第54話:豪華な見音のバーベキュー

 スマホの地図アプリに見音みおんに教えてもらった住所を入力して、アプリ様の言うとおりに歩いて行くと、5分ほどで目的地に着いた。


 周りを白い洋風の塗り壁に囲まれた、二階建ての大きな洋館。背よりも高い立派な格子状の門がある。いかにもお金持ちの家という風情だ。


 門の横のモニターホンを押すと、見音みおんの声がした。


『いらっしゃい。今開けるわね。どうぞお入りになって』


 プツリとモニタホンが切れた後、大きな門がギーっという音と共に勝手に開いた。


「わぁ凄いね。自動扉だよ」

「ホントだーっ! すっごいぞぉー!」


 凛と伊田さんがはしゃぎまくってる。確かに凄い家だ。


 二人が喜ぶ様子はまぁほのぼのとしてていいか、とは思うものの、トラブルなくバーベキューが滞りなく終わりますようにと、広志は天に祈る。


 周りを低い植樹に囲まれた石畳のアプローチを少し歩くと、広い庭に出た。目の前に、外から見えていた白っぽい立派な洋館が建ってる。


「わぁ凄いね。立派なおウチ!」

「ホントだーっ! すっごいぞぉー!」


 二人とも自動の門扉を見た時とほぼ同じセリフ。よっぽど興奮してるに違いない。


 その洋館の玄関扉が開いて、中から白いワンピースに身を包んだ見音みおんが現れた。レースの生地に複雑な模様があしらわれたデザインで、よくはわからないけど高級そうな服だ。


 見音の後ろに続いて、鈴木と佐藤もまるでお付きの人みたいに出てきた。


「皆さま、ようこそいらっしゃい」


 バーベキューなのに白いワンピースって……凛や伊田さんの服装とは大違い。汚れてしまうだろうし、場違い感が半端ない。やっぱり見音の感覚がよくわからない。これがお金持ちってヤツなんだろうか。


 ちなみに鈴木と佐藤はちゃんとティーシャツにジーンズというバーベキューに相応しい格好をしてる。


「八坂さん、その服装は……」


 あまりに場違いなので、広志は思わず疑問が口に出かかった。


「あら、この服装? 空野君はさすがにお目が高いわね。お察しのとおり、フランスの高級ブランド、ヘルメス製よ」


(へっ? お目が高いとか言われても……)


 広志は単に『なぜバーベキューにお上品なワンピースを着てるのか?』を聞きたかっただけだ。ブランドなんて、てんでわからない。ブランド名は超有名だから、聞いたことはあるけど。


「おい、空野のヤツ、ブランドに詳しいみたいだぞ」

「ホントだな。空野って何者なんだ?」


 鈴木と佐藤がひそひそと話すのが聞こえる。『いや、違うし』と思うけど、訂正するのも面倒なので、広志はあえて黙ってる。


「じゃあこちらへどうぞ」


 優雅な身のこなしで見音が案内してくれた方について行くと、そこにはすでに火がついた炭火がセットされたバーベキューコンロが準備されていた。その横には6人が余裕で座れるテーブルと椅子がセッティングされてる。


 そしてバーベキューコンロの横の小さなテーブルの上には、大量の食材が置いてあった。


「なにこれ!?」


 食材を見て凜が思わず大声をあげると、見音は呆れたような顔をした。


「あら? 涼海すずみさんともあろう人が、伊勢エビを知らないの?」


「いや、伊勢エビくらいは、知ってるけど……家庭のバーベキューで、伊勢エビが並んでるのを見るのは初めて」

「ああ、そうなの。我が家では普通ですけど」


 見音は口角を少し上げて、凜に勝ち誇ったような笑顔を向けた。なかなか高慢なキャラ炸裂だ。そして伊勢エビの隣の、お肉が山盛りの皿を指差す。


「ちなみにこの肉はすべて松坂牛よ」

「えぇ~っ!? 松坂牛!? すごぉーい!! じゃあこっちに並んでるのは?」


 今度は伊田さんが驚きの声を上げて、お肉の隣の皿を指差した。伊田さんの賞賛を見た見音は、満足そうな表情で、あまり大きくない胸を張った。


「それは的矢まとや牡蠣っていう高級牡蠣と、その横はアワビ」

「すっ、凄い!!」


 的矢まとや牡蠣とかのブランドは知らないけど、とにかく高級食材が満載で広志は驚いた。こんなバーベキューだとは、想像もしてなかった。


「すごーい!」

「すごいなぁ〜っ!」


 凛と伊田さんも、凄いという言葉とため息しか出ない。三人ともかなりの語彙不足が露呈して情け無いけど、食べたことも見たこともないものばかりなので仕方ない。


「あら、この食材チョイスの素晴らしさをわかっていただけた?」

「あ、ああ、凄いよ」

「うん、凄いね」

「おおっ、凄いぞぉー」


 相変わらず三人とも、凄いしか言えない。まるで小学生並みだ。


「こんなに貴重なものばかり、よく集めたね」


 広志にとっては実物を見るのは初めてのものばかり。素直に感心した。


「あら、嬉しいわ。さすが空野君がお察しのとおり、この食材はすべて三重県産の高級なものばかりにしてみたの」


 み、三重県縛りとなっ!!

 お察しのとおりと言われても、そんなことは全然気づかなかった。


 ──っていうか、そんなことに気づく高校生が、おるかーい! と、広志は心の中で叫んだ。

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