第5話「僕達の朝と幼女のなんでも」
「パパ!おきてー!あさだよー!」
「う、うーん…」
体が揺すられている感覚がまどろみの中から感じられ、僕はうっすらと正体を突き止めるかのように目を開けると、そこには満面の笑みを浮かべた、幼さが残った丸い顔と大粒の青色の瞳、そして青藍色のアホ毛の生えたフワつやの髪の毛を携えた天使のように可憐な幼女が、僕の顔を覗き込んでいた。
外はまだ薄暗いが、確かにそれが朝方であると分かるくらいには明るくなっていた。
僕は素直に目を擦りながらもゆっくりと体を起こして、そして緩んだ体に渇を入れるかのように大きく伸びをした。かもめは両手を挙げて伸びをして無防備になった横腹に体当たりするように抱きついてきて『キャッキャッ』と楽しそうにすりすりと頬をこすりつけてきており、僕は自然と頬が緩んでいくのを感じた。
そう、いつも朝は何故か僕よりもかもめの方が先に起きてきて、いつも僕を起こしてくれる。いつも寝る時は僕とかもめ、そしてまりんの3人で畳の敷かれた家具の少ない大きな部屋で布団を並べるようにして寝ている。僕自身早起きして弁当の準備などをする必要があるため、僕としては非常に助かっている。かもめは寝起きにも関わらず元気いっぱいで、流石はまりんの娘だなと常々思わされる。しかもこんな可憐な愛娘の姿を朝一で見ることができるなんて僕はなんて幸せなのだろうか!
さて、まりんは起きているだろうかと3つ並んだ布団の右端を覗き見ると、いつの間にか布団を蹴飛ばして「ムニャムニャ」と気持ちよさげによだれを垂らしながら大の字で寝ているまりんの姿を確認することができた。着ているピンク色のパジャマは酷く乱れており、可愛らしいお腹や純白色の小ぶりな肩が露出して、とても直視できるような状態ではなかった。元気っ子全開であるまりんは元気が有り余っているのかひどく寝相が悪いのだ。しかも、彼女は少々強引に起こさないと起きないくらいには寝つきがよく、まりんの体当たりぐらいではビクともしない。こういう場合は僕の出番だ。多少というか、めちゃくちゃに目の毒ではあるが致し方ない。
僕は布団から這い上がってのそのそとまりんの元まで歩いていった。頬を緩めて非常に幸せそうな顔をしている中起こすのは心苦しいが、どうか許してくれ。そう思いながら僕は、そっと大の字でがら空きになっている脇に手を入れて僕はそのまま指をクネクネと動かしてもしゃもしゃ脇を刺激してやると『はうっ!?』と大きな声を出しながら突然の刺激にビクリと全身がはねた。僕がわき目も振らずにそのまま指を動かし続けてやると、「ふゆ!むぁ!やあぁぁん!」と非常に艶かしい声を出しながらビクンビクンと仰け反りまわりながらゴロゴロと転がるまりん。正直非常に教育に悪い光景なのだが、ここまでしないとまりんは起きることが無い。しばらくそのまま格闘していると、まりんの方から「にゃはははは!起きた!起きたからぁ!」
と悲鳴にも近い声が発せられたため、僕はいつの間にか馬乗りになっていた自身の体をどかしてやると、まりんは全身汗だくで、『はぁ、はぁ』と息を切らしながら頬を赤らめて蕩けた目をこちらに向けていた。汗で湿った横髪のうちの一本がいつの間にか口にくわえられており、先程まで乱れていた服はより一層はだけてしまい、谷間をのぞかせる大きな胸元や引き締まった腰元から水色の下着が顔を覗かせていた。ふわふわの青藍色の髪の毛も乱れ、頬を赤く染めながら熱を帯びた吐息を出しているこの光景はそう.....
...うん、非常に目の毒だ。
「ほ、ほら!もう朝だから起きて!僕は先に下でお弁当の準備してるから!着替えたら降りてきてね!」
そういって僕はその場から逃げ出すように赤くなってしまった頬を隠しながらそそくさと部屋を出て階段を降りていった。
背後では『ママ!おはよー!』『あはは!か、かもめ許してぇー!!』と美少女と美幼女が戯れ合うような賑やかな声が聞こえてきて、今日も騒がしい一日が始まるなぁと僕は感慨にふけっていた。
『__市の栄文小学校の通学路である市街地周辺で帰宅途中であったと見られる桃野彩香ちゃん(8才)が何者かに誘拐されるという事件が起きました。現在同じような犯行が近辺で3件ほど確認されており、警察はこれらの事件との関連性を__』
「あら、栄文小学校ってすぐそこねぇ。この前も栄文小学校の児童が誘拐されていたものねぇ。最近この辺りも物騒だし、貴方たちも帰る時は気をつけなさい。」
「大丈夫だよ!何かあったとしてもゆうちゃんが助けてくれるから!」
「え?」
「は?」
「い、いや!単純に聴き取れなかっただけだから!別にそんな、絡んできた不良4人を1人でぶちのめしたり、小学時代に空手で全国に出たりするような人が人の助けなんているはずないなんて、そんなことを思ったりなんかしてないから!」
「そっかー!だよねだよね!あーもうびっくりしたー!
…あとで覚えておいてね?」
「ヒィッ!?」
あの後僕は下に降りて今日学校に持っていく用のお弁当を作り始め、しばらくするとかもめを引き連れた寝ぐせのついたまりんがおりてきて、朝食が出来上がるころにはなぎささんもこちらにやって来て、現在はみんなで食卓に着いて朝食をとっていた。ちなみに今日の弁当担当は僕で朝ご飯担当がまりんだった。食卓にはごはん、白味噌で作ったあさりの味噌汁、鮭の切り身の焼き魚にひじきの煮物と、後は大根おろしの乗った卵焼きが並んでいた。朝はかもめが早い時間に起こしてくれるため、朝食はそこそこ品数の多い物が用意されることが多い。
まりんも最近ようやく料理の腕が上達してきたからなぁ。最初の頃は…いや、これはまりんの名誉のために伏せておこう。
「パパ!私のことも守ってね!」
「おう!かもめのことは死ぬ気で守ってやるから安心してくれよ~!」
「…ゆうちゃん、私はぁ?」
「マモリマス」
「ふふ、よろしい。」
「うふふ、いざとなったら優太郎くんがいるんだし安心ね。」
こうして食卓からはいつも賑やかな声が響いてくる。窓からは朝の暖かく心地よさげな光が差し込んできて、今日も心地の良い朝を迎えることが出来た。小鳥の囀る鳴き声、青い空、カーテンをそっと靡かせる暖かな風。まだまだ春の気候が残る暖かい季節で、非常にほのぼのとした朝であった。
本当はまりんのお父さんも朝の食卓に加わるのだが昨日は夜になっても結局帰ってこず、会社の方で泊まることになったらしく今日は父親の姿は見られなかった。ちなみにどうなることかと思ったまりんの父親との関係はいたって良好だ。これについては本当に安心している。
ふむ、しかし事件かぁ…。
物騒といえば、確か前ここらへんでなんかすごくむごい事件があったような。内容はなんだっただろうか…思い出せないな。まぁ流石に犯人ももうどっか行ってるだろうし僕たちには関係のないことか。でもこの辺で誘拐が多発しているのは気をつけた方が良さそうだ。もしかもめと出かけることがあるなら常に目を光らせておく必要があるな。
『人間の三大欲求は食欲・性欲・睡眠欲。その中でも、食欲は人によって生命維持の為に必要な行動であり__』
いつの間にかテレビは料理番組に変わっていた。僕たちは朝食を終えると各々身支度を整えたり、皿の洗い物をしたり、残った課題を片付けたりと自由に過ごし、次第に登校時間が近づいていった。
「それじゃあ、いってきまーす!」
「なぎささん、いってきます。」
「はーい。二人とも気をつけていってらっしゃい。」
「パパ!ママ!いってらっしゃい!」
こうして僕たちは朝の準備を終えて、登校する時間となった。
玄関口では、なぎささんとかもめがお見送りしていた。もちろんなぎささんとかもめはお留守番である。明日は土曜日だし、久しぶりに僕の家にかもめを招いても良いかもしれない。きっと僕の両親も喜ぶことだろう。
「あ、パパ!パパ!」
「なんだい、かもめ?」
「あのねあのね、しゃがんで!」
「うん?こうかな?」
なぜかかもめにしゃがむように要求されて、僕は言われるがままにかもめの目線にまでひざを曲げた。そしてかもめは繋いでいたなぎささんの手を離して、僕の方にとてとてと近づいてきた。
ちゅっ。
「えへへ。パパ、がんばってね!かえってきたら、わたしがなんでもしてあげるよ!」
おっと、娘からほっぺにちゅーされた挙句、なんでも…してもらえるだと!?え、なんでも!?なんでもいいの!?これは帰ってからの期待が高まりますなぁ…ぐへへ。
などと帰宅後のことに思いを馳せていると、隣からは刺さるような鋭い視線が向けられた。
「へえー、パパはかもめになんでもしてもらえるんだー。いいなー。じゃあ私も帰ってきたらパパになんでもしてもらおっかなー。」
「まってまって、その理論はおかしくないかな?」
「…なんか言ったかな?ニッコリ」
「イエナニモイッテナイデス」
「ふふふ。」
こうして朝もいつもどおりに僕は娘に甘やかされて、まりんには何故か殺気を向けられてしまう。そんなドタバタした朝を迎えつつも僕達は、玄関を出て庭にまたがる小道を歩き、鉄格子の門をくぐると学校に向かうために僕達はそのまま通学路を歩んでいった。
空は青く澄んでおり、暖かな風がまりんの青藍色のふわふわしたやわらかな髪の毛を靡かせていた。暖かな日差しが地面を照りつけ、僕達の影がコンクリートの地面に人型の絵を描いていた。そろそろ衣替えの季節だろうか。半袖でも快適に過ごせそうなくらいには程よい温度が僕らの身を包んでいた。
「今日も学校楽しみだね!今日も体育あるから嬉しい!」
「そうだね。僕は美術の授業が楽しみだなぁ。」
こうして僕達は互いに肩を並べながら学校に行くまでの道のりをどうでも良い会話に花を咲かせながら進んでいた。
やはり僕は、こんな日々を今後も過ごして行けたらなぁとぼんやりと思っている。
僕と学園のアイドルの間には子供がいる @karusium
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