第53話:凜と伊田さんはバーベキューに行くの?
ようやく次の休み時間になって、広志は凜に小声で話しかけた。
「八坂さんにバーベキューに誘われた?」
「うん。伊田さんも一緒にね」
「で、凜はなんて答えたの?」
「喜んで行かせてもらうよって」
「え?」
笑顔で答える凜の予想外の言葉に、広志は固まってしまう。
「八坂さんの取り巻きの鈴木と佐藤も来るって聞いた?」
「うん、聞いたよ」
「そこに僕たちが行ったら、トラブルの予感がしない?」
「大丈夫でしょ!」
なぜ大丈夫なのかはよくわからないけど、凜はあまりにもあっけらかんと答えた。ホントに何も心配なんかしていない様子だ。
「伊田さんは?」
「ああ、彼女も『はい、喜んでっ!』って元気に答えてた」
(うーん、いかにも伊田さんらしい答えだ)
「ホントに大丈夫かな?」
「あれ? ヒロ君にしては珍しいね。いつも何でもポジティブに考えるのに、何をそんなに心配してるの?」
凜が不思議そうに訊いてきた。さすが凜だ。あれだけ変わり者で攻撃的な鈴木と佐藤を、何とも思ってないみたい。普通の人なら心配するのが当たり前だと思うけど、逆に広志は自分が過度な心配性みたいに思えてきた。
「いや、大丈夫だな、きっと。あはは」
「うん、大丈夫だよ。八坂さんと交流できて仲良くなれるのも楽しみだし、八坂さんのおウチって豪邸らしいから、それを見るのも楽しみだし、美味しいバーベキューを食べられるのも楽しみだし……ん~、もう楽しみだらけっ!」
凜は目をぎゅっと
「伊田さんも大丈夫かな?」
「うん。彼女も私とおんなじように、凄く楽しみにしてたよ!」
「そっか。それならいいや。あぁ、僕も楽しみだなぁ! あはは」
──スーパーポジティブ・アンド・スーパー美少女二人組だな。まあ何とかなるか。
広志は苦笑いしながら、そう呟いた。
◆◇◆
それから二日が経って、バーベキューの日がやってきた。普段の日曜日は自分だけで出かけることが少ないから、妹の茜には「広志君だけ美味しいものを食べてずるーい!」と散々
凜とは自宅の最寄り駅で待ち合わせをして、見音の家の近くの駅で伊田さんと待ち合わせをすることになってる。
女の子と出かけたりしたら茜が凄く心配するから、幼馴染とは言え、凛とは普段一緒に出かけることはほとんどない。だから久しぶりに見る凛の私服姿を、広志はちょっと楽しみにしてる。
(凛はどんな可愛いカッコで来るかなぁ)
わくわくして駅前で待ってると、「お待たせ〜」という明るい声とともに凛が現れた。
その姿は──
これといって特徴のないピンクのティーシャツに、これまた特徴のない膝上くらいのショートパンツ。
「あれ? 割と地味なカッコだね」
「だってバーベキューでしょ? 動きやすくて汚れてもいい服装にした」
「あ、ああそうだね。それがベストだ」
ああ、確かにバーベキューという点ではそれがベストだ。でもせっかくの滅多にない凛の私服姿なのに、もうちょっと可愛いカッコを見たかった……
とは言うものの、やっぱり凜の私服姿は新鮮だ。それによく見れば、ティーシャツ姿ってことは凜の形のいい胸の形がよくわかるし、ショートパンツは凜のすらりとした太もものラインが綺麗に見えてる。
(これはこれで目の保養に──ああ、ダメだダメだ。スケベ親父みたいになりかけてる)
広志は頭を振って雑念を振り払うと、にっこり笑って凜に声をかけた。
「じゃあ行こっか」
「うん」
凛と一緒に電車に乗り込んだ途端、周りの男性の視線が凜に集まるのがわかる。
「おい、あの子見ろよ。めっちゃ可愛いぜ」
「うわっ、ホントだ!」
あっちの大学生らしき二人組がそう言えば、こっちの高校生らしき三人組は「うぉっ!」だの「すげっ!」だの、感嘆詞ばかりが口から飛び出る。
やっぱり凜は服装なんかまったく関係なく、誰が見ても凄い美少女なんだと改めて実感する。
「やけに地味な男と一緒にいるな。彼氏か?」
「まさか。お友達……ってやつだろ」
いつものお約束とも言える、世の男性方のリアクション。広志にとっては、もう『おはよう、元気?』くらい聞きなれたセリフ。だからいちいち気になることもまったくない。
そんなに飛び跳ねなくても、小さな駅の改札だし、人も少ないからすぐにわかるのに。とにかく伊田さんは、いつも通り元気少女だった。
伊田さんも凜と同じように、バーベキューだからとティーシャツにこちらは膝上丈のジャージ姿にも関わらず、伊田さんを見た通りがかりの男性達は、「おおっ」って声を出したり、伊田さんの姿にぽぉーっと見とれたり。
これまた世の男性陣の視線を一身に集めてる。
それにしてもこの子達。服装からして、どれだけバーベキューに気合が入ってるのかと、広志は苦笑い。
「じゃあ行くか」
「だねーっ! バーベキューに向かってゴー!」
伊田さんが右手の拳を突き上げて、元気な声を出した。マジでバーベキューを楽しみにしてるみたいで、その姿はなんとなく可愛い。
「行きましょ、行きましょ」
凜も楽しげな声を出して、三人で見音の家に向かって歩き出した。
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