第82話:健太がさらに言う。女子の総選挙の行方は?

「女子の委員長選挙の結果は……」


 健太がアゴに手を当てて、宙を向いて思い出そうとしてる。


八坂やさか 見音みおん6票、伊田いだ 天美あまみ6票、そして涼海すずみ りん7票。間違いないよな」


 健太がその三人の顔を順番に見ると、三人ともが頷いた。


「真田の伊田さん票が誰に行くかはわからないけど……この女子の票も、井上と松田の票の分が消えるわけだ」

「そうね」


 見音が冷静に相槌を打つ。


「そうすると、だ! もしもあいつら二人が

元々凜ちゃんに投票してたなら……なんと凜ちゃんが、トップの座から滑り落ちる可能性もあるってことだ! さあ、どうする、凜ちゃん!?」


 健太が講談師みたいな大げさな口調で凜を見た。

 凜はきょとんとしてる。


「どうするって……どうもしないけど?」


 凜は、健太が何を言いたいのか、全然わからない様子で戸惑ってる。


「あはは、そうだな。俺が間違ってた。凜ちゃんは広志ひと筋だから、人気総選挙なんて、どうでもよかったんだった」

「あはは……そうだね」


 凜が苦笑い。

 さすがに凜も、みんなの前で『広志ひと筋』なんて言われるのは、照れ臭いようだ。


「じゃあ質問する相手を変えよう。凜ちゃんがトップから滑り落ちる可能性があるってことは、逆に言うと……伊田さんか八坂さんが、トップに躍り出る可能性があるってことだ! さあ、どうする伊田さん!? そして八坂さん!?」

「私も凜ちゃんとおんなじで、人気総選挙の結果なんて、もうどうでもいいぞー!」

「へっ!? そうなの?」


 健太が気の抜けた声を出した。

 伊田さんがとっくに人気総選挙の結果を気にしなくなってることを、健太は知らないのだから無理もない。


「私も、もうどうでもいいかな」

「や……八坂さんまでー!?」


 あのプライドが高くて、他人に負けるなんてとんでもないってキャラの八坂さんがそう言った。


 健太には信じられないセリフだったようだ。


「ま……マジで言ってんの、八坂さん?」

「うん。真剣に言ってる」

「なんで?」

「なんでって……自分の表面だけを見て人気があるなんて、あんまり意味がないって気づいたから。それよりも本当に自分をわかってくれて、自分を好きだって言ってくれる人の存在が大事……かな」


 見音がそんなことを言うなんて──

 健太はめちゃくちゃ驚いた顔をしてる。


「見音。おまえ、よかことば、言うよな」


 天河は、笑顔でうんうんと頷いてる。

 それを見て、見音は照れたような、だけど嬉しそうにはにかんだ表情を浮かべた。


「まあ、空野君と天河君に、色々と教えてもらったからね……二人には特に感謝してる」


 見音の言葉を聞いて、伊田さんが突然、なんだか凄く恐ろしいセリフを吐いた。


「じゃあさぁー いっそこの三人とも、予備選挙を棄権しよっかー?」

「そうだね、天美ちゃん。そうする?」

「私もそれでいいわ。そうしましょう」


 なんと、他の二人もにこにこ笑いながら賛同してる。

 これには健太が慌てた。


「ちょっ、ちょっと待ってよ三人とも! そんなことしたら、大変なことだ。我が学年の三大美女が、全員人気総選挙を棄権するだなんて!」

「えっ? なにが大変なの? 別にいいんじゃない?」


 凜があっけらかんと、健太に問いかけた。

 凜にとっては、やっぱり人気総選挙とか、世界三大美女とか、どうでもいいに違いない。


「だってそんなことになったら、ウチのクラスで何が起こってるのか、みんなが疑うよ。何か悪いことが起こってるんじゃないかって……」

「た、田中君。も、もしもそうなったら、ちゃんと説明すればいいんじゃないですか?」


 今まで黙ってた弥生ちゃんが口を開いた。


「ちゃんとって……なんて説明するんだ?」

「さ、三大美女が、全員空野君のことを好きになっちゃいました。だから他の男子からの人気投票なんて要りません……ってのはどうですか?」

「はぁっ!? そんなのは事実じゃないし! なあ八坂さん」

「まあ別に、私はそれでもいいわよ。私も空野君を好きになったのは嘘じゃないし……ただし、『人として』だけど」


 この弥生ちゃんの提案には、健太もあんぐりと開けた口が塞がらなくなってしまった。


 ──こんな話はさすがにマズい。

 そう思った広志が、苦笑いしながら横から口を挟む。


「まあまあ、みんな。それはさすがに僕が困るよ。三大美女が全員、僕を好きだなんて……学校中から攻撃を受けて、僕は死んでしまう」

「あっ、そっか……」


 弥生ちゃんが、残念そうにつぶやいた。


「ま、まあみんな。俺も前から広志は魅力的だって、本人にも何度も言ってるけど……さすがに広志のせいで三大美女が全員人気総選挙を棄権っていうのは、俺もマズいと思う。まだ予備選挙まで3ヶ月あるんだし、今そんなことを決めなくてもいいんじゃないかなぁ」


 健太がそう言ってくれたおかげで、とりあえず美女三人は、予備選挙の棄権は一旦は取り下げてくれた。


 広志はホッとする。


 だって三大美女の一人と一緒にいるだけで、ひそひそと噂話をされたり、嫉妬に満ちた視線が突き刺さるのである。

 三人が三人とも広志を好きだなんて噂が広まったら、ホントに誰かに殺されかねないと、広志は思う。



「この話題は終わりにして、そろそろ行かない? 管理事務所に行ったら、もしかしたら伊田さんの水着が落し物で届いてるかもしれないし……」

「あっ、そうだねー」


 広志の提案に、伊田さんが頷いた。

 すると天河が言った。


「もしも届いとらんかったら、伊田さんが泳げんけん、もう帰ろうや」

「いや、それはみんなに悪いから……みんなで泳いでくれたらいいぞー」

「悪くないって、天美ちゃん。天美ちゃんが泳げないのに、ずっとプールに居ることの方が、気になってしまうからさ。帰りにみんなで、パフェでも食べに行こうよ」

「凜ちゃん……凜ちゃんって、やっぱり優しいなぁ……ありがとー」


 伊田さんが、泣きそうな顔をして、ガバっと凜に抱きついた。

 凜は照れて笑ってる。


 みんながお互いを想い合う仲間っていいなぁ。

 広志はしみじみとそう思った。





 管理事務所に行ってはみたが──


 結局、伊田さんの水着は見つからずじまいだった。


 凜の提案どおり、みんなで帰りにカフェに寄って、パフェを食べて、広志たちの『プールの日』は幕を閉じた。


==============================

プール編は次話で終わりです。


※新作掲載始めました

正統派、ツンデレラブコメです。

こちらもヨロシク!!

『真逆の美少女姉妹~なぜか妹の方が僕に冷たく当たるんだけど、もちろん僕も負けずにやり返す!』

https://kakuyomu.jp/works/1177354054891886313

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る