第77話:みんなでプール

 その日は朝から快晴だった。ぎらぎらと太陽が照りつけ、まさにプール日和。広志たち七人は、予定通り県営プールに来ていた。


 広志が小さな頃は古い施設の印象だったけど、久しぶりに来てみると、最近改修したのか小綺麗な感じ。


 男子三人が先にプールサイドに着いて、女子四人の到着を待つ。健太はそわそわして、地面に敷いたシートに座ったと思ったら、また立ち上がったりを繰り返してる。


 広志も待ち遠しい気持ちはあるけど、冷静を装って天河と雑談を交わす。天河はいたって冷静な素振りだ。


「お待たせーっ!」


 伊田さんの明るい声が聞こえて、男子三人は同時に声がする方を振り返った。


「うぉっ!」


 健太が、呻き声ともため息とも取れるような声を出して固まった。


 ぎらぎらと眩しい日差しの中、目を細めて見てみると、まるで天使が集団で光臨したような光景。日差し以上に彼女たちの姿がきらきらと輝いて見える。


 一番前に立ってる伊田さんの姿が、まず最初に広志の目に飛び込んだ。

 

 えんじ色のビキニで、陸上で鍛えた筋肉質の手足がカッコいい。


 筋肉質と言ってもそこは女の子。ゴツゴツした感じじゃなくて、引き締まった感じ。そして日焼けした肌が眩しい。


 胸も大き過ぎず小さ過ぎず、形の良いお椀型。


 ──ってついつい胸に目が行ってるのを自覚した広志は、いかんいかんと目をそらして伊田さんの顔を見た。


 普段部活で、一種の水着みたいなユニフォームを着てるからだろうか。伊田さんはあっけらかんと笑ってる。


「さ、さすが伊田さん。カッコいいね」

「あ、ありがとー」


 広志の言葉に、さすがに伊田さんもちょっと恥ずかしそうな顔になった。


 その後ろには、ピンクのビキニの凜。こちらは可愛いデザインで、腰の所が紐のタイプ。


 腰もきゅっとくびれてスタイル抜群の凜に、とてもよく似合って可愛い。


 凜は割と胸が豊かなので、広志の目は自然とそこに釘付けになる。そして言葉が出ない。


「ヒロ君……」

「は、はいっ!」


 照れた表情を浮かべた凜の言葉に、思わず広志は、叱られた子供みたいに直立不動になる。


 凜は両腕で胸の所を隠しながら、いたずらっ子に諭すみたいな言い方をした。


「ちょっと見過ぎ。いやらしい目つきになってるよ」

「あ、ごめん」


 広志は目をそらしながら、でも、しかし……好きな人の水着姿なんだから、しかもこんなにスタイルがいいんだから、そりゃあ見ちゃうよなぁって思う。


「さあみんな集まったばってん、プールに入ろうか」


 至って冷静な天河の声が聞こえた。このシチュエーションで冷静に居られる天河って凄い。


 そう思って彼を見ると、天河はちょっと顔を赤らめて、見音と弥生ちゃんの方をチラチラと見てる。


(やっぱりヒカルも男だ)


 広志は心の中でニヤニヤしながら、でも素知らぬ表情をして天河の横顔を眺めた。


 見音はスリムなモデル体型で、真っ白なビキニ。肌も白くて綺麗。だけど恥ずかしいのか、残念ながら腰には複雑な柄が入ったパレオを巻いてる。


 ちなみに見音の胸は……やっぱりあんまり大きくない。



 弥生ちゃんは花柄のワンピースだ。小柄な上にちょっと幼児体型だけど、それも可愛らしくていい。


 この四人。世の男性達のあらゆるニーズを網羅してると言っても過言じゃないくらい、それぞれ個性がある。そしてそれぞれが魅力的だ。


 広志がそう思ってポーッとしてたら、横から健太がボソボソと呟く声が耳に入った。


「今日という良き日に乾杯」


(うん、確かに……)


 別に実際に乾杯するワケじゃないから、気分だけのことだけど、広志も心の中で激しく同意して、みんなと一緒にプールの中へと入って行った。





 しばらくみんなで普通のプールで泳いだり、ビーチボールで遊んだりしてたけど、伊田さんが急に思い出したように言った。


「ここって、おっきな波のプールがあるよねー」

「ああ、あるよ」

「行きたーい!」

「あ、私も!」


 伊田さんの提案に、みんなが口々に賛成して、全員で波のプールに移動した。




 ザブーン、ザブーンと音が響いてる。


 波打ち際はほんの小さな波だけど、波の発生装置の近くでは、結構大きな波ができてる。


 その辺りで浮かんでる人たちの中には、波が来る度にひっくり返って、水中に潜ってる人もいる。


「面白そう〜!」


 伊田さんが目を爛々と輝かせて、大きな波の辺りを眺めてる。


 広志は運動が苦手だし、泳げるには泳げるけど、決して得意な方じゃない。ちょっと嫌な予感がする。


「空野くん、行こー!!」

「あっ、ちょっと待って!」


 伊田さんに二の腕をがっしと掴まれて、ズルズルと引っ張られる。


「あれ? 他のみんなは?」

「知らなーい。早く行くぞー」


 みんなを見たら、笑顔で、まるでお見送りのように手を振ってる。凜に助けを求める視線を向けても、凜でさえも笑顔で「行ってらっしゃーい」って手を振ってる。


(どゆことー!?)


 広志が足を踏ん張って、なかなか動こうとしないもんだから、伊田さんは両腕で広志の二の腕を抱えるようにして、引っ張り始めた。


(あ、当たってる……)


 二の腕に、柔らかなモノが当たってる。ふと目をやると、伊田さんの胸が、広志の二の腕に潰されたような形になってる。


(もう、あかーん)


 広志は頭が真っ白になって、ぽわんぽわんする。なんだかとっても幸せな気分。




 ──気がついたら、波のプールの一番奥まで来てた。

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