
何事か、とあずきは、背の紫兎に首を回す。
「あずきちゃんも早く!…“下に”、逃げて!」
「くっ!…」……下やて?
“上へ”の間違いでは、と思いながらも。
あずきは、紫兎を信じて、
「紫兎!どうした!?…何があった!?…おい!紫兎!…何か言ってくれ!」
ただならぬ事態に、五郎が取り乱すのも無理はない。
あっという間に、デルタ機のカメラ
今や司令室のメインスクリーンは、深い闇だけを映す。
特殊車両内で
わたしにも聞こえたわ、とランも頷く。
そこに、切羽詰まった五郎の声が飛び込んできた。
「デルタ!…頼む!御子を、紫兎を探してくれ!」
「了解。下降しま……」
デルタオペレーターが突然言葉を止めた。
……地震…?
特殊車両がガタガタと横揺れる。
……まさか…!?
楓子たちは、慌てて特殊車両からゲートに向かって飛び出して行く。
「司令!大変です!……ゲートが……穴が……」
司令室のサブモニタースクリーンに青葉山公園の異変が映る。
……なッ!……何だ…?
ゲート周囲で哨戒していた隊員たちは、地鳴りのような揺れを感じ、腰を落として自動小銃を構えた。
すると、ゲートを覆うように、ふわっと半透明の膜が張り出すのを見た。
最初は、穴から何か…“良くないモノ”…が飛び出して来るのかと思ったが、違った。
なんと、その膜が地面とみるみる同化していく。
……嘘…?…
その信じ難い光景を、上空から唖然と見下ろす楓子たち。
「そんなッ!!」
楓子が叫ぶ。
一刻も早く消えて欲しいと願っていた
…みんなが帰ってこれなくなる…
「…くっ…!…」
まだ間に合うかも…
中心に向かって同心円状に小さくなっていくゲート。そこに飛び込もうとする楓子とランを、両の手を大きく広げた
「行くな!」
「どうして?!」
「雪音!そこをどいて!」
そうしているうちに、
「ぁぁ…そんな…」
ショックで茫然とする
その横で、
土肌を
「わたしに任せて。
力尽くで塞がった穴を開けるつもりだ。
「待て!…落ち着いてくんろ。楓子」
「…雪音、そこをどいて。怪我するわよ」
楓子は、目を据え。
上段に振り上げた
「手伝うわ、楓子……雪音、そこ邪魔よ」
羽幌ランも雪音を睨み据えて、大鎌の
ゲートの異常事態に駆け付けた特0隊員たちは、上空で対峙する御子たちを見上げて、息を呑んだ。
いったい何事か、と。
「ランも落ち着け!」
「よく落ち着いていられるわね、雪音」
「そうよ、おかしいのは、雪音のほう!」
「わたすだって!心配だべ!!」
雪音は、悲痛な叫びを上げた。
いつも冷静沈着な雪音が取り乱すのを見て、楓子とランは
「…雪音……」
「わたすだって、今すぐにでも追いかけたいに決まっとる。だども、紫兎ちゃんと約束した!」
「…約束?」
「んだ。もし何かあっても、他の
「それは…」
…雪音の言う通りだ、わたしたちには護るべき地がある…
でも…と、楓子は思う。
「もし、わたしの身に何かあったとしても、きっと代わりの御子が覚醒する。でも、紫兎ちゃんは…紫兎ちゃんには、代わりがいないのよ!」
「代わりがいないのは、楓子も同じだべ!!」
「………………」
一喝する雪音の迫力に、楓子もランも押し黙る。
雪音は、静かに言葉をつなぐ。
「…もちろんランも…他の
「…でも……」
「
雪音は、唐突に。
「忘れるわけない!」
「もう二度と、
その瞳から大粒の涙が、ボロボロとこぼれ出した。
「雪音…」
それは、二人が初めて見る雪音の涙だった。
「…うん、そうだね……ごめん、雪音…」
「分かったわ、もう分かったから、雪音…泣くのはズルい…」
「…ぅ…ぅ…だども…」
「でも…聞こえたわよね。紫兎ちゃんの声が…」
ランは、二人を見やる。
あずきと紫兎が消える直前だった。
MCリングを通じて、紫兎の言葉が、楓子たちに届いていた。
ーー大丈夫、必ず戻るからーー
そう。確かに、紫兎はそう言い残した。
あれは、決して絶望を感じたような声ではなかった。
そのMCリングが、なぜか今は、調査隊の誰ともつながらない。
雪音は、涙目を振袖の裾で拭いながら。
「今は……信じるしか、ないべ…」
「そうね、無事に帰ってくるのを信じるしかないわね…」
「ううう…でも、雪音、お願い。この
ブーン…と唸り鳴る
上段に構えた両の腕をプルプルと震わせながら、楓子は懇願する。
「それは、わたしも同じよ」
居合に構えていたランの
「そういうことなら構わないべ。もちろん、わたすも手伝うべ」
雪音は、下から野次馬のように見上げている隊員たちに声をかける。
「おーい。そこは危ないから離れてくんろ!!」
その意図を察した隊員たちは、血相を変え、その場から急いで離脱する。
「退避!…総員この場から退避だ!…急げ!」
塞がってしまったゲートを見て、特0司令室は、騒然としていた。
「…嘘やろ……穴が…」いちみが愕然とする。
「なぜだ?…どうして?…くっ、そぉ!」
五郎は、コンソールに拳を叩きつける。
「…デルタ機からの信号…オールロスト…」
そう力なく、オペレーターは告げる。
「通信は!?」
「反応ありません。位置情報も消えたままです」
「くっ、そ!…すぐに掘り返せ!!ありったけの爆薬を使ってでも構わん!」
五郎が吠える。
「待って下さい!…御子が…楓子ちゃんたちが…」
二條いちみは、モニタースクリーンに浮く御子たちに気づく。
「はああぁぁぁぁーーー」
消えたゲートの直上から、渾身のフルパワーで
ランの
楓子の
そして、空高く昇った雪音は、そのまま垂直に急降下し、その推力ごと
ドンッ!…ドンッ!…ドンッ!…と立て続けに地揺れが起こる。
青葉山に同情したくなるほどに、土砂が豪快に吹き飛んだ。
モウモウと舞い上がる土煙りは、キノコ雲状に立ち昇り。まるで青葉山が噴火でもしたかと思えるほど。
そのあまりの衝撃波に、その場から離脱した隊員たちは、足をすくわれたようにごろごろと地に転がっていた。
「…どうなった…?」
…が、しかし…
視界が晴れてスクリーンに映ったのは、クレーターのように深々と
「くっ…ダメか……」
…まだだ、まだ諦めるな…
「大至急、重機を集めてくれ!…掘るぞ…」
「了解」
クレーターの底で土埃にまみれていた雪音は、
「もうここには、穴がなさそうだべ…」
「…どういうこと?」
「…分からんべ…もう、紫兎ちゃんたちを信じて待つしかないべ…」
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