第61話:何かに抵抗する見音?
自分にとって見た目が可愛いというのは、見音が言うような『美しさ』ではなくて、自分が可愛いと思えるかどうかだと広志は言った。
「それに、見た目なんて、ホントにその人の魅力の一部分だってことは断言できる。それは間違いない!」
「ふーん。じゃあ……例えば
そう訊かれて広志が凜の方をチラッと見ると、凜は「あはは」と苦笑いを浮かべてた。
「うん! 僕はそれでも凜が好きだな。まあ凜の健康が心配だから、痩せた方がいいよって言うと思うけど」
見音は悔しげにクッと喉を鳴らした。そしてなおも広志に言い返してくる。やはり何かに抵抗するように、なかなか広志の意見を受け入れようとしない。
「そ、そんなの有り得ないわ! 空野君ってカッコをつけてるだけよ! そんなの私は信じられ……」
「まあまあ、お嬢様! 空野様は若いのに、なかなか素晴らしい考えをお持ちじゃないですか」
突然セバスチャン……いや黒田さんが優しい笑顔で見音の言葉を遮った。いつの間に戻ってきていたのか、フルーツを盛った大皿を両手にしてる。
「わたくしも人生経験が長いからこそ分かりますが、彼の言うことは信用できますよ」
「なんでセバスチャンはそう思うの?」
「彼の真剣な眼差しと言葉に、嘘はないと思うからです。それにわたくし自身も彼と同じ意見だからです。そして何より彼は、周りの女の子達に好かれるに足りうる、素晴らしい人物だと思います」
「そ、そうかしら?」
「そうですとも。それに
人生経験が豊富な大人の黒田さんに言われて、さすがの見音もグッと言葉に詰まった。
「そ、それは……そ、そうだけど……」
ついに見音が広志たちを認めるようなセリフを吐いた。そんな見音を見て、黒田さんはにこやかに見音に話しかける。
「まぁまぁ、お嬢様。好みは人それぞれ。空野君の好み、お嬢様の好み、そして皆さまそれぞれの好み。押し付ける必要はございません」
見音はなおも何かに抵抗するように、黙ったままで黒田さんの言葉に同意をしようとはしない。だけども何かを深く考えようとしてるようにも見える。
「それはそうと、お嬢様」
「なっ、何?」
「空野様へのあまりの非礼は、お詫び申し上げた方がよろしいかと思いますが」
見音は「うっ」と声を出して黙り込んだ。まだ何かに抵抗してはいるけれども、黒田さんに言われたことを反芻して、葛藤してるようにも見える。
「わ、わかった。空野君。それに
見音は固い表情のまま、頭を下げた。そんな見音の姿を、鈴木と佐藤は目を丸くして眺めてる。
「さあお嬢様。今日はせっかくのバーベキューパーティーでございます。楽しみましょう」
「そ、そうね……」
苦笑いを浮かべる見音を優しい眼差しで見つめていた黒田さんが、みんなの方を向いて笑いかけた。
「では皆さま、美味しいフルーツをお召し上がりください!」
大きなお皿に盛られたたくさんのフルーツ。マンゴーや大粒のサクランボ、苺やパイナップルなどなど。
「特にこのマンゴーは国産品で、とっても甘くておススメですよ」
国産品のマンゴーなんて、超高級品だって聞いたことがある。他のもきっと高級なものばかりなんだろう。
「うっわーすごーい! 美味しそう〜! いっただきまーす!!」
伊田さんがまたいの一番に手を伸ばした。フォークでマンゴーを刺して頬張ると、顔をくしゃくしゃにして、「ほひひーひ!」と笑う。
きっと「おいしーい」って言ってるんだ。そんな伊田さんの肩を、広志はぽんぽんと叩いた。
「伊田さん、落ち着きなよ。フルーツは逃げないし」
「あははー! だってホントに美味しすぎるんだもーん」
にっこにこして嬉しそうな伊田さん。そうそう、こういうのをホントに可愛いって言うんだよなぁと広志はしみじみ感じる。
「おお、美味そうだな! 俺たちも食べようぜ!」
「そうだな鈴木! 俺はこっちのパインから食うよ!」
「じゃあ俺はサクランボだ!」
「なんだよ鈴木。地味なチョイスだな」
「いいんだよ。俺はサクランボが大好きなんだ!」
鈴木と佐藤も伊田さんの楽しそうな姿につられたのか、楽しそうにフルーツをつつきだした。そんな二人をにこやかに眺めながら、黒田さんは満足そうに微笑んだ。
黒田さんと伊田さんのおかげで雰囲気が一気に
みんながお腹一杯になった後もしばらく雑談があって、その後八坂家でのバーベキューパーティーは無事に終幕を迎えた。鈴木と佐藤はもう少ししてから帰るというので、広志たち三人は先に帰ることにした。
「じゃあ帰るよ。ありがとう八坂さん」
「ええ。今日は来てくれてありがとう。これで保健室の借りは返したわ」
「あ、そうだね。あはは」
やっぱり保健室のことを、見音はしっかりと覚えてた。
今日のバーベキューに呼ばれたのはそれが理由だったけど、きっとそれは口実で、広志のことを色々と探りたかったのが一番の目的だったんだろうなと広志は推察する。
「ありがとう、八坂さん。ご馳走様でした」
「ありがとー八坂さん! めっちゃくちゃ美味しかったよっ!!」
「ではお嬢様。わたくしが、空野様たちを門までお送りして参ります」
「そうね。よろしく」
八坂邸の庭の石畳を歩いて門に向かう途中で、黒田さんがみんなに話しかけた。
「皆様、本日はお越しくださいまして、本当にありがとうございました」
広志たちは口々に「いえいえこちらこそ、ご馳走様でした」とお礼を返す。
「それと……お嬢様が皆さまに大変失礼をいたしまして、申し訳ございませんでした!」
黒田さんは深々と頭を下げた。そして頭を下げたまま上げようとしない。広志は慌てて黒田さんの肩に手を当てた。
「いや、黒田さん、やめてください。頭を上げてください」
「そうですよ。黒田さんが悪いわけじゃないし」
凛も横から、黒田さんに声をかける。黒田さんが頭を上げると、苦痛に歪めた申し訳なさそうな顔をしていた。
「いえ。いくらなんでも、あんな酷いことをお嬢様が申し上げて、皆さまもさぞかしお気を悪くされたと思います」
「いやいや、大丈夫です。黒田さんがフォローしてくれたし、何となくだけど、八坂さんも少しはわかってくれたみたいだから……僕は気にしてません」
「空野様……ありがとうございます」
黒田さんは目にうっすらと涙を浮かべてる。
「空野様は、やっぱり凄くお優しい」
「いえいえ、そうでもないですよ。あはは」
黒田さんはホッとした様子を見せた後、再びたいそう申し訳なさそうな表情に戻った。
「空野様。あんなに失礼なことをしてしまいましたのに、こんなことを言うのも大変恐縮なのですが……空野様を見込んでお願いがございます」
「お願い? 何ですか?」
「お嬢様の力になっていただけませんでしょうか?」
「えっ? 八坂さんの力になる?」
いったい何のことだろう? 広志は横を並んで歩く黒田さんの顔を見つめた。
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