第4話:超絶美少女と平凡男子

 再び教室内がどよめいた。


 地味でパッとしない男子、空野そらの広志ひろしに投じられた2票のうち一票は、なんと昨年の二年生人気女子ナンバーワンの超絶美少女、涼海すずみ りんが入れたというのだからどよめくのも当然だ。


 りんはやや垂れ目だけどパッチリ二重の綺麗な目を持つ小顔の美少女で、艶々した栗色の髪を肩まで伸ばしてる。胸は大きめで腰は細く、スタイル我が校ナンバーワンだと男子たちは評する。


 一方の広志はブ男ではないにしても、一重の目に、フツーの鼻、フツーの唇といった地味な顔の平凡男子。身長も平均的な172cm。特に優れた特技もない。


 たまたま広志とりんは隣の席で、みんなは二人の顔を交互に見る。


 超絶美少女、平凡男子。

 超絶美少女、平凡男子。

 超絶美少女、平凡男子。


 やっぱり誰が何度見比べても、その事実は変わらない。



 誰かが「そういえば、涼海すずみさんと空野って中学から同じだよな」と言う声が聞こえた。


「ああ、小学校から同じ幼なじみだって聞いたことあるよ」


 誰の声かわからないけど、地味な広志に関するそんなレアな情報を知ってる者もいるんだ。広志は意外なこともあるもんだと驚いて、苦笑いを浮かべた。


 青山が「またかよ」と言って、りんに向かって話しかける。


涼海すずみさん、君もか。幼なじみへの同情票とか、やめてくれる?」

「いいえ、同情票じゃないし」

「へぇ~っ、じゃあ涼海すずみさんは、本気で空野を彼氏にしたいって思ってるとでも?」


 意地悪そうな笑いを浮かべた青山を向いて、りんは笑顔ではっきりと答えた。


「うん、そうだよ!」


 三たび、教室内が大きくどよめく。


「マジ?」

「嘘でしょ?」

「ウチの学年ナンバーワンの人気女子が、あんな地味でフツーの男子を彼氏にしたいって?」

「もしかして、幼なじみの腐れ縁ってヤツ?」

「いやいや空野が何か、涼海すずみさんの弱みを握ってるんでは?」


 ざわめく言葉の、そのすべてがネガティブ。さながらネガティブワードの博覧会だ。ネガティブワード・エキスポ 2019 in 世界高校、絶賛開催中。


(短時間でこんなに色んな表現を思いつくなんて、ウチのクラスの人達はなんて頭の回転が速いんだぁ)


 広志はいたく感心した。


 ──そう、真剣に。マジに。本気で。


 空野広志って人間は、かなりのポジティブ思考──見方によっちゃ、アホかという思考の持ち主なのである。


 青山がまた口を開いた。


涼海すずみさんよ。あんたほどの人気女子なら、彼氏にしたい男子がいるんなら、もう付き合ってるんだろ? 誰だって涼海すずみさんから告白されたら、すぐにオーケーするもんな。その空野があんたの彼氏か?」


 急に教室内がしーんとした。学年人気ナンバーワン女子の涼海すずみりんに彼氏がいるなんて情報は、誰も聞いたことがない。


 もし空野がりんの彼氏なんだとしたら、それはスクープだ。クラス中が固唾を飲んで、りんの言葉を待つ。


「いやぁ、空野君は、私の彼氏じゃない」

「はぁっ? ということは、やっぱ同情票なんだろ? 正直に言えよ涼海すずみさん」


 また青山が絡んでくるのを見て、広志は小声でりんに話しかける。


「もう同情票ってことにしとけよ。じゃなきゃ、りんの人気にも関わるぞ。冴えない男子に投票したなんて、人気女子の価値が下がるって考える人もいるからさ」


 りんは広志を見て、ニコリと笑って顔を左右に振る。


「別にいいよ。人気取りのために、自分の本音を隠す必要なんてない」


 そしてりんは教室内を見回して、大きく明るい声で言った。


「同情票じゃありません! でも空野君は、私の彼氏でもありません! 彼氏になってほしいんだけどね。事情があって無理なんです」


(そこまでカミングアウトしなくっても……

でもそういう真っ直ぐなとこが、りんの良いところなんだよなぁ)


 広志はそう思いながら、ちょっと垂れ目の優しい美少女の顔を眺めていた。


 だけど、もちろん、りんのその発言は、ほとんどのクラスメイトにとっての爆弾発言なわけで。


 あの人気ナンバーワン女子が、実は平凡男子を好きだという衝撃の事実が今、明らかに! 〜しかも付き合いたいのに付き合えない事情とは?〜


 そんな週刊誌の見出しのような事実が発覚したわけだ。


 四たび、いや本日最大のどよめきが教室中を包んだ。

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