第54話:豪華な見音のバーベキュー
スマホの地図アプリに
周りを白い洋風の塗り壁に囲まれた、二階建ての大きな洋館。背よりも高い立派な格子状の門がある。いかにもお金持ちの家という風情だ。
門の横のモニターホンを押すと、
『いらっしゃい。今開けるわね。どうぞお入りになって』
プツリとモニタホンが切れた後、大きな門がギーっという音と共に勝手に開いた。
「わぁ凄いね。自動扉だよ」
「ホントだーっ! すっごいぞぉー!」
凛と伊田さんがはしゃぎまくってる。確かに凄い家だ。
二人が喜ぶ様子はまぁほのぼのとしてていいか、とは思うものの、トラブルなくバーベキューが滞りなく終わりますようにと、広志は天に祈る。
周りを低い植樹に囲まれた石畳のアプローチを少し歩くと、広い庭に出た。目の前に、外から見えていた白っぽい立派な洋館が建ってる。
「わぁ凄いね。立派なおウチ!」
「ホントだーっ! すっごいぞぉー!」
二人とも自動の門扉を見た時とほぼ同じセリフ。よっぽど興奮してるに違いない。
その洋館の玄関扉が開いて、中から白いワンピースに身を包んだ
見音の後ろに続いて、鈴木と佐藤もまるでお付きの人みたいに出てきた。
「皆さま、ようこそいらっしゃい」
バーベキューなのに白いワンピースって……凛や伊田さんの服装とは大違い。汚れてしまうだろうし、場違い感が半端ない。やっぱり見音の感覚がよくわからない。これがお金持ちってヤツなんだろうか。
ちなみに鈴木と佐藤はちゃんとティーシャツにジーンズというバーベキューに相応しい格好をしてる。
「八坂さん、その服装は……」
あまりに場違いなので、広志は思わず疑問が口に出かかった。
「あら、この服装? 空野君はさすがにお目が高いわね。お察しのとおり、フランスの高級ブランド、ヘルメス製よ」
(へっ? お目が高いとか言われても……)
広志は単に『なぜバーベキューにお上品なワンピースを着てるのか?』を聞きたかっただけだ。ブランドなんて、てんでわからない。ブランド名は超有名だから、聞いたことはあるけど。
「おい、空野のヤツ、ブランドに詳しいみたいだぞ」
「ホントだな。空野って何者なんだ?」
鈴木と佐藤がひそひそと話すのが聞こえる。『いや、違うし』と思うけど、訂正するのも面倒なので、広志はあえて黙ってる。
「じゃあこちらへどうぞ」
優雅な身のこなしで見音が案内してくれた方について行くと、そこにはすでに火がついた炭火がセットされたバーベキューコンロが準備されていた。その横には6人が余裕で座れるテーブルと椅子がセッティングされてる。
そしてバーベキューコンロの横の小さなテーブルの上には、大量の食材が置いてあった。
「なにこれ!?」
食材を見て凜が思わず大声をあげると、見音は呆れたような顔をした。
「あら?
「いや、伊勢エビくらいは、知ってるけど……家庭のバーベキューで、伊勢エビが並んでるのを見るのは初めて」
「ああ、そうなの。我が家では普通ですけど」
見音は口角を少し上げて、凜に勝ち誇ったような笑顔を向けた。なかなか高慢なキャラ炸裂だ。そして伊勢エビの隣の、お肉が山盛りの皿を指差す。
「ちなみにこの肉はすべて松坂牛よ」
「えぇ~っ!? 松坂牛!? すごぉーい!! じゃあこっちに並んでるのは?」
今度は伊田さんが驚きの声を上げて、お肉の隣の皿を指差した。伊田さんの賞賛を見た見音は、満足そうな表情で、あまり大きくない胸を張った。
「それは
「すっ、凄い!!」
「すごーい!」
「すごいなぁ〜っ!」
凛と伊田さんも、凄いという言葉とため息しか出ない。三人ともかなりの語彙不足が露呈して情け無いけど、食べたことも見たこともないものばかりなので仕方ない。
「あら、この食材チョイスの素晴らしさをわかっていただけた?」
「あ、ああ、凄いよ」
「うん、凄いね」
「おおっ、凄いぞぉー」
相変わらず三人とも、凄いしか言えない。まるで小学生並みだ。
「こんなに貴重なものばかり、よく集めたね」
広志にとっては実物を見るのは初めてのものばかり。素直に感心した。
「あら、嬉しいわ。さすが空野君がお察しのとおり、この食材はすべて三重県産の高級なものばかりにしてみたの」
み、三重県縛りとなっ!!
お察しのとおりと言われても、そんなことは全然気づかなかった。
──っていうか、そんなことに気づく高校生が、おるかーい! と、広志は心の中で叫んだ。
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