第2話:美少女・イケメン勢ぞろいのクラス

 そう。この三年A組には、去年の二年生時の人気総選挙での男女それぞれのベスト3が、なんと全員集結してしまっているのである。


 しかもそのベスト3は、4位以下を圧倒的に引き離すほど、人気が高い男女なのだ。今司会をやってる超イケメン秀才、主意おもいは去年の人気総選挙2位だった男だ。


 つまり去年の学年人気ベスト3が同じクラスということは、今年はその中から男女一人づつしか総選挙に出られないということだ。


 誰がこの熾烈な争いを勝ち抜くのか? 誰だって興味津々でいる。



 誰だってと言ったが、広志はそういうのにまあ、あまり興味がない。だけどみんなが喜ぶならあえて反対はしないというスタンスだ。広志が教室を見回すと、ほぼ全員が「さんせーい!」と声を上げている。


 あ、広志はどこから見ても平凡で冴えない見た目だから、もちろん人気ベスト3ではない。それどころか一年時も二年時も、予備選挙でも票は入ったことがない。


 だけど、だからと言って、人気選挙を嫌がる風でもなく、みんなが楽しけりゃいいのだ。



 ベスト3は男も女も、誰が見てもイケメン、そして美少女揃いだ。この世界高校は非常に才能豊かな生徒が集まってることで有名なのだけど、それだけではなくて見た目偏差値も高い男女が多く在籍している。


 女子の人気ベスト3は、世界高校の3人の美女だから『世界三大美女』と呼ばれてる。そして男子の人気ベスト3は『世界イケメン三銃士』と名づけられている。


(うーん、なかなかに秀逸なネーミングだ。誰が言い出したか知らないけど)



 みんなが賛成したから、配られた紙に『彼氏・彼女にしたい』異性の名前を書いて、投票することになった。主意おもいがそれを集めて、すぐに集計する。


 用紙をバラバラっと見ていくだけで、ほぼ正確に票数をカウントしていく、おそるべき主意おもいの能力のおかげで、1分もしないうちに集計が整った。


 とは言っても、お互いに知らない者も多い中で、世界三大美女と世界イケメン三銃士は誰でも知ってるのだから、ほとんどの票がこの6人に集中するであろうことは、誰しもが予測している。


 三年A組は男子19名、女子20名の総勢39名。男子は好きな女子の名を書き、女子は好きな男子の名を書く。基準は『彼氏(彼女)にしたい異性』。それだけ。


「じゃあ発表します」


 主意おもいの声に、教室中がしーんと静まり返った。

 誰が現段階で人気ナンバーワンなのか。それが今、明らかになる。


「まずは男子。真田さなだ カケル6票。天河てんかわ ヒカル6票。そして僕、主意おもい 兼継かねつぐ6票」


 おおーっ! 教室中がどよめく。この三人の名は、もちろん全員イケメン三銃士たち。それがまったく同票数で並ぶとは。


「ん? 6かける3で18票。あと2票は?」


 誰かがすぐに気づいた。女子は20名いる。小学生でもわかることだ。


「あと2票は、空野そらの 広志ひろし……くんかな」


 広志と主意おもいは同じクラスになったことがない。しかも主意おもいからすると、人気総選挙で見かけたこともない名前だった。


 だから主意おもいは誰だかわからない広志の名前を、戸惑いながら読み上げたのだった。


「だれ、それ?」

「しらなーい」


 クラス39人のうち、広志が同じクラスになったことがあるのは6~7名。帰宅部だし、普段から影の薄い広志のことを知らない者が多くて当然だ。


「うーん、困ったね。男子のクラス委員長を決められない」


 主意おもいは腕組みをして、端正な顔を歪めながら首を斜めに傾ける。


「えっと……誰かな? 空野君って」

「あ、僕だ」


 教室中を見回した主意おもいの言葉に、広志は仕方なく手を上げて立ち上がった。


 クラス中の視線が広志に集まる。


「えっ? あんな地味な子?」

「誰よ、あれ」

「あんなヤツに1票でも入るのって、おかしくないか?」

「だよな。自分で自分の名を書いたんじゃね?」


 教室内がざわざわしだした。


「はい。地味で平凡な空野広志です! でも自分で自分の名前は書いてません」


 男子が男子の名前を自分で、しかも2票も書いたら、票数が合わなくなるからすぐにわかる。だからそんなことをするはずがない。それをみんなはわかった上で、男子も女子も面白がってそんなことを言ってる。


(地味で平凡な僕に票が入ったなんて、まあみんなのリアクションはコレで当たり前だよな)


 広志は特に腹も立てずにニコニコしていた。

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