第3話:この2票を入れたやつは誰だ?

 地味でぱっとしない平凡男子、空野そらの 広志ひろしに人気投票を入れた女子が二人もいる。その事実に教室内はざわついた。


 しかしひときわ大きな男子の声が響き、みんなは急に黙った。


「誰だよ、この2票を入れたやつ。おふざけで投票するんじゃねえよ」


 ──あ、あれは青山だ。


 広志は二年生の時に同じクラスだったので、彼を知っている。



 ちょっとひねくれたタイプで、すぐに文句を言う青山は、椅子を斜め後ろに傾けて、背もたれにもたれかかりながら、教室内を見回してる。


「おい青山。お前ゼロ票なんだから、どうせお前には何の影響もないじゃないか。何言ってるんだよ」


 誰か男子の茶化すような声が聞こえて、青山はケッと吐き捨てて言い返す。


「ホントはイケメン三銃士の皆さんが文句を言いたいんだろうけどよぉ。そんなことを言ったらこいつら三人は好感度に傷が付くから言えねぇだろ? だから俺が代わりに言ってやってるんだよ。おふざけだか同情票だかしらないけどよ。これで投票が終わらないなんて面倒なんだよ。その2票を入れた二人は、本気で他の者に入れ直せよ」


 教室がシーンとしてる。誰と誰があんな地味でぱっとしない男に票を入れたんだろう。みんながそう思ってるんだろう。


「あ、それ、わ、私です。お、おふざけじゃなくて、本気で空野君に入れました」


 おずおずと手を上げて、恐る恐る立ち上がったのは、広志が二年で同じクラスだった中田 弥生やよい


 背がちっこくてメガネで、決して可愛いとは言えない、とても地味な見た目のオタクっぽい女子。


「ああ、君なんだねー! あはは、なるほど。地味な女の子が地味な男の子を好きだってことね。高望みはしちゃいけないってヤツか」


 青山は弥生の顔を見て、馬鹿にしたような言い方で言葉を吐く。


「いいんだよー弥生ちゃん。だって芸能人の人気ランキングと一緒なんだから、自分がブスでもイケメンに投票したっていいんだよー」


 かわいそうに弥生は、下を向いて消え入りそうな声で呟いた。


「そ、そんなんじゃない。ホントに空野君は、いい人なんです……」

「ちょっと待って、青山。僕は自分が馬鹿にされるのは全然いいけど、気を遣って僕に票を入れてくれた田中さんを馬鹿にするのは許せない。田中さんに謝ってよ」

「あの……中田だけど」


 中田さんは苦笑い。他のクラスメイトもほとんどが苦笑い。広志は一生懸命なんだけど、結構おっちょこちょいなところがある。


 広志にとっては田中という男子が一番の親友で、言い慣れてるもんだからついつい田中という名前が口から出るようだ。


「ああ、ごめん。ホントにごめん! いつも間違ってるね、あはは。青山君! な、か、た、さんに謝ってよ!」


 そこまで慎重に言わなくても、中田なんて言い易い名前を、普通は言い間違えなんかしないだろうに。


 謝れと言われて青山は一瞬広志をギロっと睨んだけど、弥生が震えて泣き出しそうな顔をしてるのを見て、さすがにこれはまずいと思ったようだ。


 焦った顔で、青山は弥生に声をかける。


「あ、あ、ごめん、弥生ちゃん。冗談だから。ホントに冗談だよー!」

「あ、うん。大丈夫」


 弥生はなんとか笑顔を浮かべて、広志の方を見て、感謝を表すようにこくりとお辞儀をした。


「投票してくれてありがとうね、中田さん。嬉しいよ」


 広志の言葉に弥生はニコリと笑顔を返した。



「さあ、あと1票……空野そらのに入れたのは誰なんだよ」


 青山が小さく吐き捨てるように言ったのに答えて、一人の女子が元気に手を上げて立ち上がった。


「はい、はいっ! わたしでーす!!」


 みんなの視線が集まった先できらきらとした笑顔で立ち上がったのは──



 昨年の二年生人気女子ナンバーワンの超絶美少女、涼海すずみ りん、その人であった。

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